小紫

自然
コムラサキ - 紫を操る変幻自在の魔術師

 コムラサキは、シソ科ムラサキシキブ属の落葉低木で、日本の在来種。同属の植物で、紫色の果実が美しく、平安時代の女流作家紫式部になぞらえて名付けられたムラサキシキブに似ていて、全体に小型なためコムラサキと呼ばれるようになった。ただ、数あるムラサキシキブ属の中でも、コムラサキは独自の世界観を与えてくれる。幹から長く伸びた枝を観察していくと、花の時期には枝に沿って一列に蕾や花、若い果実が空間的に配置され、時間の経過とともに成長すると、それらが移動していくように見える。果実の時期にも、枝に並ぶ鈴なりの果実が黄緑、白、紫に並んで見事なグラデーションをつくり、それが時間の経過とともに果実の配色が空間的に移動していく。観賞樹としての価値は、江戸時代の植木屋が気がついており、実紫(みむらさき)、玉紫(たまむらさき)などと呼んでいた。今日では、自生種を見かけることはほぼ無いが、観賞用に庭や公園に良く植栽されている。園芸界ではムラサキシキブと言えば、本家のムラサキシキブではなく、コムラサキのことを指すようだ。しかし、文学や実用的には特記すべきものがなく、観賞以外の接点は希薄なのは何故だろう。 【基本情報】 ・名称:コムラサキ(小紫) ・別名:コシキブ(小式部) ・学名:Callicarpa dichotoma ・分類:シソ科 ムラサキシキブ属の落葉低木 ・原産地:日本を含む東アジア ・分布:日本では本州(福島県以南)から沖縄に自生する他、各地で庭木として植栽 ・花言葉:気品、知性、聡明 ■生態 コムラサキは、雌雄同株で、地面から数本の幹が株立する。樹高は人間の高さ程度で、幹が立ち上がり、上部で枝が広がってこんもりとした樹形になる。幹の樹皮は、緑がかった褐色で、縦の皮目がある。若い枝は紫色を帯び、表面に星状毛がつくので、手触りは多少ザラザラする。葉は、枝に対生し、葉の形状は細目の長楕円形で、葉の先の半分に鋸歯があり、先端は尖る。葉の裏には、透けて見える小さな腺点が点在するが、これらは何を分泌しているのだろうか。 ■花 コムラサキの花は両性花。枝の葉の付け根から少し先の部分から両側に花軸を出し、散形花序を形成する。枝の基部に近い方から順番に成熟するので、同じ枝上に果実、花、蕾が並ぶこともある。開花が近づくと、蕾の先端は薄紫色になる。蕾は片側の花軸に10~20個つき、椀状の萼を介して花軸につながる。開花すると、薄紫色の花冠は4裂して平開し、雄蕊と雌蕊は花冠の外に突き出る。花には、黄色の葯を持つ雄蕊が4本、雌蕊は1本で更に長い。  春から秋にかけて、コムラサキの枝には、様々な昆虫が集まる。花の時期には花粉を運んでくれるハチやチョウが集まる。コムラサキの花は密が少ないようだが、花冠の上に突き出した雄蕊の黄色い葯が目立ち、これが昆虫を誘導するらしい。また、オンブバッタの大きな雌が小さなオスを載せて、葉の上を徘徊していた。これは、葉を食べに来たのだろうか。珍しいものとしては、果実に産みつけられたクサカゲロウの卵があった。これは仏教経典に由来する優曇華(うどんげ)と呼ばれ、3日で孵化する。コムラサキの果実をホテル代わりにでも使ったようだ。 ■果実 花が終わり、花冠や雄蕊、雌蕊が枯れ、子房が膨らみ黄緑色の果実ができる。枝の基部に近い果序から生育するので、枝の上でほぼ等間隔に並ぶ果実の果皮の色は、緑、白、紫へと変化する様子が一目で分かる。果実は、完熟すると果皮は紫色になる。果実は核果で、内部に4個の胚珠を含む。秋になると、葉は淡く黄葉し、やがて落葉する。冬になると果実は萎れ、落下したたり、そのまま枝に残るものもある。メジロなどの野鳥が実を食べ、遠方に拡散する。 ■白色品種 シロミノコムラサキ シロミノコムラサキ(白実小紫)は、コムラサキと同じ種で、花と果実が白い変種。コシキブ(小式部)、シロコシキブ(白小式部)、シラタマコシキブ(白玉小式部)とも呼ばれる。庭木として、植栽される。 ■近縁種 ムラサキシキブ ムラサキシキブ(紫式部、学名: Callicarpa japonica)は、コムラサキと同じシソ科ムラサキシキブ属の落葉低木であり、日本各地の山野や林などに自生する。花と果実はコムラサキと良く似ているが、外観上の相違点としては、枝は下垂せずに伸びること、葉の幅は太く全縁に鋸歯があること、花軸は葉の付け根から出ること、果実の密度は比較的疎らなことなど。樹木全体の雰囲気は、コムラサキより大柄で野性味があるので、判別は比較的易しい。 ■コムラサキと日本人 現代の日本人にとっては、コムラサキは春から秋まで、紫色を楽しむため観賞樹である。春に花を愛で、秋に果実に楽しむだけでは、この感覚は分ったと言えない。初夏から秋にかけて、コムラサキの花と果実を定点観測し、動画にまとめた研究者がいる(詳細はここをクリック)。作者のKAWAKUBO氏も、コムラサキの美しさは、空間的且つ時間的な領域で捉えなければ理解出来ないと考えたのだろう。また、ここでムラサキシキブは自家不和合性なので果実のつきが疎らになるが、コムラサキは自家受粉が可能なので鈴なりの果実ができるとの事実も明らかになった。美しく華奢な印象を与えるコムラサキだが、なかなか隅に置けない存在でもある。

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