自然
アカメガシワ - 際立つ鮮紅色の芽吹き
アカメガシワ(赤芽柏)は、トウダイグサ科アカメガシワ属の落葉高木。日本の在来種で、陽当たりの良い山野や道端で自生しているのを普通に見かける。名の由来は、春の芽吹きが鮮やかな紅色で、大きな葉の形や、用途が食べ物を蒸す目的で使う"炊(かし)ぐ葉"であるカシワ(柏)に似るから。実際に、野生種でありながら、柏の葉の代用品として使われた時代もあったようだ。その理由は、何処にでも生える身近な存在だからだ。実は、アカメガシワは代表的なパイオニア植物であり、伐採跡地や土砂崩れなどで出来た裸地に、逸早く定着して旺盛な繁殖力で群落を形成する。その種子を鳥が運ぶので、市街地でも発芽し成長するが、大抵の場合は若木のうちに雑草とともに駆除される。自然のままに生育した成木を植物園で見たときには、樹高が10mを超え、これが同じアカメガシワかと面食らってしまった。今日のアカメガシワの健全な分布状況は、アカメガシワの繁殖力と日本人の勤勉な除去作業の間で、毎年微妙なバランスが取れている状態なのかもしれない。植物としてのアカメガシワは、春の鮮やかな紅色の芽吹きばかりでなく、雌雄異株でそれぞれの風変わりな花や、果実が出来るまでの変容過程など、なかなか魅力的だ。実用的な意味では、葉の器の他、生薬や染料として使われた。古代文学では楸(ひさぎ)として、万葉集(山部赤人)に登場したり、俳句では楸は秋の季語として落葉を表現するらしい。しかし、現代文学でアカメガシワが登場することはない。今どきの日本人には、アカメガシワは数多い雑木の一つなのだろう。 【基本情報】 ・名称:アカメガシワ(赤芽柏、赤芽槲) ・別名:ゴサイバ(五菜葉) ・学名:Mallotus japonicus ・分類:トウダイグサ科 アカメガシワ属の落葉高木 ・原産地:日本、朝鮮半島、台湾、中国南部 ・分布:日本では東北地方南部から沖縄までの山野に自生 ・花言葉:澄んだ心、繊細、謙虚さ、思いやり ■生態 アカメガシワは雌雄異株だが、花が咲くまでは殆ど区別ができない。アカメガシワは、露出した地面に最初に侵入するパイオニア植物だが、若い株の茎は細いので草本のようにしか見えない。しかし、成長は早く、枝は光を求めて上へと伸び、樹高は5~10m程度になる。成木の幹の樹皮は灰褐色で、縦方向に線状の模様が入る。葉は長く赤い葉柄を持ち、茎に対し互生する。若い枝は赤褐色で、表面に星状毛がつく。葉の形は時期によって異なる。花期の葉は広い卵型で先端が尖り、葉の縁は不明瞭な波型になる。葉の裏面は、葉脈が目立ち、多数の小さな腺点がある。芽生えた葉は赤く、浅く3裂した形状になり、赤い星状毛に覆われる。この若い葉の赤い星状毛は、成長するにつれ薄くなり、やがて緑色になる。また、葉表の基部に2個の蜜腺があり、アリなどが集まる。 ■花 雌雄異株のアカメガシワには、雄株に雄花が、雌株には雌花がつく。茎先の葉の脇から、円錐花序が伸びるのは、雌雄共通だ。雄株の場合は、円錐花序には球形の蕾がつき、それらが順次開花する。雄花には萼はあるが、花弁は無く、長い花糸を持ち、先端に黄色い葯をつけた多数の雄蕊が球形のように展開する。雄花は、花序の基部から先端へと咲き進む。 雌株の茎先の葉の脇から、雌花の円錐花序が伸びる。雄花と同様に、雌花にも花弁は無く、萼に包まれた棘のある子房から3本の花柱が伸びる。やがて、この子房が生育して果実になる。 ■果実 雌花の子房が成長して若い果実になり、花序に多数連なる。果実の形は三角状偏球形で、柔らかい棘があり、赤い3本の花柱が残る。果実は蒴果で、褐色に熟すと3裂して、黒い種子を3個出す。この種子をメジロやキツツキなどの野鳥が食べて、離れた場所に拡散する。アカメガシワの繁殖方法としては、この実生によるもののほかに、地下の根から新しい芽(シュート)を出したりして、繁殖能力は高い。特に種子の場合は、何年も地下に埋蔵されている場合でも、35℃前後の温度に数時間経験すると発芽すると言われている。花期は普通は初夏(6~7月)だが、異常に暑い気候が続くと9月でも花をつけることもある。 ■冬のアカメガシワ アカメガシワは冬には落葉し、枝の先端や節々に冬芽がつく。一般の冬芽は芽鱗で覆われることが多いが、アカメガシワの冬芽は淡褐色の星状毛が密生する裸芽だ。 ■アカメガシワと日本人 アカメガシワは、薬用として、生薬(野梧桐:やごどう)となったり、民間療法として利用されてきた歴史はある。最近の研究では、生体の老化を抑制するため、 生体酸化ストレスを中和、無毒化する抗酸化活性を有する素材としての研究が盛んになっている。その成果として、島根県産業技術センターが "アカメガシワ葉の抗酸化活性及び活性成分の解析とヒト効果試験" (2012年、詳細はここをクリック)。 アカメガシワの他に、抗酸化活性に関する報告が多い緑茶、ルイボスティー、赤ワインとの比較をし、総ポリフェノール濃度、抗酸化活性、総抽出成分量を調査した。 アカメガシワの葉の抗酸化活性は緑茶より高く、ルイボスティーの3.9倍、赤ワインの2.2倍と高い値を示した。また、血管強化作用のあるルチンの含有量が多いとされる韃靼ソバと同等の含有量があることが分かり、ルチンの摂取源としても期待できる。更に、アカメガシワによる肌改善効果、体型改善効果をについて、BMI25以上、体脂肪25%以上で肌の弾力が低めの成人女性を対象にオープンラベル試験を行い、体脂肪の低下、キメの改善と美白効果があることが示唆された。 本研究の発表から10年余り経過し、現在のところ、アカメガシワを材料とする食品や薬品は、アカメガシワ茶やサプリメント、漢方薬の材料の一部などだ。原材料のアカメガシワは豊富にあるので、今後は適用製品の拡大に期待したい。
キンミズヒキ - 人知れずワイルドな存在
