北陸

有象無象
北陸蟹三昧 - 雪降る中のグルメツアー

 本場のカニ料理を食べたいと思いつき、1月下旬の団体旅行"北陸3県のブランド蟹食べ比べ3日間"を予約した。これは、富山県の"高志の紅ガニ"(ベニズワイガニ)、福井県の"越前ガニ"(ズワイガニ)、石川県の"香箱ガニ"(雌のズワイガニ)を食べ歩く旅だ。旅行期間中は、運悪く低気圧が日本列島を覆い、北陸地方には大雪注意報が発令されていた。それでも恐れ知らずの蟹食い集団は、新幹線に飛び乗った。3日間の旅程は下図の通り。 ■宇奈月温泉と高志の紅ガニ 北陸新幹線を黒部宇奈月温泉駅で下車し、富山地方鉄道本線で終点の宇奈月温泉駅に向かう予定だったが、生憎の降雪で電車が運休し、且つクマ出没の連絡もあり、急遽バスで行くことになった。宇奈月温泉は、黒部川の渓谷沿いに旅館が立ち並び、黒部峡谷鉄道のトロッコ観光の出発点でもある。旅館に着くと、部屋の窓から黒部川の渓谷とそれに沿って連なる山々に雪が降り注ぎ、かすれた墨絵のような風情だ。翌朝に一時的に雪が止んだときは、鮮明なモノクロームの絵になっていた。  また、窓ガラスに珍しいものを発見した。窓を開けるとカメムシが侵入するので開けないようにとの表示だが、近くにはガムテープが置いてあり、もし侵入したらこれで駆除して欲しいとのこと。昨年は、異常高温のためか関東地方でもカメムシが大量発生したが、この様な山奥でも同様だったようだ。  さて、いよいよ夕食。富山のブランド蟹"高志の紅ガニ"ことベニズワイガニ1杯とブリの刺身やしゃぶしゃぶなど。ベニズワイガニは茹でた状態で出されたので、蟹の捌き方のマニュアルに従い、鋏と蟹スプーンで悪戦苦闘しながら、蟹肉を取り出す。甲羅内部の肉やミソ、脚や爪の中までほじくりだすと30分は掛かる孤独な作業だが、蟹肉を頬張る前の至福の時間でもある。ビールとともに、先ず一口、蟹肉は柔らかく、甘みがある。ついでに地酒3種飲み比べセットも追加。何れも芳醇だったが、後味は今ひとつ、純米酒ではなさそうだ。 ■金沢市内観光 2日目の前半は、バスで宇奈月温泉から金沢市内に移動し、兼六園、金沢城、近江町市場を観光。雪は断続的に降ったり止んだりで、足元はシャーベット状の雪で危うい。先ずは兼六園だが、雪景色は初めて。桂坂口から入り、徽軫(ことじ)灯籠や霞ヶ池、その周辺にあるクロマツを覆う雪吊を見物。灯籠や石、樹木の上には雪が積もり、池面は半ば溶けた雪で覆われている。これぞ冬の兼六園の景色だ。園内には、未だ落ちていないアラカシのドングリや、春を待つヒサカキの蕾が雪の試練に耐えていた。兼六園の入場者は、海外の観光客も含め多くて混雑してきたので、早々に隣接する金沢城に移動した。  金沢城へは、石川門口より入場。石川橋を渡り右に曲がると、立派な石川門がある。金沢城の搦手口(裏口)にあたり、構造は升形門で、両開きの門扉には実用的で簡素なデザインが施され、城郭建築らしい風格があり、国の重要文化財になっている。また、石垣の石積み技法も様々だ。石川門に続く石垣は、隙間なく石材が並べられ表面は平坦な切石積み技法だし、石川門に対面する石垣は多少隙間を許容した粗加工石積み技法であり、外堀に相当する石垣は自然石積み技法で表面も凹凸なので雪も積もる。築城の時期や、場所の重要度で使い分けたのだろう。石川門から場内に入ると、三の丸広場が広がり、その奥に菱櫓、五十間長屋、橋爪門続櫓が連なっている。その背後に仮屋根の覆われた二の丸御殿が復元中だ。金沢城内には、かつて陸軍司令部が置かれたり、金沢大学の丸の内キャンパスがあったりしたが、現在は遺構が復元されつつあり、昔の姿を取り戻そうとしているように思える。  兼六園、金沢城を見学した後は、近江町市場に移動し、自由行動で昼食の時間。現在の近江町市場は入り組んだ通路の上に交通案内板が至る所に設置され、目的の店に行き易くなった。市場には2階や地下もあって、食堂や日用品の店舗があることに、今回初めて気が付いた。市場散策の関心事は蟹の価格だが、高いもので3万円、安いもので2杯で1万円程度で、大きさも種類も異なるので、適正価格かどうかは見当もつかない。さて、昼食だが、蟹の目利きが出来ないのと、ホテルの朝食がバイキングで鱈腹食べた後なので、結局刺身食堂でランチ価格の海鮮丼にした。魚の身は厚く、種類も多かったので充分満足した。 ■越前海岸と越前ガニ 近江町市場を出発し、バスは南下して北陸自動車道の武生ICで降りて予定通り一般道へ。