新交響楽団第272回演奏会 – 並び立つ新作と大作
東京の歴史あるアマチュア・オーケストラ新交響楽団は、創立70周年記念として、2026年1月12日に第272回演奏会を池袋の東京芸術劇場コンサートホールで開催した。今回の演奏会の趣向は、創立70周年を機に委嘱した作品の初演と、かつてギネスブックで世界最長の交響曲として認定されたマーラーの交響曲第3番の演奏を並び立たせて、現在の新交響楽団の立ち位置を明らかにする意図があるのだろうか。

今回の指揮者の矢崎彦太郎氏は、パリと東京を拠点に活動し、新交響楽団とは2013年以降度々共演している。プログラムは、新作と大作の2つ。

最初の曲は、坂田晃一の"管弦楽のための「詩篇」– Don't stop talking about them"。新交響楽団の委嘱作品であり、本演奏会が初演となる。作曲者に依ると、旧約聖書の宗教的な様式に倣っているが、人間の様々な思いや感情を表現したもの。構成は、序 - 平和へのコラール - 日常 -予感1 - 惨事1 -悲歌 - 葬送 - 小康 - 予兆 - 予感2 - 惨事2 - 哀悼 - 祈り、となっている。これだと憂鬱で暗い音楽が流れてくるかと想像したが、実際はキャッチーで軽快な音楽が奏でられたので、驚いた。坂田氏は山本直純氏に師事して商業音楽を学び、テレビドラマやアニメ、歌謡曲などの音楽制作の経験があるとのこと。ナルホド、納得。この曲想なら、副題の Don't stop talking about them を主題にしたほうが相応しいと思った。演奏後、拍手とともにステージ横から作曲者が出現するかと期待した。確かに作曲者は現れた、チェロを弾いていたその席から立ち上がって。坂田氏は実は新交響楽団の団員でもあったのだ。ここで、もう一度驚いてしまった。この曲は現代音楽の範疇にあるのかもしれないが、聴衆には分かり易く未来を感じさせる佳曲だと思う。
休憩後の2曲目は、マーラーの交響曲第3番。マーラーの音楽は、ダイナミックな演奏技法、繊細な感情表現、深遠な思想的メッセージが含まれ、それが魅力でもある。この交響曲には、ドイツの民謡詩集"少年の魔法の角笛"が引用されており、そのためか作曲中は全6楽章に標題が導入され物語性の高い内容になっていた。しかし、何故か出版時にはそれらは削除され、各楽章への指示はテンポや曲想に置き換わっている。それでも時々現れる郷愁のある魅力的な管楽器のソロがこの曲の成り立ちを思い起こさせる。この曲の第4楽章は、アルトの独唱でニーチェの"ツァラトゥストラはこう語った"から採られた人間の深い闇が表現され、続く第5楽章では女声合唱と少年少女合唱が加わり、鐘の音をバックに天上の天使の合唱が出現する。起伏が激しく、抽象的な音楽で、約100分に及ぶ大曲だが、今回の演奏は概ねインテンポで進行し、主要テーマを奏でるソロも見事だった。そして何よりも、世紀末の爛熟した後期ロマン派の大曲をその場に居てリアルタイムで聴けたのは、迫力があり感動ものだった。

今回の演奏会も、新交響楽団らしく尋常でないプログラムだった。次回は、バッハつながりのようだが、どの様な蘊蓄が語られるのだろう。期待したい。


