キヅタ - 野性的な蔓性植物

 キヅタ(木蔦)は、ウコギ科キヅタ属の常緑の蔓性木本。冬でも葉は緑のままなのでフユヅタ(冬蔦)との別名がある。冬があれば夏もある。同様に樹木や建築物を覆う蔓性植物で、ブドウ科ツタ属のツタ(蔦)は、夏には葉が繁り秋には紅葉も見事だが、冬には落葉して蔓だけが残るだけなのでナツヅタ(夏蔦)と呼ばれる。両者は姿形は似ているが、植物的には別の種類だ。ツタは洋風の公園や大学のキャンパスを装飾し、都会的な華やかさがある。一方、キヅタは山林で旺盛に生育し、高い樹木の頂上まで蔓を伸ばした後は垂れ下がる程、野性的だ。しかも蔓から多数のヒゲのような気根を出して絡みつく。絡まれる樹木からすると迷惑には違いないが、キヅタは寄生植物ではなく、自らの栄養は地下に広がる長い根から供給している。やはり蔓性のフジは、樹木に蔓を幾重にも巻き付けて締め上げ一体化してしまうが、キヅタは気根の着いた蔓は強く引くと剥がすことも出来る。キヅタは案外と自然の中での生き様は、他の植物に優しいのかもしれない。しかし、人間との関係では微妙だ。蔓や葉にはアレルギー物質が含まれ注意が必要だ。そして、光沢のある掌状形の葉は観賞に値するものだが、これについては小型で扱いやすい同属のセイヨウキヅタが一般にアイビーと呼ばれ、葉に多様な斑が入る園芸種として存在している。キヅタとは、野性的で、あまり自己主張をせず、自然の中で不器用に生き続けている植物だ。

開花期のキヅタ (‎2014‎年‎10‎月‎11‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:キヅタ(木蔦)
 ・別名:フユヅタ(冬蔦)、英名:Japanese ivy
 ・学名:Hedera rhombea
 ・分類:ウコギ科 キヅタ属の常緑蔓性木本
 ・原産地:日本、東アジア(朝鮮、台湾、中国南部など)
 ・分布:日本では、北海道南部から沖縄まで
 ・花言葉:友情、信頼

■生態
 雌雄同株で、他の樹木などに絡みながら成長する。その絡み方は、蔓からヒゲのような多数の気根を生やし、これが樹木にしがみつく。物理的に付着しているだけなので、蔓を強く引っ張ると樹木から剥がれる。これは、キヅタが寄生植物でない証拠でもある。気根がつく蔓を下に辿っていくと、地上部分で地下茎に繋がる太い幹があり、ここから栄養分を供給している。地面に近い蔓の気根は大きくて迫力があるが、若い灰褐色になった蔓も小さな気根を付けながら、巻き付く先を探しながら成長する。

キヅタは蔓性木本で、樹木などに絡みながら成長する (‎‎2026‎年‎2‎月‎10‎日 所沢市)

キヅタの蔓からヒゲのような気根を伸ばして、樹木にしがみつく (‎‎2026‎年‎2‎月10‎日 所沢市)

キヅタは寄生植物ではなく、気根は樹木にしがみつく手段 (‎‎2026‎年‎2‎月10‎日 所沢市)

気根がつく蔓を下にたどれば、地下茎に繋がる幹がある (‎‎2026‎年‎2‎月10‎日 所沢市)

灰褐色になった若い蔓は、気根を生やしながら伸びて行く (‎‎2026‎年‎2‎月‎5‎日 所沢市)

 葉は常緑で、枝に対し互生する。葉には光沢があり、厚い。また、場所により葉の形は異なる。普通の葉は掌状形で、先が3~5裂するが、花序のつく枝の葉は、卵状披針形で葉の先は裂けずに尖る傾向がある。

葉は枝に対し互生するが、常緑で厚く光沢があり、場所により葉の形は異なる (‎‎‎2024‎年‎10‎月‎31‎日 所沢市)

葉は掌状形で、先が3~5裂するのが普通 (‎‎2026‎年‎2‎月10‎日 所沢市)

但し、花序のつく枝の葉は、卵状披針形で葉の先は裂けずに尖る傾向がある (‎‎‎‎2026‎年‎2‎月‎5‎日 所沢市)

■花
 秋になると、茎の先から複数の散形花序を出して、黄緑色の蕾がつく。花は両性花で、開花直後は長い花柄の先には萼筒があり、ここから5枚の黄緑色の花弁が開き、長い5本の雄蕊と未熟な小さな雌蕊があり、花は雄性期にあたる。やがて花弁と雄蕊が枯れ落ち、雄性期が終わと、花盤の上には雌蕊だけが残り雌性期になる。雌蕊の突起部分は1つに見えるが、実は5本の柱頭が合体したものだ。花は蜜を出すので、ハナアブなど多くの昆虫が集まる。