キンミズヒキ(金水引)は、バラ科キンミズヒキ属の多年草。名の由来は、慶弔時の包み紙にかける赤や白の水引を、タデ科のミズヒキに例えたが、その黄金版の発想でキンミズヒキになったと思われる。この解釈は日本人にしか分からない。学名に含まれる"Agrimonia"は棘の多い植物を意味し、所謂ひっつき虫に由来する。中国では、葉の周辺のギザギザした切れ込みから龍牙草(りゅうげそう)と呼んでいる。日本の山野に自生するキンミズヒキは、夏になるとバラ科らしい5弁の黄色い花が列をなして咲き、複雑な構成をした葉に見惚れ、秋になると鋭い棘のある果実に驚かされる。美しいが、結構ワイルドな植物だ。人間との関係でいえば、春先には山菜として利用されたり、葉や茎に含まれるタンニンや精油が民間療法に使われるが、文化的には詩歌や物語に登場することはない。雑草であるキンミズヒキに対して、日本人は格別な思い入れは希薄なのだろうか。 【基本情報】 ・名称:キンミズヒキ(金水引) ・別名:中国名:リュウゲソウ(龍牙草) ・学名:Agrimonia pilosa var. japonica ・分類:バラ科 キンミズヒキ属の多年草 ・原産地:日本、アジア、東ヨーロッパ ・分布:日本各地の山野や路傍に自生 ・花言葉:しがみつく ■生態 キンミズヒキは、雌雄同株で、花は両性花のみ。地下には根茎があり、茎は株立ちてよく枝分れし、こんもりと繁る。草丈は生育環境により30~150cmになる。茎には毛が密生し、葉柄の基部には鋸歯のある托葉がある。葉の構成は奇数羽状複葉だが、小葉の大きさはバラバラで規則性はない。この複雑な複葉は、茎に対し互生する。托葉の存在もあり、株の中の葉の構成は階層的で、量的にも多い。小葉は菱状長楕円形で、先端が尖り、葉の縁には粗い鋸歯がある。葉の裏面は白味を帯び、裸眼では見えないほどの腺点が多数ある。 ■花 花期は夏から秋にかけてだが、株によって変動する。枝分れした茎先に、蕾が穂状に並ぶが、短い花柄があるので、形式としては穂状花序ではなく総状花序にあたる。生育は総状花序の基部から始まるので、花序に果実、花、蕾が順番に並ぶこともある。キンミズヒキはひっつき虫なので、蕾の段階から先端が巻いた小さな棘がつく。花は両性花で、黄色い花弁が5枚、雄蕊が12本程度、中心に雌蕊は1本ある。萼は5裂し、その先端が花弁の隙間の位置にあるので、正面からも見える。 ■果実 花が終わると、花弁が落ち、雄蕊が萎れ、萼が筒のようになり、果実の成長が始まる。果実は円錐形で先端に突起がある萼筒の中で成長し、かぎ状の棘も伸び、ひっつき虫になっていく。果実は痩果で、成熟した萼筒の中に、1個入っている。キンミズヒキの繁殖は、自生株の場合は種子による実生が基本だが、植栽では株分けや挿し木も可能だ。 ■名前つながりのミズヒキ ミズヒキ(水引)は、タデ科イヌタデ属の草本。長い花序に花が並ぶことから、ミズヒキもキンミズヒキも日本では名前つながりで同類として扱われることがあるが、全く別の植物。ミズヒキの仲間でも、萼片が赤いものをミズヒキ、白いものをギンミズヒキとして区別することがある。 ■キンミズヒキと日本人 人間との関係が希薄そうなキンミズヒキだが、人間の最大の関心事である老化に対して有効との検証成果が発表された。化粧品や健康食品の研究開発企業ファンケルが、"人の血液中における老化細胞定量法の確立とキンミズヒキ由来アグリモール類摂取による人での老化細胞除去作用の検証"なる記事を公開した(詳細はここをクリック)。 この研究は、2段階で進められた。先ず、日本人の血液中の老化細胞を正確に測定する新しい技術を開発した。指標となるのは、老化関連βガラクトシダーゼ(SA-β-Gal)で、老化細胞と若い細胞を区別し、定量化した。20代から60代の日本人107人を対象に、老化細胞の量が加齢とともに増加することを確認した。 次に、中高年層を対象に、キンミズヒキ由来アグリモール類の摂取が老化細胞に与える影響を臨床試験で検証した。8週間の試験で、男性群においてキンミズヒキ摂取群が老化細胞の割合を有意に減少させる結果が得られたとのこと。現段階では、細胞の老化現象の解明と、その老化細胞の除去手段を見つけたところだが、老化を抑制できる時代が来るのではないかと期待をもたせる。 ファンケルが何故キンミズヒキに注目したのかについて、面白いエピソードがある(詳細はここをクリック)。加齢と脳の関係について研究してきた渡邉研究員が、研究所の4000種類以上のある食品素材ライブラリーの中から、1日数十枚のプレートを手作業で評価する中で、幸運な偶然でキンミズヒキに出会ったとのこと。この成果により、"チーム・キンミズヒキ"が結成され、研究が加速されているようなので、次の発表が楽しみだ。
キクイモモドキ - 名は芋でも、姿は向日葵
キクイモモドキ(菊芋擬)は、キク科キクイモモドキ属の多年草。北米の原産で、日本へは明治中期に渡来し、観賞用に栽培されたが、逸出して自生もしている。キクイモモドキについて語るには、キク科ヒマワリ属のキクイモへの言及は避けられない。キクイモも北米原産の植物だが、その地下の大きな塊茎が食用や薬用にも使われ、広く利用されている。一方、キクイモモドキはやや小型で花や株の様子がそっくりだが、有用な塊茎ができないため、"擬き"つきの不名誉な名がついた。そればかりか、英語圏では"False sunflower"(偽の向日葵)と呼ばれている。一方、学名の"Heliopsis(太陽のような) helianthoides(向日葵のような)"は、花の美しさを客観的に表現していると思う。よく見るとキクイモモドキの花は、花弁は広くて明るく、中心部は盛り上がり、立体的で周密な印象を受けるので、観賞用に植栽されるのも納得できる。人間にとって実用的な利点はないとしても、小さな向日葵を思わせるキクイモモドキは、新たな夏の風物詩と言って良いのかもしれない。 【基本情報】 ・名称:キクイモモドキ(菊芋擬 ) ・別名:シュッコンヒメヒマワリ(宿根姫向日葵)、ヒメキクイモ(姫菊芋)、ヘリオプシス ・学名:Heliopsis helianthoides ・分類:キク科 キクイモモドキ属(ヘリオプシス属)の多年草 ・原産地:北米 ・分布:日本へは明治中期に渡来し、全国各地で栽培、若しくは逸出して野生化 ・花言葉:細やかな気配り、憧れ、崇拝 ■生態 キクイモモドキは、キクイモのように地下に塊茎を作らずに、地下茎から地上に茎が直立して伸びる。株は群生し、草丈は比較的低く1m程度。茎の葉腋から、分岐して複数の花柄が伸びる。葉は、茎に対生する。花柄は長く、葉はつかないので、黄色い花が葉の繁みから浮き上がったように見える。