シャガ - 潔い決断
シャガ(射干、著莪)は、アヤメ科アヤメ属の多年草。日本には古い時代に渡来し、現在は北海道を除く人里近くの林に群生する。4月になると、葉の間から花茎が伸びて分岐し、淡白紫色の花をつける。この花の構造は独特で、一度目にすると忘れられない。また、日本に分布するシャガは不稔性で種子ができないため、人の手によって植えられた同一の遺伝子を持ったクローンだ。綺麗な花には影がある。シャガとは何者だろうか?
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【基本情報】
・名称:シャガ(射干、著莪)
・別名:コチョウカ(胡蝶花)
・学名:Iris japonica
・分類:アヤメ科アヤメ属の常緑宿根草
・原産地:中国
・分布:日本には古代に渡来し、 本州、四国、九州の林内に群生
・生育環境:種子が発生せず、人為的に繁殖
・花言葉:清らかな愛、友達が多い、反抗、私を認めて
■生態
日本に分布するシャガは、雌蕊も雄蕊もありながら、染色体の数が一組多い3倍体で、種子ができない。このため日本のシャガは同一の遺伝子を持ったクローンで、人の手によって植栽されたものと考えらる。従って、その分布も人為的であり、民家に近くや、かつて集落のあった場所などに限定される。新たな土地でシャガを育てるには、園芸業者からの苗に頼ることになる。また、原産国中国由来の2倍体や4倍体の個体にこのような問題はない。何処かで何がが起きたのだろうが、詳細は分からない。
■花
先ず、花の構造を調べてみよう。花を上から見ると、大きくて黄色と紫の模様の入った3つの部分は萼に相当する外花被片と言い、外花被片に挟まれた3つの細長い部分は花弁に相当する内花被片があり、中央に3本そそり立ち先端がヒゲ状になっているものが雌蕊。ただし、3つに見える雌蕊は基部でつながっているので本当は1本。雌蕊の部分を横から見ると、ヒゲ状の部分は柱頭の付属体、その付け根に雌しべの柱頭があり、その奥に雄蕊の葯が見える。
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シャガの花は、朝開いて夕方にしぼむ一日花。このため、どの花は精一杯咲いているように見える。特に目立つのは、外花被片にある鶏のとさかのように見える黄色い突起とそれを取り巻くように点在する紫色の斑点。この2つがシャガの花の印象と色合いを決めている。そしてこの鮮やかな模様が昆虫を誘導する蜜標にもなるが、日本のシャガの場合は皮肉なことに、蜜標があっても何の成果も得られない。また、シャガの葉は、表を内側に密着した状態となっていて、葉の表と裏に見えるところは、実はみな葉の裏面と言う変わった特徴がある。このような葉を単面葉と呼んでいる。
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花の蜜標とバッタのヤブキリ (2023年4月13日 所沢市)
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■シャガと日本人
日本のシャガは、公園やマンションの建物の境界、道路脇など、毎年同じ場所に同じ時期に何の違和感もなく咲いている。春の盛りに可憐な花が群生する姿は季節感がある。しかし、日本に渡来してクローン植物になってしまい、過酷な運命を背負ってしまった。これまで生き延びてきたのは、日本人の嗜好と受容性に適合したためだろう。日本のシャガも自らの立場を理解し、人間との共生を前提に、潔い決断をしているように思う。