モクレン属
ホオノキ - 際立つ独自の個性
ホオノキ(朴の木)は、モクレン科モクレン属の落葉高木。進化論的な観点からはモクレン科の植物は、非常に古い時代から存在していた被子植物であることが知られている。ホオノキは日本各地に自生し、樹高は30mにもなる高木だが、日本で自生する樹木の中で最大級の葉(~葉身が40cm)と花(直径15cm程度)を持ち、これらがホオノキ独自のアイデンティティとなっている。名称の"ホオ"は"包"であり、大きな葉で食べ物などを包むことに用いたことに由来し、現代でも朴葉寿司や朴葉焼きなどで使われている。花は高い枝先に上向きに咲くので、なかなか鑑賞し難い。坂の多い丘陵地では、運良く観察する機会が訪れる。花弁も雌蕊や雄蕊もシンプルな形状だがそれぞれが大きく、おおらかな造作だ。しかし、近づくと甘く強い芳香が拡がり、異様な存在感がある。普通の植物とは異なり、原始的な資質を引き継いでいるのだろうか。 古くからの自生種でもあり、人との関わり合いは多彩。ホウノキの葉は殺菌作用があるので、食品を包んだり、食器代わりになった。薬用としては、樹皮が"厚朴(こうぼく)"と呼ばれる漢方薬になり、鎮痛、鎮咳、利尿などに効果がある。また、ホオノキは成長が早くて材質が均一で軽量なので加工し易く、建具、引き出し、まな板、額縁、版木などに利用される。詩歌の世界では、"朴の花"は初夏、"朴の実"は晩秋、"朴落葉"は初冬の季語である。また、万葉集でも"ほほかしわ"の名で登場する。親しまれながらも、ホオノキは独自の個性を持つ樹木だ。 【基本情報】 ・名称:ホオノキ(朴の木) ・別名:ホオ、ホオガシワ ・学名:Magnolia obovate ・分類:モクレン科 モクレン属の落葉高木 ・原産地:日本、但し中国にも自生するらしい ・分布:北海道から九州各地の山地や丘陵地など ・花言葉:誠意ある友情、然の愛情、優美 ■生態 幹は地下から真直に伸びてあまり枝分かれせず、枝は上方に伸びて端正な樹形になる。樹高は30m程度、幹の直径は1mを超えるものもある。幹の樹皮は灰白色で皮目がつく。葉には様々な特徴がある。未だ葉が残る秋に、来春に葉になる冬芽が枝の先端に2枚の芽鱗に包まれて現れる。春が近づくと、冬芽は膨らみ、その下方に初冬に落葉した葉の痕も見える。葉が芽吹くときに薄紅色の托葉も生えるが、間もなく落ちる。春には枝先に若葉が集中して互生するので、一見輪生状に葉がついた様に見える。よく似たトチノキの葉は1枚の掌状であるが、ホオノキはそれぞれ別の葉が密集してついている。葉身は大きて20~40cmにもなり、倒卵状長楕円形で周囲は少し波打ち、葉脈は羽状になる。秋には、葉の色は黄色か褐色に入り乱れて変化し、やがて落葉する。 ■花 ホオノキは雌雄同株で、花は両性花である。春に枝先の周辺に輪生状に若葉が展開した後に、枝先に蕾がつく。蕾が成長して大きくなると、次第に表面がピンク色を帯びる。蕾が開き始めると、最初に外側の赤みがかった3枚の萼が外側に反り始める。開花すると、6~9枚の白い花弁が広がり、その後次第に黄色みを帯びる。花の構造は、中央上部に紫色の雌蕊があるが1本ではなく多数あり、その下部には黄色の葯を持つ多数の雄蕊がある。ホオノキの花は雌性先熟で、寿命は3日間程度と短い。1日目に雌蕊が成熟し、2日目に雌蕊が閉じて雄蕊が開く。そして3日目には雄蕊が落ち、花としての機能が終了する。同じ花の中で、雌蕊と雄蕊が機能する期間が重ならないので、自家受粉することはない。花は、甘く強い芳香を周辺に放つ。その主成分は安息香酸メチルであり、これが甲虫やハナアブなど引き寄せて、他の花に花粉を運んでいる。 ■果実 果実は集合果で、個々の果実は袋果である。集合果は長楕円体で、当初は黄緑色だが秋には赤く熟す。熟した袋果の中には2個の種子が含まれる。