葉は細長い卵形で先端が尖り、葉の周囲には粗い鋸歯がある。 ■花 キクイモモドキの花のようなものは、頭状花序で、多数の舌状花と筒状花からなる。開花前の蕾を正面から見ると、中央には多数の筒状花、その周りに舌状花、それらを総苞が囲んでいる様子が分かる。総苞は浅い鍋形で、総苞片が2~3列に並び、頭花を支えている。一重咲きの花は、舌状花の数が8~15個程度と言われているが、舌状花数が20個を超える花も良く見かける。これを八重咲きというのは大げさな気はする。花期はキクイモより早く、6~10月頃。 次に、頭花の各部分の機能を調べる。他のキク科の花と同様に、キクイモモドキの頭状花序は多くの舌状花と筒状花の集合体だ。頭花の中央部にある鱗状のものが開花前の筒状花で、周辺の花弁を含むものが舌状花だ。舌状花の雌蕊は花弁の基部にある糸状のもので、雄蕊はなく、雌花だ。舌状花は、黄色の大きな花弁が昆虫を集める機能を持つが、果たして舌状花の雌蕊が他の花の花粉を受け入れて果実をつくることはできるのだろうか。この舌状の内側に暗褐色の棒のようなものがあるが、これは筒状花の葯筒であり、この内側に花粉がある。葯筒の下から雌蕊が伸びて、花粉を押し上げる。この過程で両性花の筒状花は、雄性期の役割を終える。その後に雌蕊が活性化し、柱頭が2裂して伸び、花粉を受け入れる雌性期となる。雄性先熟により自家受粉を避けるためだ。時間の経過とともに、筒状花の暗褐色の葯筒の位置は内側に進み、葯筒がなくなる頃には、筒状花部分が山のように盛り上がる。 キクイモモドキは虫媒花なので、様々な昆虫が集まる。黄色く大きな頭花は誘虫灯であり、広い頭花の上は心地よい足場となっている。蜜を求め、花粉を運ぶミツバチやモンシロチョウ、チャバネセセリ、花を食料とするためかツユムシなども集まり、賑やかだ。 ■果実 花が終わると、果実ができる。果実は痩果で、冠毛は無く、筒状花だった領域に突き刺さるように痩果が残る。キクイモモドキの繁殖方法としては、自生株の場合は種子による実生だが、栽培の場合は 株分けや挿し木も可能だ。 ■近縁種 キクイモ キクイモ(菊芋、学名: Helianthus tuberosus)は、キク科ヒマワリ属の多年草。北アメリカの原産で、菊に似た花をつけ、地下に芋(塊茎)が出来る。食料、飼料、アルコールの原料などに利用される。キクイモモドキとは、花は良く似ているが、花期が9~10月でキクイモモドキよりも遅く、上部の葉のつき方が互生だったり、葉の鋸歯の形、草丈(~2m)などから区別が出来る。 ■キクイモモドキと日本人 キクイモモドキは、園芸種として渡来した外来種であり、現在は市街地の野原にも逸出し、全国各地で自生化している。繁殖力がそれほど旺盛ではないので特定外来生物の指定に至っていないが、北海道ではレッドリストではなくブルーリストに掲載され、要注意外来生物となっている。しかし、本来の園芸植物としての評価は思いのほか高い。商売上手の園芸店では、キクイモモドキをそのままの名前では販売しない。園芸店では、ヒメヒマワリとか、ヘリオプシスと呼んでいる。ヒメヒマワリは外観上のイメージから名をつけらと思われるが、実は別種のヒマワリ属の小さな向日葵のような花はあるが、それらに伍してもキクイモモドキが最も向日葵らしいからだろう。また、ヘリオプシスは、学名の一部は helios(太陽)と opsis(似ている)の合成語で、格調高い横文字の名前になっている。これなら売れるだろう。今や日本人にとって、キクイモモドキは庭や公園の植栽でも、路傍の自生種でもこだわり無く楽しめる植物になった。
ザクロ - 漂う特別な存在感
ザクロ(柘榴)は、ミソハギ科ザクロ属の落葉小高木。原産地は様々な見解があるが、イランのザクロス山脈地方との説がある。当初は果実として栽培され、その後ギリシャ・ローマ時代には地中海沿岸へ、イスラム圏には言及がある聖典クルアーンの時代に広がり、インドや中国には伝統的医療健康法のアーユルヴェーダが推奨する滋養薬として重用された。ザクロは、世界的には、食用、薬用、そして宗教的な側面を持ちながら、広く普及した。日本へは、平安時代に中国から薬用目的で渡来したが、江戸時代には観賞症の園芸種を創出したり、現代では健康志向の食品としても利用されている。植物としてのザクロの見どころは、初夏の真紅の花、盛夏の球形に膨れた果実もだが、晩秋の裂けた果実からあふれる多数の赤い果肉は、他の植物にないインパクトが有る。これが子孫繁栄の象徴になったり、神話の中では禁断の果物になったりする感覚は、日本人には想像し難い点もあり異国風な存在だと思う。そんなことはお構いなしに、ザクロは日本の庭や公園の片隅で普通に生き続けている。 【基本情報】 ・名称:ザクロ(柘榴、若榴) ・別名:セキリュウ(石榴) ・学名:Punica granatum ・分類:ミソハギ科 ザクロ属の落葉小高木 ・原産地:西アジア(イランのザクロス山脈地域) ・分布:日本には平安時代に渡来し、現在は東北地方から沖縄に植栽される ・花言葉:円熟した優雅さ ■生態 ザクロは雌雄同株で、太い幹の上方で枝が曲りくねってつき、こんもりとした樹形になる。幹は灰褐色で、樹皮は不規則にめくれる。春になると、冬芽から芽生えたばかりの葉は、赤味を帯びる。やがて葉は光沢のある楕円形となり、枝に対し対生する。また、枝先はトゲ状になる。 ■花 今年伸びた枝の先に、赤く球形の蕾がつく。蕾が成長すると、形状は楕円体に膨らみ、これが花を支える萼の機能を果たす。蕾の先端が概ね6つ(5~9の範囲)に裂け、折り畳まれた花弁が覗く。この状態が、所謂ウインナソーセージのタコさんの状態だ。 開花が始まると、中央部には多数の雄蕊が見え、花弁は薄く皺くちゃのままで少しずつ開いていく。花は両性花で、花弁は6枚、そして1本の雌蕊を多数の雄蕊が囲む構造になっている。ところが、雌蕊がなく、雄蕊しか無い雄花も散見される。ザクロの花には、稔性の両性花と不稔性の雄花の2種類が存在する。 ■果実 両性花の花弁が落ち、雄蕊や雌蕊が枯れると、花托が発達して果実になる。成長の過程で果実は球形に膨らみ、果皮は黄緑色に赤味がかかる。秋の熟成期には、果皮は赤くなる。やがて、黄葉の時期になると、果実が不規則に裂け、赤く透き通った果肉の粒が現れる。