アツバキミガヨラン - たくましく生き続ける異国の植物
アツバキミガヨラン(厚葉君が代蘭)は、キジカクシ科ユッカ属(イトラン属)の耐寒性常緑低木。原産地は北アメリカの砂漠地帯。属名のユッカで呼ばれることもある。学名のYucca gloriosa(栄光のある)から"君が代は栄える"と解釈され、しかも葉が厚くランのような花をつけるので、日本では"アツバキミガヨラン"と呼ばれることになった。海外では、花がユリにも似ているのでヤシのユリとか木生ユリと呼ばれたり、剣のような葉からスペインの両刃の短刀とかアダムの針との名もある。
一般にユッカ属植物は、常緑の葉は線状で先が鋭く尖って束になって四方に広がり、この独特な葉の形態から観葉植物となっている。更に本種の場合は、高さ1mを超える長い花茎をつけ、ランの花を思わせるような大きな釣鐘型の多数の花をつける。この葉と花の組合せが異国的な情緒を感じさせ、人目を引く。日本には幕末期に、オランダ経由で渡来し、園芸植物として庭園や花壇に植栽された。
しかし、外来種であるがための苦労も多い。原産地では、繁殖は受粉を媒介するユッカ蛾がいるが、日本にはいないため結実は出来ない。園芸種として植栽するなら、挿し木や株分けをすれば良い。ところが、自然のままに放置しておくと、地下茎から栄養繁殖をしたり、倒れた茎が地面に触れると発根することもあるらしい。このため、異国に生きる環境のハンディキャップがあっても繁殖力は強く、環境省の生態系被害防止外来種リストの重点対策外来種に含まれる。また、日本で生育しているアツバキミガヨランは年に2回花が咲き、春から初夏には白い花、秋にはやや赤みがかった花がつく。このような行動は、四季のある異国の日本で身につけたものだろうか、それとも本来この植物が持ち合わせている遺伝子の業なのだろうか。何処の地でもたくましく生きていく術を持っているようだ。

【基本情報】
・名称:アツバキミガヨラン(厚葉君が代蘭)
・別名:ユッカラン、グロリオサ
・学名:Yucca gloriosa
・分類:キジカクシ科 ユッカ属(イトラン属)の耐寒性常緑低木
・原産地:北アメリカの砂漠地帯
・分布:日本では園芸植物として、庭園などに植栽される
・花言葉:勇壮、偉大、颯爽
■生態
アツバキミガヨランは雌雄同株で、花は両性花。地表から太く短い幹が直立し、幹の上部を取り巻くように螺旋状に多数の葉がつく。群生する葉の中から長い花茎が伸び、全体の樹高は2.5m程度にもなる。一枚の葉は剣のように細長く、平行葉脈があり、先端は鋭い針のように尖る。しかも葉は厚く丈夫なので、下に垂れることないので、葉全体は、幹から放射線状に広がって見える。群生する葉の中から、1mを超えるような花茎が伸び、その先に円錐花序をつくり、白い釣鐘状の花を多数つける。







■花
花は、春と秋の二季咲き。春の花は白いが、秋の花は淡紅色を帯びる傾向がある。蕾は細長く、最初は上向きにつくが、開花が近づくと下向きになる。開花すると、直径は数cmに膨れるが、開口部は小さく、内部を観察するのは容易でない。花弁は6弁で、雄蕊は6本、雌蕊は1本だが柱頭は3裂する。雄蕊の花糸は折れ曲がり、葯がやや離れたところにつく。このような構造でも、原産地ではユッカ蛾が上手く花粉を運んでくれたのだろう。花の最盛期には、大きな釣鐘型の花が多数下向きにつき、なかなか壮観だ。







■果実
日本には、アツバキミガヨランの花粉を運ぶユッカ蛾がいないため結実はせず、花が枯れた後は何も残らない。このアツバキミガヨランとユッカ蛾の特別な組合せが必須なのはどういう理由があるのだろうか。アツバキミガヨランはユッカ蛾によって受粉して種子が出来、ユッカ蛾はアツバキミガヨランに卵を産み付け、幼虫となったときの食料とする相利共生の関係にあると言われている。

■近縁種 キミガヨラン
キミガヨラン(君が代蘭)は、ユッカ属の常緑低木。原産地はアメリカ西南部からメキシコの西海岸。日本には明治中期に渡来し、やはり園芸植物として洋風庭園などで植栽されている。一瞥しても、アツバキミガヨランとミガヨランの区別は難しい。名の通り、キミガヨランはアツバキミガヨランより葉が薄いので、葉の先は下に垂れ易いことだが、これはアナログ的な差異なので目安にしかならない。そのためか日本では、アツバキミガヨランとミガヨランを纏めてユッカと呼ぶばれることもある。

■アツバキミガヨランと日本人
北アメリカ原産のアツバキミガヨランは、外来種として日本ばかりでなく世界のあちこちで繁殖している。イタリアにおいても、中部の海岸砂丘に侵入し、外来種としての能力を発揮し、他の植物の生息地を奪い、生物多様性を脅かしている。イタリアのピサ大学の研究グループが"Ecophysiology_of_Yucca_gloriosa_in_a_Mediterranean_sand_dune_environment(地中海砂丘環境におけるユッカ・グロリオサの生態生理学)"で生物学的な立場からこの植物について言及している(詳細はここをクリック)。アツバキミガヨランの光合成の方法は、大部分の植物と同様にC3–CAM(中間物として3-ホスホグリセリン酸と呼ばれる3炭素化合物を生成する方法)による。この植物の生態を調べるために、1年間にわたり分析を実施した。実施項目は、CAM活性(Crassulacean Acid Metabolism)、光化学効率、気孔コンダクタンス、相対水分含量、多肉指数…等々。実験環境は、季節による変動や、海岸線か内陸部の場所による変動も考慮した。その結果、温度は光合成代謝の制御に重要で季節変化に依存し、寒い冬には光合成の能力が低下してストレス症状が現れたが、地域的な変動はなかった。当たり前の結果のように思えるが、アツバキミガヨランは生理学的可塑性を持っているので、環境が変わっても元の状態に戻らずに、どんどん変化を続ける性格がある。また、イタリアにもユッカ蛾はいないので有性繁殖は出来ないので、生理学的に同じ性質を持つ個体ばかりになる。これらを考慮して、環境管理プログラムをすべきと説いている。
ここでのポイントは、アツバキミガヨランは生理学的可塑性を持っていることだろう。北アメリカから飛び出し、世界のあちこちで外来種として生き延びている証左なのだろう。