秋になると、茎の先から複数の散形花序を出して、黄緑色の蕾がつく (‎2011‎年‎10‎月‎9‎日 昭和記念公園)

長い花柄の先の萼筒から、黄緑色の5弁花が開花する (‎‎‎‎‎2024‎年‎10‎月‎31‎日 所沢市)

花は両性花で、開花直後は雄性期で、長い5本の雄蕊と未熟の小さな雌蕊がある (‎‎‎‎‎2024‎年‎10‎月‎31‎日 所沢市)

やがて花弁と雄蕊が枯れ落ち、雄性期が終わる (‎‎‎‎‎‎2023‎年‎11‎月‎21‎日 所沢市)

その後、花盤上には5本の柱頭が合体した雌蕊だけが残り、雌性期になる (‎‎‎‎‎‎2024‎年‎10月‎31‎日 所沢市)

花は蜜を出すので、ハナアブなど多くの昆虫が集まる (‎‎‎‎‎‎2024‎年‎10月‎31‎日 所沢市)

■果実
 晩冬に、萼筒の中の子房が膨らみ果実ができる。果実は核果で、その中に5個の種子が含まれる。果実は成熟するにつれ、果皮は褐色から黒色になり、春になっても枝に残る。また、果実の中に目立って肥大したものが散見される。これはキヅタに付く虫瘤で、キヅタツボミタマバエが卵を産みつけた"キヅタツボミフクレフシ"というものらしい。また、自然環境下で自生個体が増える仕組みは、種子が鳥によって拡散され実生する場合と、地下茎が地面に触れたときに根を出す栄養繁殖の場合があり、適度な繁殖能力がありそうだ。人工的に繁殖させる場合は挿し木が最も確実なようだ。

萼筒の中の子房が膨らみ果実ができ、この核果の中に5個の種子が含まれる (2009‎年‎2‎月‎15‎日 所沢市)

果実が成熟するにつれ、果皮は褐色から黒色になり、春になっても枝に残る (‎2023‎年‎4‎月‎10‎日 所沢市)

大きな塊が、キヅタツボミタマバエによってできた虫瘤”キヅタツボミフクレフシ” (‎‎2026‎年‎2‎月‎5‎日 所沢市)

■よく似た植物 ツタ
 キヅタはウコギ科の植物だが、姿がよく似ていて蔓性で他の樹木などに絡みついて生育するものに、ブドウ科ツタ属のツタ(蔦、学名:Parthenocissus tricuspidata)がある。キヅタは気根で樹木等に貼り付くが、ツタは蔓の先にある吸盤のようなもので貼り付く。キヅタの葉は常緑だが、ツタの葉は季節によって緑、紅葉、落葉へと変化して行く。キヅタの果実は散形花序に小さな核果がなるが、ツタはブドウ科らしく房状に紫紺色の液果をつける。観賞的には、四季によって雰囲気が変化するツタは見映えがする。例えば、立教大学池袋キャンパス本館校舎はツタに覆われ、無機質な都会の風景の中で独特な風情を創り出している。

ツタも蔓性だが、落葉性で秋には紅葉する (‎2024‎年‎12‎月‎3‎日 東京都薬用植物園)

ツタは、吸盤状のヒゲで壁に張り付き、果実はブドウのようだ (‎‎2011‎年‎11‎月‎27‎日 所沢市)

■キヅタと日本人
 キヅタは、蔓の気根によって樹木などに貼り付いて、上方の光のあたる方向に成長する。この気根の接着力の秘密について、興味ある記事がある。ネイチャーテック研究会と東北大学の研究者による"はがれないツタ*の秘密"だ(詳細はここをクリック)。キヅタの根から分泌される接着力のあるナノ粒子が、樹木の小さな隙間に入り込んで足場を固め、上へ上へと蔓を伸ばすことが出来る。この現象は、1876年にダーウィンがキヅタの根から黄色い化学物質を分泌することを報告したことから始まる。そして、最近アメリカの研究者がその分泌物の接着形態を分子レベルで相互作用力を測定する顕微鏡で観察した結果、分泌物は複数の有機物によって構成されており、その殆どが形の揃ったナノ粒子であることを発見し、そのいくつかの化学構造を決定した。これを応用すると、この粒子を含む物質がのりしろ不要で接着ができたり、粉末にして滑り止めに利用される可能性を提示している。
 これが実現すると、人間社会からは有用でないと思われていたキヅタの評価が変わるかもしれない。

* 題名ではツタと表記しているが、本文でウコギ科と定義しているのでキヅタのことである。