アカバナユウゲショウ - 複雑怪奇な名にまさる風情

 アカバナユウゲショウ(赤花夕化粧)は、アカバナ科マツヨイグサ属の多年草。南北アメリカ大陸の熱帯地域の原産で、明治時代に観賞用として渡来したが、現在では主に関東以西の地域で野生化し、市街地の空地や道路沿いで見かける。また、ユウゲショウ(夕化粧)と言う別名がある。一足早く、江戸時代に南米から渡来したオシロイバナ(白粧花:オシロイバナ科)と姿形が似ているので命名されたが、オシロイバナは夕方に開花するのに対し、ユウゲショウは朝に開花し夕方には萎むので、誤解を含んでいるようだ。また、在来種のアカバナ科のアカバナとは花の色や形が似ているので、接頭のアカバナがついたとの説がある。大いなる誤解と妥協を名に刻みながら、アカバナユウゲショウは生き続けている。小さな桃色の花が夏から秋にかけて群生して咲き続ける様は、とても雑草とは思えない風情がある。しかし、帰化植物としての歴史は浅く、人間にとって有用な利用価値もなく、文学などのテーマにもなり難いアカバナユウゲショウは、雑草として日本の植物の生態系の一部になっているのだろう。

アカバナユウゲショウの花 (‎2022‎年‎9‎月‎26‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:アカバナユウゲショウ(赤花夕化粧)
 ・別名:ユウゲショウ(夕化粧)
 ・学名:Oenothera rosea
 ・分類:アカバナ科 マツヨイグサ属の多年草
 ・原産地:南米、及び北米大陸の熱帯地域
 ・分布:日本では関東地方以西で野生化
 ・花言葉:臆病

■生態
 アカバナユウゲショウの繁殖方法は、種子を播く他に、株分けも可能だ。地下の根は太く、冬にはロゼット状に根生葉をつける。根生葉の先は丸く、中間部は羽状に裂ける。霜に当たったロゼット状の根生葉は、しばしば赤く変色する。強力な地下根に支えられ、株は群生する。花期は夏から秋と長く、群生地には蕾、花、果実が入り乱れる。茎は直立して上部で枝分かれし、葉の脇に花をつける。茎につく葉は、楕円形で浅い鋸歯があり互生する。

霜に当たったロゼット状の根生葉は赤く変色する (‎‎2025‎年‎1‎月‎11‎日 所沢市)

花期は夏から秋と長く、群生地には蕾、花、果実が入り乱れる (‎‎‎2024‎年‎5‎月‎12‎日 所沢市)

茎は直立し、葉は楕円形で浅い鋸歯があり互生し、茎上部の葉の脇に花をつける (‎‎‎2024‎年‎5‎月‎12‎日 所沢市)

■花
 アカバナユウゲショウの花茎には、時期を同じくして蕾も果実も存在しているので、この様子を確認しておこう。花茎から花までの構成物は、短い花柄を介してやや膨らんだ子房に繋がり、細い萼筒を経て萼片があり、その上に花がある。蕾の位置関係は花と同様で、やや小さいながらも花柄、子房、萼筒に相当するものがある。一方、果実は子房が発達した楕円体で稜線がある。蕾も楕円体で似ているが、稜線は無く子房や萼筒があるので、果実との区別が可能だ。花の部分については、中央の基部は黄緑色だが4枚の桃色の円形に近い花弁がつき、花弁には紅色の花脈が目立つ。雄蕊は8本で、花糸は白く、葯は桃色で、花粉は白い。雌蕊は1本で、成長するとその柱頭は4つに裂けていく。

花茎周辺の構成要素 (‎‎‎‎2024‎年‎6‎月‎17‎日 所沢市)

花の構成要素 (‎‎‎‎‎2023‎年‎6‎月‎6‎日 所沢市)

 次に、時系列に開花の様子を見てみよう。葉の脇から花柄が伸びて蕾ができ、開花が近づくと蕾の直下にある子房が膨らむ。花は両性花で、開花すると4枚の桃色の花弁が開き、雄蕊と雌蕊が現れる。雄蕊は葯から直ぐに花粉を出し始めるが、雌蕊の柱頭は未だ1つのように見える。やがて、雌蕊の柱頭が分割し始め、大きく4つに分割され、花粉の受け入れが可能となる。しかし、この過程で雄蕊の花粉放出量は減り続ける。このため、雌蕊は他の花の花粉により受精する可能性が高くなる。雄性先熟による自家受粉の回避が実行されているようだ。夕方が近くなると、朝に咲いた花は萎むので、一日花と言われている。

葉の脇から花柄が伸びて蕾ができ、開花が近づくと直下の子房が膨らむ (‎‎‎‎‎2003‎年‎5‎月‎24‎日 所沢市)

花は両性花で、桃色の花弁が4枚、雄蕊は8本、雌蕊は1本 (‎2021‎年‎5‎月‎9‎日 所沢市)

開花が進むと雄蕊の葯から白い花粉を出し、雌蕊の柱頭が分割し始める (‎‎2007‎年‎5‎月‎20‎日 所沢市)

やがて雄蕊の花粉が減り、雌蕊の柱頭は大きく4裂して受粉可能となる (‎2023‎年‎6‎月‎6‎日 所沢市)

夕方が近づくと、朝咲いた花がしぼむ一日花のようだ (‎2003‎年‎5‎月‎24‎日 所沢市)

アカバナユウゲショウは虫媒花で、開口部が広くどのような昆虫も集まりやすい (‎‎2006‎年‎7‎月‎22‎日 所沢市)

■果実
 果実には8本の稜があり、断面は八角形をしている。果実は蒴果で、この中には1mmにも満たない細かい種子が60~100個程度入っている。散布方法は雨滴散布と呼ばれ、雨に濡れると4つに裂けて中の種子が流れだす珍しいものだ。鳥や風によって遠方に運ばれるわけではないので、こぼれた種子で群生地を少しずつ広げていく作戦なのだろう。

若い果実でも、高い稜と低い稜を合わせて8つの稜がある (‎‎2023‎年‎6‎月‎6‎日 所沢市)

■アカバナユウゲショウと日本人
 アカバナユウゲショウは、熱帯アメリカ原産で、明治時代に輸入され野生化した。日本国内での分布領域は関東以西と言われているが、種子の特性や環境要因を考察し、分布拡大の原因を調査した研究がある。静岡県立磐田南高校の理数科グループによる"ユウゲショウの分布拡大について"(詳細はここをクリック)だ。調査したのは、群落の季節による遷移、種子の大きさと重さの測定、電子顕微鏡による観察(表面に微小な突起あり)、雨量と発芽率の関係、除草剤耐性の実験など。種子の発芽の条件としては湿度が重要で、降雨量の多い春と秋に発芽し易く、気温の高い夏には乾燥して発芽し難い。また、雨量が多くて種子が流された際に、水をはじく表面の突起によって離れた土地の表面にたどり着き、発芽する可能性を示唆している。現状では、分布の北限は岩手県らしい。
 植物の生息範囲の拡大は、温暖化によるものと考えがちだが、アカバナユウゲショウの場合は湿度であることを明らかにした。高校生でありながら、論理的な思考力や行動力、関係者との連携など見事。将来に期待したい。