冬には果実が枝に残り、果肉に含まれる種子が、鳥に食べられて拡散される。 ■ザクロの園芸種 赤いザクロの花を、白色に置き換えたような園芸種がある。代表的なものにスイショウザクロ(水晶柘榴、別名:白実柘榴)がある。果肉の色も白いらしい。民家の庭で、時々見かける。 八重咲きに改良されたものに、ハナザクロ(花柘榴、別名:八重石榴)がある。一見すると、とても柘榴と思えない豪華さだが、八重咲きの宿命で結実はしない。 ヒメザクロ(姫柘榴)はザクロと同属の落葉樹(学名:Punica granatum 'Nana')で、樹高は1m未満。花や果実などはザクロとそっくりだが、全てが相対的に小さい矮性の栽培種。実物を見ると、スケール感で区別ができる。 ■ザクロと日本人 ザクロは、古代から、また現代でも薬用としての効果があると信じられてきた。ジュースや抽出物などのザクロ製品は、心疾患、高血圧、高コレステロール血症、癌、糖尿病など様々な症状・疾患の予防や治療に良いとされてる。これに対し、厚生労働省の"「統合医療」に係る 情報発信等推進事業"の記事(詳細はここをクリック)では、"健康に対するザクロの効果に関する強固な科学的根拠は多くありません"とのこと。ザクロの癌に対する科学的根拠を調べてみると、ザクロはフルーツジュース(プルーン、ブルーベリー、グレープ、アップルなど9種)の中で最も高い抗酸化作用を示し、活性酸素が原因となる生活習慣病に対する予防効果が期待できること、また前立腺癌患者にザクロ果汁を与えると、PSA値(前立腺特異抗原)の増加時間を抑制できるなどの効果がある(詳細はここをクリック)。しかし、これらの例は、治療薬というよりもサプリメントに近いものかもしれない。更に研究が進めば、別の局面も見えてくるかもしれないが、この分野でも、ザクロは神秘的な存在のようだ。
コムラサキ - 紫を操る変幻自在の魔術師
コムラサキは、シソ科ムラサキシキブ属の落葉低木で、日本の在来種。同属の植物で、紫色の果実が美しく、平安時代の女流作家紫式部になぞらえて名付けられたムラサキシキブに似ていて、全体に小型なためコムラサキと呼ばれるようになった。ただ、数あるムラサキシキブ属の中でも、コムラサキは独自の世界観を与えてくれる。幹から長く伸びた枝を観察していくと、花の時期には枝に沿って一列に蕾や花、若い果実が空間的に配置され、時間の経過とともに成長すると、それらが移動していくように見える。果実の時期にも、枝に並ぶ鈴なりの果実が黄緑、白、紫に並んで見事なグラデーションをつくり、それが時間の経過とともに果実の配色が空間的に移動していく。観賞樹としての価値は、江戸時代の植木屋が気がついており、実紫(みむらさき)、玉紫(たまむらさき)などと呼んでいた。今日では、自生種を見かけることはほぼ無いが、観賞用に庭や公園に良く植栽されている。園芸界ではムラサキシキブと言えば、本家のムラサキシキブではなく、コムラサキのことを指すようだ。しかし、文学や実用的には特記すべきものがなく、観賞以外の接点は希薄なのは何故だろう。 【基本情報】 ・名称:コムラサキ(小紫) ・別名:コシキブ(小式部) ・学名:Callicarpa dichotoma ・分類:シソ科 ムラサキシキブ属の落葉低木 ・原産地:日本を含む東アジア ・分布:日本では本州(福島県以南)から沖縄に自生する他、各地で庭木として植栽 ・花言葉:気品、知性、聡明 ■生態 コムラサキは、雌雄同株で、地面から数本の幹が株立する。樹高は人間の高さ程度で、幹が立ち上がり、上部で枝が広がってこんもりとした樹形になる。幹の樹皮は、緑がかった褐色で、縦の皮目がある。若い枝は紫色を帯び、表面に星状毛がつくので、手触りは多少ザラザラする。葉は、枝に対生し、葉の形状は細目の長楕円形で、葉の先の半分に鋸歯があり、先端は尖る。葉の裏には、透けて見える小さな腺点が点在するが、これらは何を分泌しているのだろうか。 ■花 コムラサキの花は両性花。枝の葉の付け根から少し先の部分から両側に花軸を出し、散形花序を形成する。枝の基部に近い方から順番に成熟するので、同じ枝上に果実、花、蕾が並ぶこともある。開花が近づくと、蕾の先端は薄紫色になる。蕾は片側の花軸に10~20個つき、椀状の萼を介して花軸につながる。開花すると、薄紫色の花冠は4裂して平開し、雄蕊と雌蕊は花冠の外に突き出る。花には、黄色の葯を持つ雄蕊が4本、雌蕊は1本で更に長い。 春から秋にかけて、コムラサキの枝には、様々な昆虫が集まる。花の時期には花粉を運んでくれるハチやチョウが集まる。コムラサキの花は密が少ないようだが、花冠の上に突き出した雄蕊の黄色い葯が目立ち、これが昆虫を誘導するらしい。また、オンブバッタの大きな雌が小さなオスを載せて、葉の上を徘徊していた。これは、葉を食べに来たのだろうか。珍しいものとしては、果実に産みつけられたクサカゲロウの卵があった。これは仏教経典に由来する優曇華(うどんげ)と呼ばれ、3日で孵化する。コムラサキの果実をホテル代わりにでも使ったようだ。 ■果実 花が終わり、花冠や雄蕊、雌蕊が枯れ、子房が膨らみ黄緑色の果実ができる。枝の基部に近い果序から生育するので、枝の上でほぼ等間隔に並ぶ果実の果皮の色は、緑、白、紫へと変化する様子が一目で分かる。果実は、完熟すると果皮は紫色になる。果実は核果で、内部に4個の胚珠を含む。秋になると、葉は淡く黄葉し、やがて落葉する。冬になると果実は萎れ、落下したたり、そのまま枝に残るものもある。メジロなどの野鳥が実を食べ、遠方に拡散する。 ■白色品種 シロミノコムラサキ シロミノコムラサキ(白実小紫)は、コムラサキと同じ種で、花と果実が白い変種。コシキブ(小式部)、シロコシキブ(白小式部)、シラタマコシキブ(白玉小式部)とも呼ばれる。庭木として、植栽される。 ■近縁種 ムラサキシキブ ムラサキシキブ(紫式部、学名: Callicarpa japonica)は、コムラサキと同じシソ科ムラサキシキブ属の落葉低木であり、日本各地の山野や林などに自生する。花と果実はコムラサキと良く似ているが、外観上の相違点としては、枝は下垂せずに伸びること、葉の幅は太く全縁に鋸歯があること、花軸は葉の付け根から出ること、果実の密度は比較的疎らなことなど。樹木全体の雰囲気は、コムラサキより大柄で野性味があるので、判別は比較的易しい。 ■コムラサキと日本人 現代の日本人にとっては、コムラサキは春から秋まで、紫色を楽しむため観賞樹である。春に花を愛で、秋に果実に楽しむだけでは、この感覚は分ったと言えない。初夏から秋にかけて、コムラサキの花と果実を定点観測し、動画にまとめた研究者がいる(詳細はここをクリック)。作者のKAWAKUBO氏も、コムラサキの美しさは、空間的且つ時間的な領域で捉えなければ理解出来ないと考えたのだろう。また、ここでムラサキシキブは自家不和合性なので果実のつきが疎らになるが、コムラサキは自家受粉が可能なので鈴なりの果実ができるとの事実も明らかになった。美しく華奢な印象を与えるコムラサキだが、なかなか隅に置けない存在でもある。
