新交響楽団第269回演奏会 - 芥川也寸志生誕100年記念
2025年4月19日にサントリーホールで開催された新交響楽団(新響)定期演奏会は、新響と縁の深い作曲家で指揮者でもある芥川也寸志氏(1925~1989年)の生誕100年を記念したものだ。演奏曲目のうち、1曲目の"オルガンとオーケストラのための「響」"は芥川氏自身の作曲、2曲目のロシアの作曲家シチェドリン(1932年~)の"ピアノ協奏曲第2番"は、シチェドリンが自作曲の日本初演の際に、芥川氏が立ち会った縁、そして3曲目のショスタコーヴィチ(1906~1975年)の"交響曲第4番"は、芥川氏自身が新響を指揮して日本初演を果たした曲だ。

■サントリーホール
会場の東京赤坂にあるサントリーホールは、1986年の落成記念演奏会で、1曲目の芥川也寸志氏の作品が演奏された因縁がある。このホールは、座席がステージを囲む日本初のヴィンヤード型(葡萄畑状)であり、世界でも最大級のオーストリアのリーガー社のパイプオルガン(パイプ数5,898本)も設置されている。日本を代表するコンサートホールであり、東京のビルの谷間にあるが、アーク・カラヤン広場に面していて、周辺には様々なレストランなども多く、ヨーロッパの街角を感じさせる雰囲気がある。

コンサートホールの内部は、ステージの周辺の座席を立体的に配置した日本初のヴィンヤード型だか、その後に創られた同型のホール、例えば川崎のミューザ川崎シンフォニーホール(ここをクリック)と比べると、奥に行く程シューボックス型に近くなる印象を受ける。新しい日本のコンサートホールの典型として、日本各地のコンサートホール創りの際に常に参照される立場にあるホールだ。



■プログラム
今回の指揮者は、新鋭気鋭の坂入健司郎氏。一般の大学を卒業し、会社勤めも経験し、後期ロマン派や現代音楽を得意とする。
最初の曲は、 芥川也寸志の"オルガンとオーケストラのための「響」"。オルガン独奏者は石丸由佳氏で、所沢ミューズの第5代ホールオルガニストでもある。20世紀のオルガン協奏曲と言えば、フランス6人組のプーランクの"オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲"を思い出す。オルガンの神聖な旋律に続き弦楽郡がそれに続き、それらが次々と変化して絡み合い、ティンパニが流れを引き締め、最後はプーランク独特の生命力溢れる音楽になる。今回の「響」は、プーランクの曲とは、かなり様子が異なる。序奏でオーケストラがモチーフを提示した後、オルガンが登場する。そのオルガンの響きは、オーケストラの音量に勝るほどの迫力があり、次の展開に期待したが、オーケストラの変奏と展開が延々と繰り返し、時々オルガンが加わって進行する。曲のエンディングは盛り上がったものの、全体的に魅力的なメロディーに乏しくメリハリも弱いので、凡人には共感しにくい音楽だ。この曲は、自作の「オステェナータ・シンフォニカ」(1967年)をベースに、オルガンを加えて作曲した経緯がある。サントリーホールの記念演奏会に向けた機会音楽として捉えると良いのかもしれない。
2曲目は、シチェドリン(1932年~)の"ピアノ協奏曲第2番"。ピアノ独奏者は、6歳からモスクワで学び、現在期待のピアニスト松田華音氏。第1楽章は、12音階的ピアノの打鍵が連続的に続き、オーケストラはわずかに反応し、冒頭のモチーフが戻ってくると、合奏になって静かに終わる。第2楽章は、打楽器を中心としたリズムが通奏低音のように支配し、無窮動のようなピアノや管楽器の優雅な旋律が現れては消える。第3楽章は、冒頭の不協和音に続き、弦楽器の合奏があり、突然ピアニストの背後に、ベース奏者とドラム奏者が登場し、モダンジャズ風にグルーブ感のある音楽に変化し、盛り上がって終了。技巧的には精巧で、面白い音楽とも感じるが、何か気楽なノリで必然性のある音楽のようには感じられず、感動はしなかった。この曲は1967年の初演で、スターリン(1878~1953)の死後14年経過しているが、ロシア社会も変節してしまったのだろうか。その後、松田華音さんがアンコール曲を披露してくれた。ダイナミックな曲想で、見事な演奏だ。曲は、シチェドリンの《バッソ・オスティナート》(「2つのポリフォニックな小品」より)とのことだ。
休憩を挟んで、最後の演目はショスタコーヴィチの"交響曲第4番"。この曲は1936年に完成したが、当時のソ連の政治的状況下で、演奏を封印し、1961年になって漸く初演された。この曲は、マーラーに感化されたと言われ、ショスタコーヴィチの交響曲の中でも、編成が大規模で、演奏は技巧的に難しく、かつ演奏時間も長く、当時の作曲者の心象を現してか暗い音楽だ。この難曲を坂入氏は、指揮の身振りは大きく、演奏者への指示は的確で、インテンポで緊張感を維持しながら音楽を進めていく。そのためか、それぞれの楽器が合奏の中でも鮮明に聞こえるのは、生演奏の醍醐味だ。60分にわたる大曲だが、聴き応えのある演奏だった。
今回の演奏会も、新響らしい選曲で、大いに好奇心にかられた。3曲とも演奏は容易でなく、練習は大変だったと思う。しかし、難曲に挑戦するのは新響の信条であり、今後も期待している。




