センダン - 神秘的な花
センダン(栴檀)は、ムクロジ目センダン科センダン属の落葉高木。原産地はヒマラヤ山麓だが、順応性が高く東アジアの熱帯や温帯域に分布する。日本でも伊豆半島以西に自生するが、公園や寺院、街路樹などに人工的に植栽されたので、自生か否かの判別は難しい。樹は高く広がりもあり立派な大きな木だが、特徴は春に咲く白と紫色のコントラストで不思議な形をした花と、冬の寒空に鈴なりになる黄褐色の果実であり、一度目にすると忘れ難い。
古くから日本にあったので、実用的には木材を建築用や下駄などに使ったり、漢方薬としても利用されているだけでなく、古典文学にも度々登場する。"万葉集"の恋愛歌や、清少納言が"枕草子"のなかでセンダンの花を称賛している。また、獄門になった罪人の首を架ける木として忌み嫌われた歴史もある。"栴檀は双葉より芳し"ということわざがあるが、これはセンダンではなくビャクダン(白檀)を指すので注意。センダンの別名も多く、人口に膾炙する証拠だろうか。
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【基本情報】
・名称:センダン(栴檀)
・別名:センダノキ(楝木)、クモミグサ(雲見草)、トウヘンボク(唐変木)、古名ではアウチやオウチ(楝、樗)などで、中国名は楝樹、英名はbead tree
・学名:Melia azedarach
・分類:ムクロジ目 センダン科 センダン属の落葉高木
・原産地:ヒマラヤ山麓
・分布:中国、台湾、朝鮮半島南部、及び、日本では本州(伊豆半島以西)、伊豆諸島、四国、九州、沖縄などに自生
・花言葉:意見の相違
■生態
落葉高木で成長が早く、樹高は20m程度になる。枝は太く傘状に広がった大木になる。幹の樹皮は紫黒褐色で縦に裂けるが、若い樹皮は暗緑色で小さな楕円形の白っぽい皮目が多くよく目立つ。葉は、典型的な2回奇数羽状複葉で互生する。葉は先が尖った卵状楕円形で革質で薄く、縁に浅い鋸歯がある。
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■花
今年伸びた枝の脇から集散花序を出して、その先に白と紫からなる花を多数つける。花弁は表が白色で裏は薄紫色で普通は5枚だが、4枚のもの、6枚のものも散見される。中央部に濃い紫色の雄蕊が10本あり、内側に黄色い葯がある。雌蕊は1本で雄蕊に囲まれた凹んだところにある。白と紫のグラデーションと特異な花の形状が、普通の花とと比べると、原始的で且つ神秘的な印象を与える。
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■果実
秋になると緑色で楕円体の果実ができ、晩秋に黄褐色に熟す。秋が深まり、葉が黄葉し、やがて落葉しても、果実は梢に残る。果実は核果で、中には硬い核があり、その中に種子が数個含まれる。冬の餌のない時期に、果実を求めてムクドリやヒヨドリなどの鳥が訪れ、種子が運ばれて空き地や道端に拡散する。野鳥にとっては毒性はないが、サポニンを多く含むため、人や犬が食べると食中毒を起こす。
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■薬効
果実は 生薬の苦楝子(くれんし)若しくは川楝子(せんれんし)として、ひび、あかぎれ、しもやけに外用し、整腸薬、鎮痛剤として煎じて内服した。樹皮は生薬の苦楝皮(くれんぴ)として、虫下しとして煎液を内服した。樹皮には苦味成分があり、漁に使う魚毒にも使われた。葉は強い除虫効果を持つため、かつては農家において除虫に用いられていた。センダンは、植物のどの部分も漢方薬とし利用された実績がある。
一方、最近の研究では、センダンの抽出成分が、インフルエンザウイルスを不活化させたり、がん細胞のオートファジー(自食作用)を促進させ、死滅させたりと、現在の研究開発にも重要な役割を果たしている。
■センダンと日本人
日本の伝統文化な中でセンダンの評価は、明暗二通りの見解がある。清少納言は、枕草子の"木の花は"で、紅梅、桜、藤、橘、梨、桐の花と共に楝(アウチ、センダンの別名)を挙げている。当時は珍しい紫色の藤や桐、楝は特別なステータスを持っていたのかもしれない。一方で平家物語では、壇ノ浦の戦いで捕えられて斬られた平宗盛・平清宗の父子が京都三条河原で生首をかけられた木として登場し、江戸時代頃まで、獄門になった罪人の首を架ける木として忌み嫌われた。
どうやら、センダンはサクラのように日本人なら誰でも称賛する植物ではないようだ。その原因は何だろうか? それは恐らく他の植物とは乖離した色と形をした独特の花のせいかもしれない。この花を美しいと思う人もあり、神秘性を感じる人もあり、不気味と感じる人もいるのだろう。長い日本の歴史の中で、センダンの優れた薬効で多くの人間を救ってきたとしても、この感情は維持されたまま現代に至る。歴史の長い樹木なので、様々な思い入れはあるにしても、センダンの美しさや有用性は正しく評価さるべきと思う。