ニシキギ - 美点も特徴も謎も多い
ニシキギ(錦木)は、ニシキギ科 ニシキギ属の落葉低木で、日本の在来種。名の由来は、真っ赤で鮮やかな紅葉の美しさを"錦"に例えたため。スズランノキ、ニッサボクとともに世界三大紅葉樹と呼ばれている。他の顕著な特徴としては、枝につく翼だ。緑色の葉の延長のような翼に出会う機会はあるが、コルク質の翼はニシキギだけだ。また、葉に隠れて咲くような、小さな黄緑色の花は見落としがちだが、秋に熟す橙色の果実は美しく、庭や公園に植栽される理由は納得できる。ニシキギは、在来種であり由緒ある名前なので、平安時代の"倭名類聚鈔"や、江戸時代の貝原益軒による"大和本草"にも登場する。しかし、木材や民間薬としての一部の用途はあっても、葉や果実などは食用にはならず、詩歌や文芸などには縁がなく、やや存在感は薄い。また、生態的に株や花に雌雄の区別ができるのかとの疑問もあり、謎も多い植物だ。 【基本情報】 ・名称:ニシキギ(錦木) ・別名:ヤハズニシキギ(矢筈錦木)、カミソリノキ(剃刀の木) ・学名:Euonymus alatus ・分類:ニシキギ科 ニシキギ属の落葉低木 ・原産地:日本を含むアジア東北部 ・分布:日本では、北海道、本州、四国、九州の低地、山野に自生する他、庭に植栽される ・花言葉:危険な遊び、深い愛情、あなたの運命、あなたの定め、あなたの魅力を心に刻む ■生態 諸説あるが、ニシキギは雌雄同株と思う。幹は地面から立ち上がり、上方で枝分かれするので、樹形は広がりやすく、樹高は3m程度になる。幹の樹皮は灰褐色で、縦に筋がはいる。冬芽が出る頃には、若い枝には節ごとに方向を変えながらコルク質の板状の翼がつく。この冬芽の配置からも分かるように葉は枝に対生し、葉の形状は長楕円形で、細かな鋸歯があり、先端が尖る。この葉は、秋になると鮮やかに紅葉する。 ■花 初夏に葉の脇から集散花序を出し、数個以内の小さな黄緑色の花をつける。雄花らしきものは。花盤の中央に雌蕊らしき突起があり、周辺に4本の雄蕊があり、その先に黄色い葯がついている。花盤の外側には4枚の小さな花弁とその下に萼がある。一方、雌花らしきものは、雌蕊の先が多少長く、雄蕊の葯がない程度の違いだ。枝につく雄花と雌花の割合は、雄花のほうが多いように思う。花の後になる果実の数も、ほぼ花の数に相当するように見える。雌花だけが果実になるとすれば、果実の数はかなり少なくなる筈だ。そうすると、雄花らしき花は、実は両性花なのかもしれない。若しくは、雄花と雌花の構造は良く似ているので、両性花が時期によって雄性になったり雌性になったりしているのかもしれない。この点は、様々な見解があり謎が残る。 ■果実花の後には、若い果実がつく。果皮は黄緑色だが、次第に丸みを帯びてくる。熟すにつれ、果実の外皮は紫色を帯び、自然に裂けて橙色の仮種皮が露出する。 果実は蒴果で、1~2個の分果からなり、その中に種子がある。花と同様に、果実も翼付きの枝に鈴なりになる。果実には、人間には有害な成分(トリグリセロール)を含むが、野鳥が果実を食べて仮種皮を消化吸収して、種子を排泄して、種子が拡散される。 秋になると紅葉するが、その色調は環境によって黄色、ピンク、赤などに変化する。このため、紅葉が始まった頃は、1本のニシキギの中でも、陽当りの程度によってグラデーションになることもある、陽当りの良い場所では、葉は真紅に染まり見事だ。 ■ニシキギと日本人 ニシキギの特徴といえば、赤く美しい果実や紅葉を思い出すが、枝につくコルク質の翼は、同じニシキギ種(Euonymus alatus)のケコマユミ、ケニシキギ、コマユミ、オオコマユミなどにはなく、ユニークなものだ。 このニシキギの翼について、興味ある解説が日本植物生理学会の記事に載っていた(詳細はここをクリック)。この翼はワインの栓のコルクと同質のもので、枝についていても光合成の役には立たない。コルク層の発達が特に生存・繁殖にとって不利でも有利でもなかったため、所謂中立的変異として残ったらしい。生物の形態の進化は、用不用説だけで決まるものではないらしい。また、園芸界の都市伝説では、ニシキギには、翼ができる個体とできにくい個体があり、野生種よりも園芸種の方がきれいな翼になりやすいとのこと。これもニシキギの謎の一つに加えておこう。
キバナコスモス - 独自な存在感
キバナコスモスは、キク科 コスモス属の一年草。コスモスと言えば、一般的に桃色の花を咲かせるオオハルシャギク(コスモスの正式名)を思い浮かべるが、キバナコスモスはこれとは同属別種だ。このため、姿形はよく似ているが故に、黄色の花が咲くキバナコスモスは、黄色いコスモスだと誤解され易い。両者は、原産地も、花の時期も同じで、混植されていても何の違和感は感じないほどだ。しかし、良く観察すると、優美なコスモスに対し、キバナコスモスは花は多少ゴツゴツし色は限定的で、やや野性的な印象を与える。もう一つキバナコスモスに似た黄色い花がある。それは特定外来生物として名高く、初夏に群生して黄色い花を咲かせるオオキンケイギクである。夏から秋にかけて咲くキバナコスモスとは、花期や葉の様子が異なるので区別は可能だが、あたり構わず跋扈するオオキンケイギクと比べると、なんと慎ましい存在だろう。キバナコスモスの遠くからでも目につき易く、丸く明るい花とその中心に突き出て足を止めや易い雄蕊や雌蕊は、どのような昆虫にとっても居心地の良い世界だ。