ミューズ・ニューイヤーコンサート2026 - 所沢市民の新年の楽しみ
所沢では、毎年正月に所沢市民文化センターミューズの運営団体がニューイヤーコンサートを開催し、所沢市民が音楽に親しむ機会を設けている。この数年は、東京交響楽団とピアニストの小山実稚恵さんが、ミューズの大ホール(アークホール)で、良く知られたピアノ協奏曲と交響曲をセットにして演奏会を開いている。今回は2025年1月11日に開催された。新年の行事であるため、冒頭に所沢市長が新年の挨拶と音楽都市所沢の抱負を述べ、最後にあの著名なウィーン・フィルによるニューイヤーコンサートに倣って、ウィンナ・ワルツの"ラデツキー行進曲"の演奏と同期して手拍子で会場を盛り上げて終演になる習慣ができている。埼玉県の一地方都市で、このような演奏会が継続しているのは、立派なものだと思う。

今回の指揮はユベール・スダーン氏。オランダ出身で、かつてザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団の音楽監督などを経て、現在は東京交響楽団の桂冠指揮者を務め、ドイツ音楽に造詣が深い。オーケストラは、東京交響楽団で、ミューザ川崎シンフォニーホールを本拠地とし、80年もの歴史を持つ。ソリストの小山実稚恵さんは、チャイコフスキー・コンクールとショパン国際ピアノコンクールに入賞した日本を代表するピアニスト。そして、本日のプログラムは、3曲。

最初の曲は、ウェーバーの歌劇"魔弾の射手"序曲。この歌劇は、ドイツの民話を基にし、初めてドイツ語によって書かれたもの。深い森の情景や悪魔との契約といったロマン主義的要素が満載のドタバタ劇で、序曲は物語の進行状況をオーケストラによって表現するものだ。指揮者のスダーン氏の得意分野らしく、一気呵成に演奏された。
2曲目は、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18。ラフマニノフが28歳(1601年)の作品で、交響曲第1番の初演失敗から立ち直り、作曲家として注目される契機になった。ロマンティックな旋律に溢れるピアノ協奏曲の人気曲である一方、大きな手のピアニストでなければ弾きこなせない難曲と言われている。曲は、冒頭の教会の鐘を思わせるピアノの打鍵が印象的な第1楽章、瞑想的な旋律の第2楽章、そして華やかなリズムと圧倒的なフィナーレに続く第3楽章へと続く。ステージ横の3階席で聴いていたので、ピアニストの手の動きがよく見えた。オーケストラと同期して滑らか旋律を奏でる一方で、時としてオーケストラに呼応して強烈な打鍵が飛び出し、なかなかスリリング。これこそが協奏曲の醍醐味だと思った。
協奏曲の演奏後、ピアノソロのアンコールがあった。同じくラフマニノフの前奏曲op32-5。曲想は物静かで、メランコリック。協奏曲とは異なるラフマニノフの一面が感じられた。更に鳴り止まぬ拍手に応えて、2曲目はショパンの夜想曲Op.9-2、あの映画"愛情物語"の To Love Again のオリジナル曲だ。抑制に効いた自然な演奏と感じた。
休憩を挟んで、3曲目はドヴォルザークの交響曲第9番Op.95"新世界より"。ドヴォルザークがニューヨーク滞在時代に作曲し、アメリカの黒人霊歌や先住民の音楽ばかりでなく、故郷ボヘミアへの郷愁など、異国情緒を融合させて親しみ易いメロディに溢れている。それを当時(19世紀末)の管弦楽作曲手法を駆使して聴き応えのある2管編成の交響曲に仕立てた。東京交響楽団の演奏は起承転結の明確なメリハリのある演奏だった。3階席からオーケストラを眺めると、演奏者が出番を控えて準備している様子がよく分かる。家路のテーマをソロで吹くイングリッシュホルンの奏者の緊張の様子だとか、管楽器奏者が楽器を持ち替えたりとか、チューバは置いてあったが何時鳴ったのだろうか、…のようなことを発見したが、個々の演奏者がどのように音楽全体に貢献しているかが分かり興味深かった。
この後に、アンコールとしてウィンナ・ワルツの定番であるヨハン・シュトラウス1世の"ラデツキー行進曲"が演奏された。スダーン氏はオーケストラを指揮しつつ、聴衆に対しても拍手のタイミングや大小を指示しながらステージを駆け巡る。会場はウィンナ・ワルツと拍手で満たされ大団円を迎える。所沢に居ながら、ウィーンの気分が味わえた。

終演後にロビーで小山実稚恵さんのサイン会があり、100人程度の列ができていた。このミューズ・ニューイヤーコンサートはすっかり定着した感があり、手軽に地元で質の高いオーケストラ音楽を楽しむには良い機会だと思う。来年も期待したい。


