ヒメジョオン - 質実剛健なイメージの双子草
ヒメジョオン(姫女菀)は、キク科ムカシヨモギ属の雑草。北米原産で、現在ではアジアや欧州にも分布している。日本には1865年頃に観賞用植物として導入され"柳葉姫菊"と呼ばれたが、明治期には早くも雑草化して鉄道の線路沿いに拡がったので"鉄道草"とも呼ばれた。ヒメジョオンは種子で増えるが、花期が長いため、秋にロゼッタを作り越冬したり(越年草)、次の春に種から発芽したり(1年草)して、強力な繁殖力を持つ。このため、日本の侵略的外来種ワースト100指定種でもある。しかし、かつて観賞用植物だけあって、夏から秋にかけて、長い茎の先に多数の小さな白い花をつける様子は、背の高い菊を思わせる優雅さがある。ところが、春にはそっくりなハルジオン(詳細はここをクリック)が咲き、一見すると春から秋まで同じ花が咲いているような錯覚を受ける。このハルジオンもヒメジョオンも出自も日本での取り扱われ方も同様な双子草だ。観賞的な視点では、ハルジオンは少し小さく、根元上方の葉が多く安定感があり、蕾や花は淡紅色を帯びて華奢な雰囲気があるが、ヒメジョオンは少し背が高く、葉は少なくて細身に見え、茎の先にやや小さな多数の白い花を咲かせるので、質実剛健な印象を与える。ヒメジョオンの実態はどうなのだろう。

【基本情報】
・名称:ヒメジョオン(姫女菀)
・別名:柳葉姫菊、鉄道草
・学名:Erigeron annuus
・分類:キク科 ムカシヨモギ属の一年草または越年草
・原産地:北米原産で、欧州、日本を含むアジア)に移入分布
・分布:江戸時代末期(1865年頃)に観賞用に渡来し、明治初期には全国的に雑草化
・花言葉:素朴で清楚
■生態
ヒメジョオンは、陽当りのよい環境が適しているものの、牧草地や野原、林縁など何処でも生える程の繁殖力がある。市街地の舗装道路の割れ目からも芽生えるスキマ植物でもある。ヒメジョオンの花の時期は、初夏から晩秋にも及び、花は五月雨式に咲き、その度に多くの種子を作り出す。冬を前に長い葉柄のある根生葉が集まりロゼット状になり、冬を越すものもある。また、種子のまま冬を越し、翌春に発芽するものもある。春になると、茎は真っ直ぐに伸び、茎先に散房花序をつくる。花期になると、ロゼット状の根生葉は消失し、毛の生えた茎が地面から直立する。葉は茎の側面に接するようにつき、茎に互生する。葉の形は長楕円形で、下方の葉には粗い鋸歯がある。





■花
花の構造は、一般的なキク科の植物と同様に、舌状花と筒状花の集合体が頭花を構成している。茎が上に伸び、その先端が分岐すると、複数の蕾が散房状につくが、その向きは、上、横、下など様々で一律ではない。蕾が開く直前には、外側にある舌状花の花冠が白色であり、蕾が開いても白色のままだ。頭花は、周辺部の舌状花と中心部の筒状花で構成される。舌状花は白く長い花被はあるが雄蕊も冠毛もない雌性花であり、筒状花は全て揃った両性花だ。萼に相当する総苞が、多数の舌状花や筒状花を束ねている。






初夏から晩秋まで絶えず咲き続けるヒメジョオン花には多くの昆虫が集まる。花の蜜を求めた蝶や蜂などが、花粉を食べにカメムシやハナムグリ、バッタの幼虫が、花に隠れて狩をするクモなどが訪れ、大変賑やかだ。


■果実
花期が終わると、舌状花も筒状花も、それぞれの花の中で果実の成長が本格化する。果実は倒披針形の痩果であり、これが種子にあたる。筒状花がつくる種子は綿毛によって拡散される。舌状花の種子は近くの地面に落ちる。1個体あたり47,000以上の種子をつくり、更にその種子の寿命が35年程度と言われており、驚異的な繁殖能力がある。種子が飛んでいった後は、茎の先には露出した花托(花床)が残る。



■近縁種ハルジオンについて
ハルジオンとヒメジョオンは、ともにキク科ムカシヨモギ属の植物だが、別の種類なので良く見ると物理的な相違は明確に存在する。それは、比較リストにまとめたが、日本文化の中での存在意味という点では、かなり雰囲気が異なるような気もする。イメージ的には、ハルジオンは春の花で、うつむき加減の蕾には詩情を感じるが、ヒメジョオンは夏から秋のたくましい雑草。名称は、ハルジオンは、秋に薄紫色の美しい花を咲かせる紫苑になぞらえ春に咲くので春紫菀、ヒメジョオンは、ハルジオンとの対比でヒメジオンと呼びたいところだが別種のヒメジオンがあってため、仕方なくヒメジョオンになった。有用性としては、ハルジオンは食用や薬草になったが、ヒメジョオンはあまり利用されていないらしい。ヒメジョオンには気の毒だが、そんなことは気にせず、雑草魂で生きてほしい。殆どの日本人は、ハルジオンとヒメジョオンの区別はつかないのだから。


■ヒメジョオンと日本人
殆ど人の役に立たないと思われているヒメジョオンだが、何か目新しい話題がないか調べてみた。すると、信州大学の研究グループによる"霧ケ峰八島高原における主要帰化植物の生態と駆除に関する実験"のレポートを見つけた(詳細はここをクリック)。
霧ケ峰八島高原にビーナスラインなどの自動車道が開通すると、十数種の帰化植物が繁茂するようになり、在来植物の生存が脅かされている。帰化植物の中でもヒメジョオン類(ヒメジョオンとヘラバヒメジョオン)が目立つ。これらを駆除する方法として、引き抜き駆除は効果が薄く、踏みつけ駆除は他の植物への損傷が問題。このため、根元剪定による駆除が実施され、効果が期待される(だが、多大な労力が必要と思う)。また、厄介なことに、ヒメジョオン類の根からの抽出物は他の植物の発芽を抑制する効果(アレロパシー)があるので、在来植物の生存環境に影響を与えそう。今のところ、良い知見は得られていないが、侵略的帰化植物への対応の難しさを明らかにした。ヒメジョオン類とは、長い付き合いになりそうだ。