キバナコスモスは利他主義者なのかもしれない。 【基本情報】 ・名称:キバナコスモス(黄花コスモス、黄花秋桜) ・別名:英語では yellow cosmos、sulphur cosmos ・学名:Cosmos sulphureus ・分類:キク科 コスモス属の一年草 ・原産地:メキシコ ・分布:スペイン経由で、大正時代初めに日本に園芸植物として渡来し、野生化もしている ・花言葉:野生的な美しさ、野性美、幼い恋心 ■生態 キバナコスモスは、種子により繁殖する1年草。種子が落ちた場所で群生領域を広げていく。茎は直立し、上部では分岐を繰り返し、葉の脇から長い花柄を伸ばしてその先に頭花をつける。茎は紫色がかったり、白い毛が疎らに生えるものもある。葉は対生し、形状は2~3回羽状複葉であり、コスモスのように針状に細くはならない。 ■花 茎の葉の脇から伸びた長い花柄によって、花は茎の先端につく。蕾は外側の緑色の8枚の萼に相当する総苞片と、そのすぐ内側で中間位置にある赤味がかった黄色い総苞片に包まれている。開花すると、この2重の総苞が頭花を支えているのが分かる。キバナコスモスの頭花は、キク科の植物らしく、頭状花序を形成し、多数の舌状花と頭花を含む。開花を始めた蕾は外側に総苞があり、その内側に橙色の舌状花の花弁、中心部に筒状花が見える。開花すると、頭状花は周辺の8個の舌状花と、中心部の多数の筒状花から構成されているのが分かる。しかし、舌状花には雌蕊や雄蕊は無く、花被片だけがある。筒状花は両性花で、5本の雄蕊が1つの筒の中に収まり、この葯筒から花粉が放出された後に、漸くして雌蕊は高く突き出し、やがて柱頭が2裂して他の花の花粉を受け入れる。この雄性先熟により、自家受粉を避けている。 キバナコスモスは野生種から園芸種へ育種された歴史があるので、花の姿のヴァリエーションは豊富。花の色では、標準の橙色の他、黄色や朱色がある。花弁のつき方では一重咲きの他に、二重咲きがあるが、八重咲きのような複雑なものは見かけない。 昆虫からすると、キバナコスモスの花は、明るく大きくて視認性が良く、花弁を敷き詰めた広い足場と中央に突き出た密を含んだ筒状花は、絶好の遊び場、否、仕事場だ。多くの昆虫が訪れ、何時も賑やかだ。 ■果実 花が終わると、舌状花の花弁が枯れ、筒状花の雄蕊が落ち、果実として成長を始める。若い果実は、筒状花の成長した子房の集合体で、先端に雌蕊の柱頭の名残の冠毛がつく。果実は痩果で、種子が放射線状につき、形状は嘴状のものもついて長く、その先端に2つの棘がつく。この棘は、引っ付き虫のコセンダングサのものほど強力ではなさそうで、効果の程はわからない。基本的には、生育領域周辺に種子が落ち、春に発芽するのだろう。 ■良く似た花 キバナコスモスに似た花を2つ挙げる。1つは、文字通り、黄色いコスモスだ。コスモスとキバナコスモスは同じキク科コスモス属に分類されるが、別種のため交配はできない。黄色いコスモスは、コスモスの突然変異でできた品種"イエローガーデン"で、玉川大学の研究成果だ。当初はやや薄い黄色だったが、更に改良を進め、より黄色味の強い"イエローキャンパス"も開発された。また、筒状花の高さは、キバナコスモスのほうが大きい。そして、葉の形はコスモスのほうが針のように細く、区別がつく。 もう1つは、キク科ハルシャギク属のオオキンケイギク。日本の侵略的外来種ワースト100に選定されるほど、悪名高くなってしまった。花はそっくりで、敢えて言えば花弁の先端がよりギザギザしていること。明確に区別するには、葉の形で分かる。キバナコスモスの葉は細かく切れ込みがあるが、オオキンケイギクの葉は細長く、ヘラのような形をしている。 ■キバナコスモスと日本人 キバナコスモスは、大正期に園芸種として渡来して以来、基本的な立ち位置に変化はない。庭園から逸出して自生しているものもあるが、オオキンケイギクとは比較にならない程度だ。また、立川の昭和記念公園では秋になると、恒例の色とりどりのコスモス畑が出現する。キバナコスモスには、そのような器量はない。歴史にも、文学にも、食用や薬用にも登場しない珍しい植物かもしれない。外来種で地味な植物だが、日本の自然環境に同化し、昆虫を集め 生態系のバランスを保つ役割を果たしているのであろう。
オオキンケイギク – 歓迎され嫌われた宿命
オオキンケイギク(大金鶏菊)は、キク科ハルシャギク属の宿根草。北アメリカの原産で、日本には明治中期に鑑賞目的で移入された。草丈が数十cm程度で扱い易く、見映えのする黄色い花は印象的だ。庭園ばかりでなく、道端や河原、土手などに植栽して土地の緑化にも利用された。しかし、繁殖力が高いために、第2次世界大戦後には野生化して生育領域が広がり、在来植物への影響が危惧された。このため、2006年に外来生物法に基づき特定外来生物に指定され、栽培や販売などが原則禁止された。現在では、全国各地の地方自治体は、県市町村ごとのレベルで、オオキンケイギクの駆除運動を推進している。インターネットでオオキンケイギクを検索すると、植物の説明よりも、自治体による駆除推進記事の多さに驚く。日本の侵略的外来種ワースト100にも選定され、現状は抜き差しならぬ状態になっている。当初は歓迎されていたが、オオキンケイギクが内在する高い繁殖力を見抜けず、多種多様な日本の植物相に影響を与えるためと言う理由で、わずか100年余りで駆除の対象になった。この責任は、オオキンケイギクの性格を理解できなかった人間にある。 【基本情報】 ・名称:オオキンケイギク(大金鶏菊) ・別名:コレオプシス(学名由来)、特攻花(鹿屋基地周辺に自生していたので) ・学名:Coreopsis lanceolata ・分類:キク科 ハルシャギク属の宿根草 ・原産地:北アメリカ ・分布:日本、台湾、豪州、サウジアラビア、南米等に移入分布 ・花言葉:きらびやか、いつも明るく、新鮮で華やか、上機嫌、 陽気 ■生態 オオキンケイギクは、この十数年来当地でも増えているような気がする。例えば、舗装道路の脇のコンクリートの隙間や、台地上の学校のグランドの法面の斜面でもよく見かける。 また、陽当りの良い地表では、地下に根が張っているためか、一面に繁茂する。この状態で花期を迎えると、黄色い花園に変化する。