ヤブツバキ - 日本の誇り、ツバキの原種
ヤブツバキ(薮椿)は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹。日本原産で、主に北海道を除く太平洋側の各地に自生する。ヤブツバキと言えば、赤い花弁と黄色い雄蕊が目立つ筒状に開く花と、艶のある常緑の厚い葉が思い浮かぶほど、日本人には馴染み深い。江戸時代には、本種と近縁種のユキツバキから、多くの園芸品種が創られた。本種は、ツバキ属の原種にあたるので、単にツバキと呼ばれることもあるが、いつの頃からか野生種のイメージを強調して、ヤブツバキとかヤマツバキ(山椿)と言われるようになった。 日本の文化の中では、ヤブツバキは観賞樹として庭に植栽されたり、茶花になったりする。また、種子から抽出されるツバキ油は、てんぷら油などの食用や整髪用、薬用などに、果皮は染料となった。 また、18世紀にイエズス会士によってヨーロッパに伝えられ、学名(Camellia japonica)に日本が表記され、フランスの小説家小デュマによる"椿姫"も創られ、イタリアのヴェルディによってオペラにもなった。ツバキは質素な要素で構成されているが、凛とした印象を受けるのは、世界共通なのかもしれない。

【基本情報】
・名称:ヤブツバキ(薮椿)
・別名:ツバキ(椿)、ヤマツバキ(山椿)、英名:Camellia
・学名:Camellia japonica
・分類:ツバキ科 ツバキ属の常緑樹
・原産地:日本
・分布:日本では本州から南西諸島、海外では朝鮮半島、台湾、中国
・花言葉:理想の愛、謙遜
■生態
雌雄同株で花は両性花。樹形は横にはあまり広がらず、卵形か円錐形で、高さは5~10m程度までのものが多い。枝分かれが多いので葉の密度は高く、葉が樹木の輪郭を作り出す。幹の樹皮は淡灰褐色で滑らかだが、薄い模様や細かな突起物ができることがある。春に光沢がある紡錘形の葉芽が出て、常緑の葉は新旧交代する。葉は枝に互生する。葉は厚く、葉脈は薄い。葉の形は楕円形で先端が尖り葉縁には細かな鋸歯がある。葉の表面は緑色で艶があるが、裏面は黄緑色だ。







■花
秋から冬にかけて、枝先の葉の腋から蕾になる花芽がでる。蕾は楕円体で、多数の鱗片(萼苞片)に包まれているが、開花が近づくと、外側の花被片が赤くなる。花は両性花で、5枚の花弁は平開せず筒状に咲き、咲き始めは多数の黄色い葯をつけた雄蕊が目立ち、雌蕊は見えない。その後、花の中央に柱頭が3裂した雌蕊が伸びるので、雄性先熟の傾向があるようだ。花期は長く、10月から4月頃まで次々に咲く。花期が過ぎると、5弁の花弁は基部で合着しているので一体となって落ち、花柄には雌蕊と萼苞片が残る。役割を終えた花は、形を保ちながら樹の下に落ちる。この様子は、落椿(おちつばき)とも表現され、俳句においては春の季語でもあり、人の首が落ちる様子を連想させるために忌み嫌われた。落椿となる原因は、ヤブツバキは離弁花だが、雄蕊の花糸と花弁がつけ根でしっかりと合着しているため、花弁は一体となって落ちる。また、雄蕊の花糸が長く、昆虫では花の基部にある蜜には届かないので虫媒花ではなく、実は、メジロなどの野鳥に蜜を吸わせ、花粉を受け渡す鳥媒花である。









■果実
花が終わると、受粉した雌蕊の基部にある子房が生育し、果実になる。果実は球形の蒴果で、果皮は黄緑色から次第に茶褐色を帯びる。果実が熟すと果皮が3裂し、暗褐色の種子が3個程度露出する。これが、椿油の原料にもなる。やがて、種子は割れた果皮から落下し、その後はネズミなどの小動物の貯食行動で拡散する。種子の落ちた果皮は、3裂したまま冬を越すことがある。




■多彩な"ツバキ”
ヤブツバキは雄性先熟の傾向があり、別の個体と他家受粉で結実出来、また近縁のユキツバキなどとも交配出来るため、花色や花形に変異が生じやすいことから、江戸時代から選抜による品種改良が進められている。一方、海外に渡ったヤブツバキも"冬の貴婦人"とか"冬のバラ"と呼ばれ、大輪で豪華な花形や芳香などの観点で品種改良が行われ、日本にも逆輸入されている。多彩なツバキの全貌把握はとても無理なので、身近なところで見つけたヤブツバキの子孫を羅列する。





■ヤブツバキと日本人
ツバキの多くの園芸品種の原種とされてきたのはヤブツバキとユキツバキだ。一般に日本海側の多雪環境に分布する植物は、温暖な太平洋側に分布する植物が環境に順応して進化したものと考えられていた。このため、ユキツバキは、ヤブツバキから分化した種というのが、科学的根拠はないが、通説になっている。ところが、ヤブツバキとユキツバキの起源が、日本列島が大陸から分かれた中新世に遡ることが明らかになった。新潟大学等の研究グループが"日本列島の成立とともに歩むツバキの古い歴史 -ヤブツバキとユキツバキの分布変遷を解明-"を公開した(2025年1月、詳細はここをクリック)。分析方法としては、日本、朝鮮半島、中国沿岸、台湾の91集団からヤブツバキとユキツバキのサンプルを採取し、ゲノム解析、及び、その植物が存在可能な地域を推定し地図化する手法により、大陸種も含めて系統関係や分岐年代を推定した。その結果、ヤブツバキとユキツバキは、約1000万年前の日本列島の形成時期に共通祖先から分岐したことが分かり、従来の多雪適応仮説が否定された。そして、ヤブツバキの北集団は最も祖先的で、南集団や琉球・台湾集団は段階的に分岐し、大陸の集団は最終氷期に日本から逆上陸したと推定される。このように、日本のヤブツバキは、列島形成とともに古い進化史を持ち、気候変動や地殻変動の影響を受けてきた。将来的な気候変動に対する植物の応答や、他種との比較研究による新たな進化メカニズムの解明が期待される。
江戸時代以降に盛んになったツバキの園芸品種育成は、長いツバキの歴史の中では、つい最近のことのようだ。日本の山野に咲くヤブツバキは、南の深海に棲息するシーラカンスのように、生きた化石のように思える。