北陸自動車道は降雪のため、武生から先は通行止めになり、危ないところだった。バスは山を超えて越前海岸を北上して行く。この頃には夕方になり、流れる雲の合間から傾きかけた太陽が輝き、海には幾重にも波が押し寄せ海岸の岩を洗う。荒涼とした風景だが、何か印象派の絵画を思わせる。  夕食は、料理旅館の2階にある食堂で2杯分の越前ガニが食べられるのがセールスポイント。越前ガニは分類学上はズワイガニで、福井県の越前海岸で獲れるものをブランド化したもの。食卓には、越前ガニであることを証明するタグ付きの茹でた越前ガニが1杯、約半身の焼きガニ、他に茶碗蒸し、蟹グラタン、刺身、蟹雑炊などで合わせておおよそ2杯分で、蟹三昧を楽しんだ。ズワイガニはベニズワイガニより甘く身がしっかりしていると言われているが、宇奈月温泉で食べたベニズワイガニと比較しても、顕著な差は感じられない。猫に小判なのだろう。夕食後、宿泊のため東尋坊温泉へ移動。 ■東尋坊 3日目の朝は、東尋坊を散策。北陸有数の観光地だけあって、展望台の東尋坊タワーがあったり、海岸の岩場まで続く道沿いにお土産屋や食堂が並んでいる。岩場に隣接するところに、IWABA CAFE があった。かつて、鳥取県知事が、鳥取にはスターバックスコーヒーはないはスナバコヒーはあるとの名言を思い出した。東尋坊は、安山岩の柱状節理として存在意義があるが、特異な景観で観光地としても、サスペンスドラマの大詰めの舞台としても有名になってしまった。激しく風が吹き、波しぶきが飛んで、岩の上が滑りそうなので、ドラマの真似は止めて早々に退散した。 ■九谷焼店と香箱カニ 東尋坊を後にして、次の目的地は石川県加賀市の九谷焼の店"九谷満月"での昼食と買い物。店に到着すると、博物館の学芸員風のスタッフが、九谷焼の歴史や、人間国宝の3代徳田八十吉などの名匠の説明、店内の販売品などを大きなスクリーンを使ってプレゼンテーションした。薩摩焼の沈壽官窯を訪問したときも同じように、制服を着たスタッフが興味ある説明をしていた。扱う商品が高価なのとブランド力強化のためだろうか。店内に入ると、広い売り場には白い磁器に豪華な色彩で色付けした九谷焼の商品が並び、その奥には陶芸教室や、著名九谷焼作家による特別な売り場も併設されていた。特別な売り場では、支配人らしき人が、この作品はもう東京では手に入らず、此処でしか買えない、安くするからと、数十万から数百万円する作品を勧めていた。蟹料理を食べに来ただけなので、目の保養にはなったが、残念ながら購買力はない。此処で感心したのは、人間国宝の3代徳田八十吉の作品だ。九谷焼の材料や環境を使いながら、釉薬によって色の濃淡で創り出す彩釉技法は見事で伝統的な九谷焼の範疇を超えている。作品例は、Webを参照(ここをクリック)。  店舗の2階が食堂になっており、石川県のブランド蟹"香箱ガニ"の蟹ご飯などを味わった。香箱ガニはズワイガニの雌で、甲羅にたっぷり詰まったオレンジ色の未成熟卵"内子"と、腹部に抱えたつぶつぶの卵"外子"を持つ季節限定の食材だ。これを釜に入れて米とともに炊くと、濃厚な蟹ご飯になる。大変美味しかった。また、自分へのお土産は、ご飯がへばり付かないように表面を凸凹にエンボス加工した杓文字があるが、飯碗の内側にエンボス加工したものがあったのでこれを買った。なかなか良いアイデアだ。 ■帰途 加賀市の九谷満月を出発して、バスは金沢駅に向かう。ここで新幹線に乗車するが、なんとお土産に金沢の老舗料亭の"かにめしと能登牛しぐれ丼"をいただいた。帰途は雪による時間調整のため上越妙高駅で20分程度待機しただけで、無事に帰還。自宅でビールとともに、お土産の弁当を完食し、3日間の旅行が終了した。  今回の旅行は蟹グルメが目的だったが、それ以外に印象的な経験が幾つかあった。先ずは、北陸の冬景色だ。雪に覆われた黒部渓谷の墨絵のような山々、越前海岸の荒天の夕暮れ風景を眺められたのは幸運だった。また、金沢城は明治以降も幾多の変遷を経ながら、現在でも失われた建物の再建が続いている。金沢市民の願望でもあるのだろう。将来はどの様な姿になるのか楽しみだ。更に、刻々と変化する天候の中、臨機応変に対応していただいたツアーコンダクターとバスの運転手に感謝。バスの心地よい振動に揺られながらウトウト寝てしまい、気づけば次の目的地に着いているので楽チンだった。

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