しかし、それも束の間、駆除運動のためか草刈り機で刈り取られる。しかし、この方法では地下の根は残るので、来年も多分この場所に生えてくるのだろう。 オオキンケイギクは種子繁殖も、地下茎や根による栄養繁殖も可能だ。春になると、多数の茎が束になり上に向かって伸びる。草丈は数十cmになり、葉は下方には根生葉が、上方には茎葉がつく。根生葉には長い葉柄があり、3か5枚の小葉に分裂する。一方、茎葉は細くて長い形をしており、茎に対生する。 ■花 茎の中程で2~3本に分岐して長い花柄ができ、その先に蕾がつく。花柄の先には、8裂した外側の総苞片の上に蕾が載る。蕾の表面の8つの茶色の三角部分が内側の総苞片になる。花を横から見ると、外側の総苞片の先に筒状なった内側の総苞片があり、頭花はこの二重の総苞片に支えられているのが分かる。花はキク科らしく、頭花が頭状花序を構成し、中心部の筒状花と周辺の舌状花の集合体だ。舌状花の花弁には筋(花脈)があり、その先は不規則に4~6裂する。花の中には、花弁が重なって咲く、二重咲きの花もある。 ■果実 花が終わると、順次総苞が果実へと変化していく。初めは緑色だが、完熟すると焦げ茶色に変化する。この中に多数の種子が含まれる。種子には、他のキク科の植物に多い羽毛のような羽根はなく、小さな翼がついている。風が吹くと、花柄だった長い茎がゆらゆらと揺れ、付近に種子がこぼれ落ちるのだろう。このようにして生息領域を広げていく。 ■オオキンケイギクと日本人 現在では、侵略的外来植物として指名手配状態になっているオオキンケイギクだが、少しは人のためになることは無いのだろうか。岐阜大学の広報に"伐採が推奨されている侵略的外来植物に 抗がん作用のある物質が含まれていることを解明"と言う記事を見つけた(詳細はここをクリック)。この研究グループは、和漢薬などに用いられている薬用植物を始め,様々な植物にどのような化合物が含まれ,それらがどんな効果を発揮するのを明らかにする研究を行っている。本研究を始めた動機は、厄介者のオオキンケイギクを有効活用できる方法を発見し,伐採にお金をかけても付加価値が生まれるようにすることで,生態系の保全に寄与できないかと考えた。オオキンケイギクを採集し、アルコールに浸した後の抽出液からフラボノイドを検出し、実際にヒト白血病細胞を使って調べてみると、がんの増殖を抑制する効果を確認できた。類似の食用菊や鑑賞菊でも同様な実験をしたが、この効果はオオキンケイギク独自のものらしい。創薬に至るまでには、まだ多大な費用と年月がかかりそうだが、大いに期待したい。
ホウチャクソウ - 超然とした白い釣鐘状花
ホウチャクソウ(宝鐸草)は、かつてはユリ科に分類されていたが、現在はイヌサフラン科チゴユリ属となった。日本各地の林縁や森林に自生する多年草で、釣鐘状の白色から緑色のグラデーションのある花が美しい。名の由来は、寺院建築の軒先に吊り下げられた宝鐸に似ているから。旧ユリ科で現キジカクシ科アマドコロ属のアマドコロやナルコユリも生育時期を同じくし白い釣鐘状の花をつけるが、早春には食用野菜として、また薬用としても利用され、日本人には馴染み深い植物だ。一方、ホウチャクソウは全草有毒であり、役立たずと言うよりは危険な植物だ。そして、観賞用としてはアマドコロやナルコユリは草丈が高く、多くの花を弓なりに咲せ華やかな雰囲気がある。それに対し、ホウチャクソウは草丈は低く、花の密度も低く、地味で見映えはしない。しかし、花の構造や配色などは個性的で、これらの中では一種超然とした存在感がある。 【基本情報】 ・名称:ホウチャクソウ(宝鐸草) ・別名:キツネノチョウチン、ハトノチョウチン ・学名:Disporum sessile ・分類:ユリ目 イヌサフラン科 チゴユリ属の多年草 ・原産地:日本を含む東アジアの極東ロシアから東南アジア ・分布:日本全土に自生 ・花言葉:追憶、あなたを離さない、嫉妬、よきライバル ■生態 ホウチャクソウは地下に根茎があり、そこから走出枝(ランナー)ができ、その先に新芽をつけるので多年草に分類される。このため、ホウチャクソウは群生しやすい。若芽は直立し、葉や蕾が一緒になって出てくるが、直ぐに展開が始まり、葉や蕾が姿を表す。若芽にもアルカロイド成分が含まれているので、嘔吐や吐き気を催すので要注意。直立した茎は上部で二分岐を繰り返し、草丈は30~60cmになる。葉は長楕円形で先端が尖り、光沢があって全縁で、数本の葉脈が走る。茎に対して短い葉柄を介して葉は互生する。 ■花 花期は春から初夏にかけてで、茎の上部で分岐した枝先に、細長い花を1~3個つける。花の構造は、筒状に見えるが、実際は複雑で二重構造になっていて6枚の花被片があり、外側の3枚は萼片、内側の3枚が花弁に相当する。それぞれ3枚の花被片は基部以外では合着せず隣接している。蕾のときは全体が黄緑色だが、開花すると基部は白くなり、開口部の黄緑色とのグラデーションが際立つ。開花しても花冠はわずかに開くだけで、覗き込むと花被片の中から6本の雄蕊の葯が覗く。 ホウチャクソウの花を眺めていると、あることに気がついた。雌蕊の花柱が花冠の外に飛び出しているものと、そうでない2種類が存在することだ。これは成長の過程で雌蕊が伸びてくるのではなく、染色体の構造に起因するものだ。雌蕊が長いものが2倍体であり、一般的な方法で、昆虫が花粉を媒介して受精し果実ができる。一方、雌蕊が短く花冠の外に出ないものが3倍体であり、昆虫による花粉の媒介はあまり期待できない。繁殖に関しては、種子によるもの以外に、地下の根による栄養繁殖も可能なので万全だ。この2倍体と3倍体の並立は何か意味があるのだろうか。当地では、2倍体は少なく、3倍体が圧倒的に多い。 ■果実 花が終わると、花被片や雄蕊が落ち、柱頭のついた子房が残る。やがて、柱頭も落ち、子房が膨れて若い果実になる。果実は生育すると、果皮は黄緑、緑、黒色へと変化していく。黒く成熟した果実は液果で、中に10個程度の種子がある。 ■良く似た植物 アマドコロとナルコユリは、花ばかりか果実の形もホウチャクソウに良く似ている。アマドコロ(甘野老、学名: Polygonatum odoratum var. pluriflorum)とナルコユリ(鳴子百合、Polygonatum falcatum)はともに、キジカクシ科アマドコロ属の多年草。