人は食べないが、キツツキ類の好物はこれを好んで食べ、ヒヨドリ、オオルリ、メジロなども来て、種子を拡散する。 ■ホオノキと日本人 ホオノキの材質は耐久性は低いが、柔軟で均一性が高くて狂いが少ない特徴がある。この特性を活かして、人工衛星の外部パネルへの使用を想定した研究がある。木材を含む衛星は、運用終了後に大気圏で燃え尽きる際に発生する金属粒子を減らし、環境への影響を抑える効果がある。2022年に京都大学と住友林業の研究グループが、研究報告"世界初、10か月間の木材宇宙曝露実験を完了 ~木材用途の拡大、木造人工衛星(LignoSat)の打上げを目指して~"(詳細はここをクリック)を公開した。候補になった3種の木材ヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバを宇宙環境に晒して実験を行い、最終的に密度が小さく切削も容易で衝撃曲げ吸収エネルギーに優位性があったホオノキを選択した。そして、 2024年の打上げを目指し、詳細解析や劣化抑制技術の開発を進めるとのアナウンスがあった。 その後の経過は、2024年12月に、初号機を国際宇宙ステーション(ISS)から宇宙に放出したが、地上との通信が出来ず、失敗。現在は、クラウドファンディングで資金を募りながら開発を続けている。宇宙飛行士で研究グループのメンバーである土井隆雄京都大学特定教授の最終講義で明らかにした(詳細はここをクリック)。木材の利用可能性を高め、地球、いや、宇宙に優しい技術であり、是非成功してほしい。
コブシ - 清楚で異形な二面性
コブシ(辛夷)は、モクレン科モクレン属の落葉高木樹。日本原産で、北海道、本州、九州の一部に自生するが、全国各地で庭木や公園樹、街路樹として植栽もされている。早春にサクラよりも早く、大きめの白い花が樹全体に点在して咲くのでよく目立ち、春の訪れを告げる樹木の一つになっている。また、コブシには田打ち桜や田植え桜などの別名があり、コブシの開花が田植えの準備を促す機会にもなっていて、季節の移り変わりを告げる樹木でもある。コブシと言う名称は、蕾や開花中の花を握り拳に例えた説もあるが、集合果の形を握り拳に見立てたのではないかと思う。集合果の凸凹した形にはそれぞれ個性があり、色も形も時間とともに変化する。しかも花の数より果実の数は少なく。幸運にもこれを発見すると驚き感動する。早春の清楚な花と、秋の異形な果実は、コブシの二面性を表している。人間とは長い付き合いが続いているので、花や蕾は他のモクレン属の樹木(タムシバ、ハクモクレン、シモクレン)と同様に生薬の辛夷(しんい)となったり、花を食用、果実を果実酒に、木材は建材や細工物の使われた。しかし、文化的には古代には何故か見るべき文献はなく、漸く辛夷が仲春(旧暦2月)の季語になってから詩歌に登場するようになった。最近では、千昌夫のヒット曲"北国の春"に登場する。コブシは、都会よりも地方に似合うのかもしれない。 【基本情報】 ・名称:コブシ(辛夷) ・別名:タウチザクラ(⽥打桜)、タネマキザクラ(種まき桜)など ・学名:Magnolia kobus ・分類:モクレン科 モクレン属の落葉高木樹 ・原産地:北海道、本州、四国、九州、済州島に自生 ・分布:鑑賞用に各地に植栽 ・花言葉:友情、信頼、歓迎、愛らしさ ■生態 樹高は環境により幅があるが、障害物がなければ20m程度に達する。樹形は枝が均整に伸びて、卵形か円錐形になる。街路樹などで植栽されているものは、強剪定されるため、横には広がらない。幹の直径は大きいものは60cm程度になる。樹皮は、灰白色で滑らかで、皮目がある。花が開花した後に、葉は成長する。葉形は、歪んだ卵形で先端が鋭く飛び出し、葉の周辺に鋸歯はなく、葉脈は羽状で側脈は10対程度。葉は茎に互生する。葉は秋になると黄葉する。枝や葉には精油が含まれ、葉を揉んだり枝を燃やすと芳香を生じる。