キバナコスモス - 独自な存在感
キバナコスモスは、キク科 コスモス属の一年草。コスモスと言えば、一般的に桃色の花を咲かせるオオハルシャギク(コスモスの正式名)を思い浮かべるが、キバナコスモスはこれとは同属別種だ。このため、姿形はよく似ているが故に、黄色の花が咲くキバナコスモスは、黄色いコスモスだと誤解され易い。両者は、原産地も、花の時期も同じで、混植されていても何の違和感は感じないほどだ。しかし、良く観察すると、優美なコスモスに対し、キバナコスモスは花は多少ゴツゴツし色は限定的で、やや野性的な印象を与える。もう一つキバナコスモスに似た黄色い花がある。それは特定外来生物として名高く、初夏に群生して黄色い花を咲かせるオオキンケイギクである。夏から秋にかけて咲くキバナコスモスとは、花期や葉の様子が異なるので区別は可能だが、あたり構わず跋扈するオオキンケイギクと比べると、なんと慎ましい存在だろう。キバナコスモスの遠くからでも目につき易く、丸く明るい花とその中心に突き出て足を止めや易い雄蕊や雌蕊は、どのような昆虫にとっても居心地の良い世界だ。キバナコスモスは利他主義者なのかもしれない。

【基本情報】
・名称:キバナコスモス(黄花コスモス、黄花秋桜)
・別名:英語では yellow cosmos、sulphur cosmos
・学名:Cosmos sulphureus
・分類:キク科 コスモス属の一年草
・原産地:メキシコ
・分布:スペイン経由で、大正時代初めに日本に園芸植物として渡来し、野生化もしている
・花言葉:野生的な美しさ、野性美、幼い恋心
■生態
キバナコスモスは、種子により繁殖する1年草。種子が落ちた場所で群生領域を広げていく。茎は直立し、上部では分岐を繰り返し、葉の脇から長い花柄を伸ばしてその先に頭花をつける。茎は紫色がかったり、白い毛が疎らに生えるものもある。葉は対生し、形状は2~3回羽状複葉であり、コスモスのように針状に細くはならない。




■花
茎の葉の脇から伸びた長い花柄によって、花は茎の先端につく。蕾は外側の緑色の8枚の萼に相当する総苞片と、そのすぐ内側で中間位置にある赤味がかった黄色い総苞片に包まれている。開花すると、この2重の総苞が頭花を支えているのが分かる。キバナコスモスの頭花は、キク科の植物らしく、頭状花序を形成し、多数の舌状花と頭花を含む。開花を始めた蕾は外側に総苞があり、その内側に橙色の舌状花の花弁、中心部に筒状花が見える。開花すると、頭状花は周辺の8個の舌状花と、中心部の多数の筒状花から構成されているのが分かる。しかし、舌状花には雌蕊や雄蕊は無く、花被片だけがある。筒状花は両性花で、5本の雄蕊が1つの筒の中に収まり、この葯筒から花粉が放出された後に、漸くして雌蕊は高く突き出し、やがて柱頭が2裂して他の花の花粉を受け入れる。この雄性先熟により、自家受粉を避けている。





キバナコスモスは野生種から園芸種へ育種された歴史があるので、花の姿のヴァリエーションは豊富。花の色では、標準の橙色の他、黄色や朱色がある。花弁のつき方では一重咲きの他に、二重咲きがあるが、八重咲きのような複雑なものは見かけない。



昆虫からすると、キバナコスモスの花は、明るく大きくて視認性が良く、花弁を敷き詰めた広い足場と中央に突き出た密を含んだ筒状花は、絶好の遊び場、否、仕事場だ。多くの昆虫が訪れ、何時も賑やかだ。




■果実
花が終わると、舌状花の花弁が枯れ、筒状花の雄蕊が落ち、果実として成長を始める。若い果実は、筒状花の成長した子房の集合体で、先端に雌蕊の柱頭の名残の冠毛がつく。果実は痩果で、種子が放射線状につき、形状は嘴状のものもついて長く、その先端に2つの棘がつく。この棘は、引っ付き虫のコセンダングサのものほど強力ではなさそうで、効果の程はわからない。基本的には、生育領域周辺に種子が落ち、春に発芽するのだろう。



■良く似た花
キバナコスモスに似た花を2つ挙げる。1つは、文字通り、黄色いコスモスだ。コスモスとキバナコスモスは同じキク科コスモス属に分類されるが、別種のため交配はできない。黄色いコスモスは、コスモスの突然変異でできた品種"イエローガーデン"で、玉川大学の研究成果だ。当初はやや薄い黄色だったが、更に改良を進め、より黄色味の強い"イエローキャンパス"も開発された。また、筒状花の高さは、キバナコスモスのほうが大きい。そして、葉の形はコスモスのほうが針のように細く、区別がつく。

もう1つは、キク科ハルシャギク属のオオキンケイギク。日本の侵略的外来種ワースト100に選定されるほど、悪名高くなってしまった。花はそっくりで、敢えて言えば花弁の先端がよりギザギザしていること。明確に区別するには、葉の形で分かる。キバナコスモスの葉は細かく切れ込みがあるが、オオキンケイギクの葉は細長く、ヘラのような形をしている。

■キバナコスモスと日本人
キバナコスモスは、大正期に園芸種として渡来して以来、基本的な立ち位置に変化はない。庭園から逸出して自生しているものもあるが、オオキンケイギクとは比較にならない程度だ。また、立川の昭和記念公園では秋になると、恒例の色とりどりのコスモス畑が出現する。キバナコスモスには、そのような器量はない。歴史にも、文学にも、食用や薬用にも登場しない珍しい植物かもしれない。外来種で地味な植物だが、日本の自然環境に同化し、昆虫を集め 生態系のバランスを保つ役割を果たしているのであろう。


