ミズヒキ - 正体が定かでない繊細な雑草
ミズヒキ(水引)は、タデ科イヌタデ属の草本の多年草。日本の在来種であり、日本全国の山野や林内で自生している。長い花穂に赤と白のツートンカラーの花が連なる様子が、お祝いに使われる紅白の水引に似ているので、ミズヒキと命名された。また、観賞的には、グランドカバーのような葉の絨毯の上に、繊細な花穂が縦横に広がっている様子は人目を引き、庭園に植栽されたり、茶花として利用される。植物的には、不可思議な点が多々ある。花は雄花と雌花があるのか、それとも両性花なのか、葉の八の字模様はどのような条件で現れるか…など。人間との関係では、ミズヒキは食用にも薬用にもならず、古典文学にも目立ったものは無い。市井の人々にはただの雑草と思っているが、数奇者にとっては賞賛すべき存在なのだろう。

【基本情報】
・名称:ミズヒキ(水引)
・別名:ミズヒキグサ(水引草)、ハチノジグサ(八字草)
・学名:Persicaria filiformis
・分類:タデ科 イヌタデ属の草本多年草
・原産地:日本、中国、朝鮮半島、ベトナムなど
・分布:日本では、北海道から本州、四国、九州、南西諸島まで全国各地
・花言葉:慶事、祭礼、感謝の気持ち
■生態
ミズヒキは雌雄同株。ミズヒキの姿は、茎についた大きな葉が重なり、その上方に長い花序があって、草丈は高いもので80cm程度になる。茎は地表から直立し、疎らに枝分かれする。葉は茎に対して互生し、葉の形は楕円形で先端が尖り、短い葉柄には鞘状の托葉がつく。葉の表面には、"八”の字の斑模様が入ることがあり、これが別名のハチノジグサ(八字草)の根拠になっている。茎頂や葉腋から長い総状花序を出し、蕾や花、果実がつく。






■花
夏になると、弓なりの花序に先の尖った楕円体の蕾が出来る。ここから先が問題で、ミズヒキの花には雌花と雄花があるという説と、両性花が時期によって雄性になったり雌性になったりすると言う説がある。ここでは、前者を前提に説明し、後者の可能性も探ってみる。開花した雄花には、花被片としては花弁はなく、4つの萼片があり、その上半分が赤、下半分が白い。これが水引と呼ばれる所以だ。雄花には白い葯がある雄蕊が5本と、小さく退化したような雌蕊がある。一方、雌花は閉じたままで、先端が2裂した雌蕊の柱頭が外に露出しており、この状態で花粉を受け入れるのだろう。ミズヒキの花が両性花かと言う問題については、雄花を閉じつつ、雌蕊が長く伸びているようなケースがあれば信じられるのだが、実際の花序の中では、雄花や雌花が混在していても、その変遷過程の花は見つからないので、両性花説は説得力はないと思う。





■果実
雌花と若い果実は形は同じだが、果実は先端の花柱が褐色になる。さらに成熟すると、果実の果皮は枯れ、花柱の残骸がフック状となり"引っ付き虫"になり、動物や人によって種子が拡散する。この果実は痩果で、1個の種子が含まれる。


■白花種 ギンミズヒキ
ミズヒキの花は紅白なのに対し、ギンミズヒキは白一色。園芸種ではなく、古くからの自生種で、花の色以外の特徴はミズヒキと同じ。特に珍しいものではなく、ミズヒキとギンミズヒキが並んで咲いていることもある。

■ミズヒキと日本人
古典文学では顧みられなかったミズヒキだが、近代文学ではテーマとして取り上げられるようになった。昭和初期に詩人立原道造による詩集「萱草に寄す」の中の「のちのおもひに」(抄)は、
夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を
これは、山麓の寂しい村を舞台に、ミズヒキの穂が風に揺れ、草ひばり(秋の虫)が鳴き続ける午後の林道の情景を描写したもので、ミズヒキの振る舞いが重要な役割を果たしている。この詩は幾つかのサイトでも取り上げられており、日本人の琴線に触れるものなのだろう。