また、冬芽は初秋から成長を始める。 ■花 落葉した冬の枝には、多数の冬芽がつく。冬芽には、花芽と葉芽の2種類がある。花芽は大きく表面は長い毛に覆われているが、葉芽はそれよりも小さく、毛も短い。注目すべき点は、花芽の基部に小さな葉芽もついて、花芽が開花すると同時にこの部分の葉が伸びる。近縁種のタムシバではこの部分の葉芽は無いので、これで両者を明確に区別できる。やがて、花芽の表面の芽鱗が割れて、白い花弁が現れる。開花が始まると、基部の葉芽も開き葉が伸び始める。花弁は白いが、花弁の裏側には基部から薄紫色の筋が入る。花は両性花で、構造は、花被片は9枚で、3枚ずつ3輪につき、内側と中央の6枚は白く長い花弁となり、外側の3枚は黄緑色の小さな萼片となる(因みに同属のハクモクレンは9枚の花被片は全て花弁になる)。花の中心には緑色の棒状の花床があり、それに雌蕊が多数つき、花床の周辺に多数の雄蕊が並ぶ。モクレンの花は密を出さないが、ハチや甲虫が花粉を運ぶ虫媒花ではある。花の寿命は短く、数日で花弁が落ちる。花が咲いた後に、枝先にできた葉芽が成長し、やがて樹全体が緑の葉で覆われる。 ■果実 花が終わると、果実の生育が始まる。果実は、同じ花軸についた複数の袋果が不定形にいびつに融合した集合果で、やや不気味な雰囲気がある。果実の表面は始めは緑色だが、熟すと赤みを帯びる。果実が裂開すると、赤い種皮に包まれた種子が露出する。種皮の赤い外皮が剥けると種子は黒くなり、これらは地上に落ちたり、主に鳥によって拡散される。 ■近縁種 シデコブシ シデコブシ(四手辛夷)は、コブシと同属の落葉樹。コブシとの相違は、多数の花被片が細長く伸びて、その色が白色から淡紅色であること。この様子が、しめ縄や玉串につける細長い紙の"しで(紙垂、四手)"に似ているので、命名された。日本の固有種であり、自生もするが、その分布地域は地域は第三紀鮮新世の頃にできた東海湖の沿岸地帯にほぼ限定的されているらしい。このため、国土の開発が進む現在では、自生種は絶滅が危惧されている。その一方で、繊細な花を鑑賞する目的で、園芸品種が創り出されている。種としては、なかなか厳しく微妙な生存環境が続いている。 ■コブシと日本人 日本人はコブシが好きなので、住宅地に植栽したり、園芸植物を創出したりして楽しんでいる。ところが、コブシの分類上の種は遺伝的な要素のみならず、地理的な要素も含めて考慮しなけれは種の維持が困難との指摘が、最近の研究で明らかになった。岐阜県立森林文化アカデミーらの研究グループは、"コブシ(Magnolia kobus)の集団遺伝構造とデモグラフィー:変種キタコブシ(borealis)は遺伝的には支持されない(邦題)"を公開した(詳細はここをクリック)。 コブシの全分布域について、遺伝的変異と葉形質の変異を調べ、その地理的傾向について検討した。その結果,遺伝的変異は,北海道から東北にかけての北方系統(単一の葉緑体DNAハプロタイプから構成)とそれ以南の南方系統(3種類のハプロタイプが存在)で大きく異なることが分かった。コブシの変種にキタコブシ(別名エゾコブシ)があり、北海道から東日本日本海側に分布し、花も葉もコブシよりやや大きい特徴がある。このキタコブシは、形態的には北方系統であるが、遺伝的には南北両系統の要素の一部を含んでおり、キタコブシは遺伝的にまとまったグループではないことが分った。 その影響はと言うと、コブシの変種には細かな遺伝的系統が存在するため、遺伝子撹乱を避けるためには、かなりきめ細かい地域的な範囲で、繁殖や植栽を行う必要がある。変種や近縁種の多いコブシは、自生地は限定的だが、園芸種や近縁種が地理的に接近すると、交雑が進み、種の多様性を損なう可能性がある。コブシの繁殖には留意すべき課題があり、人間の願望だけで勝手に決めてはならない問題だと思う。


