クリ - 世界が称賛する果樹
クリ(栗)は、ブナ科クリ属の落葉高木。日本に自生する日本種は、シバグリ(柴栗)とか、ヤマグリ(山栗)などと呼ばれている。クリの実は、縄文時代の遺跡からも見つかり、古くから栽培されていた。かつては、山村では飢饉の際の救荒食物としても利用されてきた。やがて江戸時代になると、丹波栗などの大粒の改良品種が全国的に栽培されるようになり、焼栗や栗ご飯の他、栗鹿の子や栗羊羹などの菓子も創られた。更に、クリの木材としての材質が、固くて強く、腐食し難く、加工も容易なので、三内丸山遺跡では柱や櫓に使われたり、現代では鉄道の枕木や、椎茸栽培のホダ木になったりもする。これほど有用なクリだが、その生態はブナ科らしく地味だ。初夏になると開花が始まるが、長い花序につく花は、野性味はあるがさほど美しくはない。しかも、その匂いは独特な生臭さを含んでいて、それが風に運ばれると、近くにクリ林があることに気がつく程だ。しかし、秋になって樹の枝々にイガ(殻斗)と黄葉が点在する様子はなかなか風情がある。クリは日本種の他、中国種、アメリカ種、欧州種などがあり、これらから天津甘栗やマロングラッセなどが創られる。クリは誰もが称賛する世界的な果樹だ。

【基本情報】(日本種*)
・名称:クリ(栗)
・別名:シバグリ(柴栗)、ヤマグリ(山栗)
・学名:Castanea crenata
・分類:ブナ科 クリ属の落葉高木
・原産地:日本と朝鮮半島南部
・分布:日本では、北海道西南部から本州、四国、九州の屋久島まで
・花言葉:公平、豪華、満足、真心
*なお、世界には日本種の他、中国種、アメリカ種、欧州種がある
■生態
雌雄同株の落葉広葉樹で、樹高は5~20m程度。樹形は幹は直立し、大枝が分枝して上方は丸い形になる。樹皮は成長ととに変化し、若いうちは滑らかな灰色だが、次第に縦に割れ目が入る。枝分かれした上部の枝には、高い密度で葉柄のある葉が互生するので、ボリューム感がある。葉の形は細長く先端が尖った披針形で、鋸歯がある。葉の色は濃緑色で光沢があるが、秋には黄葉し、枯れ落ちる。




■花
今年できた新しい枝の葉の脇から、花柄のない花が直列に多数つながって長い尾状花序ができる。雄花はこの花序に沿って連続してつき、その先は重力の法則に従い垂れ下がる。1つの雄花には、花弁とも萼とも区別のつかない花被片が6枚、雄蕊が10本程度ある。花が開くと、独特な生臭さい匂いが、風に乗って周囲に発散し、近くにクリ林があることがわかる程だ。



雌花は、花序の基部に総苞に包まれて3個程度につくが、どの花序にもある訳ではなく限定的。ここで注目すべきは、雌花の花柱が伸びているときには、同じ花序の雄花は未だ開花しておらず、他の花序の開花した雄花の花粉を受粉しているようだ。これは、自家受粉を防ぐための手段なのだろう。クリは花粉は小さくて軽くて飛びやすいので、風媒花に分類されている。しかし、実際には花に集まる昆虫たちもいるので、虫媒花でもあるのだろう。花の強烈な臭気は昆虫を誘引する手段のように思える。受粉の方法は、一意的に言えないと思う。


■果実
花が終わると、尾状花序の中の雄花は枯れ落ち、雌花の部分だけが残る。雌花の総苞は、ドングリでは一般的なお椀型だが、クリでは棘状のイガになって中の果実(堅果)を包む。生育中のイガには、雌花の白い針状の花柱の痕跡が残り、イガの中には、最大3個の堅果がある。秋になるとイガは緑色から茶色になって熟し、イガが割れて堅果が現れる。クリの繁殖は、この堅果による種子繁殖の他に、植栽では接ぎ木繁殖も行われる。




冬になると、堅果が落ちて空になったイガと僅かな枯れ葉が枝に残る。また同時に、来年に備え、丸みのある紡錘形の冬芽がでてくる。


■虫瘤
クリには、春の萌芽時期に、桃赤色の球状に肥大した虫瘤を見かけることがある。これは、戦前に中国から持ち込まれたクリタマバチによるもので、幼虫は4月から7月頃まで寄生する。一度虫瘤ができると、枝は成長を止める。このため、クリタマバチの天敵であるチュウゴクオナガコバチをクリ林に放し飼いにしたり、品種改良をしたりして、被害を抑制している。これは、つい最近、海外から侵入した害虫によって惹き起こされた事例だが、植物検疫の重要性を考えさせられた。

■クリと日本人
日本人は、クリの食料や木材としての重要性を理解しており、将来にわたって必要な果樹と考えている。しかし、クリ林は過疎化した山間地にあり、日本の人口減少と高齢化によって生産を維持するのは年々難しくなっている。クリに限らず、農業や畜産業も同じ課題を抱えており、その対応策として、最近は情報技術を駆使したスマート農業の試みが始まっている。岐阜県恵那地域は県下最大のクリ産地で、地元で製造される和菓子栗きんとんなどに原料を供給している。2022年に地域のクリ生産者団体、自治体、農機具メーカーなどが"クリから始まる果樹産地発展モデル実証コンソーシアム"(詳細はここをクリック)を結成し、活動を始めた。具体的には、傾斜地のクリ林でも直進できる除草トラクタ、ドローンによる測量や農薬散布、剪定技術継承のための学習システム、バーコードによる流通管理などを進めている。プロジェクト開始1年後の成果としては、作業時間が36%削減できたとのこと。効率向上のみならず、新しい技術の導入は若い農業従事者が増え、地域の活性化に役立つかもしれない。