花の形が釣鐘型であるが合弁花であること、そして複数の花や果実が弓形の茎に対して周期的につくことで、ホウチャクソウとは外観上の区別がつく。また、アマドコロとナルコユリの外観上の区別は、花と花柄の接点の突起の有無、茎の陵の有無で判別できる。また、アマドコロとナルコユリは食用や薬用にもなるが、ホウチャクソウは有毒植物なので、春の山菜採りの際は注意が必要だ。 ■ホウチャクソウと日本人 在来種であり、白い釣鐘状の花を持つ似た者同士の旧ユリ科3兄弟の待遇は、随分と異なる。ホウチャクソウは、有用な山菜植物の採集を混乱させる悪役として過ごしてきた。このためか、古典文学や詩歌の世界で取り上げられることも、伝統行事に登場することも無い。最近、遺伝子情報に基づいた植物分類法で、ホウチャクソウはユリ科からイヌサフラン科に変更された。広く海外に分布するイヌサフラン科に属するイヌサフランやグロリオサ、サンダーソニアなどの植物の花は美しく、日本でも観賞植物として園芸用に栽培されているが、やはり有毒種が多い。世界的な観点からは、ホウチャクソウはイヌサフラン科にしては地味な花姿ではあるが、精緻な花の構造を継承した日本固有のイヌサフラン科の植物であり、これまでと異なる概念で評価すべきだ。
アカバナユウゲショウ - 複雑怪奇な名にまさる風情
アカバナユウゲショウ(赤花夕化粧)は、アカバナ科マツヨイグサ属の多年草。南北アメリカ大陸の熱帯地域の原産で、明治時代に観賞用として渡来したが、現在では主に関東以西の地域で野生化し、市街地の空地や道路沿いで見かける。また、ユウゲショウ(夕化粧)と言う別名がある。一足早く、江戸時代に南米から渡来したオシロイバナ(白粧花:オシロイバナ科)と姿形が似ているので命名されたが、オシロイバナは夕方に開花するのに対し、ユウゲショウは朝に開花し夕方には萎むので、誤解を含んでいるようだ。また、在来種のアカバナ科のアカバナとは花の色や形が似ているので、接頭のアカバナがついたとの説がある。大いなる誤解と妥協を名に刻みながら、アカバナユウゲショウは生き続けている。小さな桃色の花が夏から秋にかけて群生して咲き続ける様は、とても雑草とは思えない風情がある。しかし、帰化植物としての歴史は浅く、人間にとって有用な利用価値もなく、文学などのテーマにもなり難いアカバナユウゲショウは、雑草として日本の植物の生態系の一部になっているのだろう。 【基本情報】 ・名称:アカバナユウゲショウ(赤花夕化粧) ・別名:ユウゲショウ(夕化粧) ・学名:Oenothera rosea ・分類:アカバナ科 マツヨイグサ属の多年草 ・原産地:南米、及び北米大陸の熱帯地域 ・分布:日本では関東地方以西で野生化 ・花言葉:臆病 ■生態 アカバナユウゲショウの繁殖方法は、種子を播く他に、株分けも可能だ。地下の根は太く、冬にはロゼット状に根生葉をつける。根生葉の先は丸く、中間部は羽状に裂ける。霜に当たったロゼット状の根生葉は、しばしば赤く変色する。強力な地下根に支えられ、株は群生する。花期は夏から秋と長く、群生地には蕾、花、果実が入り乱れる。茎は直立して上部で枝分かれし、葉の脇に花をつける。茎につく葉は、楕円形で浅い鋸歯があり互生する。 ■花 アカバナユウゲショウの花茎には、時期を同じくして蕾も果実も存在しているので、この様子を確認しておこう。花茎から花までの構成物は、短い花柄を介してやや膨らんだ子房に繋がり、細い萼筒を経て萼片があり、その上に花がある。蕾の位置関係は花と同様で、やや小さいながらも花柄、子房、萼筒に相当するものがある。一方、果実は子房が発達した楕円体で稜線がある。蕾も楕円体で似ているが、稜線は無く子房や萼筒があるので、果実との区別が可能だ。花の部分については、中央の基部は黄緑色だが4枚の桃色の円形に近い花弁がつき、花弁には紅色の花脈が目立つ。雄蕊は8本で、花糸は白く、葯は桃色で、花粉は白い。雌蕊は1本で、成長するとその柱頭は4つに裂けていく。 次に、時系列に開花の様子を見てみよう。葉の脇から花柄が伸びて蕾ができ、開花が近づくと蕾の直下にある子房が膨らむ。花は両性花で、開花すると4枚の桃色の花弁が開き、雄蕊と雌蕊が現れる。雄蕊は葯から直ぐに花粉を出し始めるが、雌蕊の柱頭は未だ1つのように見える。やがて、雌蕊の柱頭が分割し始め、大きく4つに分割され、花粉の受け入れが可能となる。しかし、この過程で雄蕊の花粉放出量は減り続ける。このため、雌蕊は他の花の花粉により受精する可能性が高くなる。雄性先熟による自家受粉の回避が実行されているようだ。夕方が近くなると、朝に咲いた花は萎むので、一日花と言われている。 ■果実 果実には8本の稜があり、断面は八角形をしている。果実は蒴果で、この中には1mmにも満たない細かい種子が60~100個程度入っている。散布方法は雨滴散布と呼ばれ、雨に濡れると4つに裂けて中の種子が流れだす珍しいものだ。鳥や風によって遠方に運ばれるわけではないので、こぼれた種子で群生地を少しずつ広げていく作戦なのだろう。 ■アカバナユウゲショウと日本人 アカバナユウゲショウは、熱帯アメリカ原産で、明治時代に輸入され野生化した。日本国内での分布領域は関東以西と言われているが、種子の特性や環境要因を考察し、分布拡大の原因を調査した研究がある。静岡県立磐田南高校の理数科グループによる"ユウゲショウの分布拡大について"(詳細はここをクリック)だ。調査したのは、群落の季節による遷移、種子の大きさと重さの測定、電子顕微鏡による観察(表面に微小な突起あり)、雨量と発芽率の関係、除草剤耐性の実験など。種子の発芽の条件としては湿度が重要で、降雨量の多い春と秋に発芽し易く、気温の高い夏には乾燥して発芽し難い。また、雨量が多くて種子が流された際に、水をはじく表面の突起によって離れた土地の表面にたどり着き、発芽する可能性を示唆している。現状では、分布の北限は岩手県らしい。 植物の生息範囲の拡大は、温暖化によるものと考えがちだが、アカバナユウゲショウの場合は湿度であることを明らかにした。高校生でありながら、論理的な思考力や行動力、関係者との連携など見事。将来に期待したい。










