ヤマブキ - 一重も八重も個性的

 ヤマブキ(山吹)は、バラ科ヤマブキ属の落葉低木で、本種のみの一属一種。日本は原産地の一つで、北海道の一部を除く全国の山地や林などに群生し、早春になると多数の5弁の黄色の花をつける。この鮮やかな黄色は、黄金色とも山吹色とも呼ばれ、春の季節を告げる象徴となっている。また、少しの風でもしなやかな枝が風に振られることから"山振"と呼ばれ、これが"山吹"の起源になったとの説がある。美しい花なので、民家の庭には八重咲きに品種改良されたヤエヤマブキ(八重山吹)が庭木として植栽されている。かつて、室町時代後期の武将太田道灌が鷹狩で雨に遭い、蓑を借りるために民家を訪ねると、娘から"七重八重花は咲けども山吹の実の(蓑)一つだになきぞかなしき"という古歌を教えられ、これが蓑がないとの返事と分からず、己の不明を恥じた道灌は、歌道を志し、文武両道の名将になったという逸話がある。その地が、越生の龍穏寺あたりだろうと埼玉県人は硬く信じている(候補地は多々あるにしろ…)。ここで言いたいのは、既に戦国時代にはヤエヤマブキが存在し、和歌に詠まれるほど浸透していた事実だ。そればかりでなく、地方自治体指定の花をヤマブキとしているところも多く、山吹色は花言葉"金運"を示唆する色でもあり、ヤマブキには何か特別な存在感がある。

ヤマブキの花 (‎2013‎年‎3‎月‎23‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ヤマブキ(山吹)
 ・別名:ヤマブリ(山振)、オモカゲグサ(面影草)、かがみ草、中国名:棣棠(ていとう)
 ・学名: Kerria japonica
 ・分類:バラ科 ヤマブキ属(本種のみの一属一種)の落葉低木
 ・原産地:日本、朝鮮半島、中国
 ・分布:日本では北海道南部、本州、四国、九州
 ・花言葉:気品、崇高、金運

■形態
 樹高は人の高さ程度で、根元から株立するが、茎は細く柔らかいので、枝の先はしなだれる。幹の根元の太いところは灰褐色だが、若い枝は鮮やかな緑色でジグザグ状に伸びる。葉は互生し、先が細い卵形で、葉縁は二重の鋸歯でギザギザが目立ち、葉は薄く、表面に皺がある。葉柄の付け根に小さな托葉がつくが、成長すると落ちる。蕾は、新しく出た短い側枝の先端に一つずつつく。

ヤマブキの株 (2003‎年‎4‎月‎13‎日 昭和記念公園)

若い枝は鮮やかな緑色でジグザグに伸びる (2024‎年‎4‎月‎2‎日 所沢市)

葉は互生し、蕾は当年枝の先につく (2024年4月12日 所沢市)

■花
 ヤマブキの蕾は、当初は緑色の小さな楕円体をしているが、やがて黄色い螺旋形になる。開花すると、花弁は鮮やかな黄色の5弁で、先は丸くてわずかに凹む。また萼も5裂する。開花後は、花弁は平面的に広がり、花の中心部にある黄色い花糸と葯を持つ多数の雄蕊が目立つ。雌蕊に相当するものも花の中心に5本程度あるが、短く細いので分かり難い。雌蕊相当のものが、近くにある雄蕊より短いのは、自家受粉を避けるためのようだ。この雌蕊相当というのは、子房を包む心皮と言われるもので、これが熟すと果実になる。

未だ固い蕾 (‎2024‎年‎4‎月‎2‎日 昭和記念公園)

開花間近のらせん状の蕾 (‎2014‎年‎4‎月‎7‎日 所沢市)

同上 (‎2014‎年‎4‎月‎7‎日 所沢市)

花弁は5枚で、先が少し凹む (2008‎年‎4‎月‎6‎日 所沢市)

萼片は、花弁と同様に5個 (2024‎年‎4‎月‎12‎日 所沢市)

開花すると花弁は平面的に広がる (2008‎年‎4‎月‎6‎日 所沢市)

同上 (‎2012‎年‎4‎月‎22‎日 所沢市)

花の中心部には多数の雄蕊と、短い数本の雌蕊のようなものがある (2004‎年‎4‎月‎17‎日 所沢市)

花とハナアブ (2005‎年‎4‎月‎23‎日 所沢市)

これは食害をもたらすハムシの仲間か? (2024‎年‎4‎月‎12‎日 所沢市)

■果実
 花が終わり、花弁が落ちると、萼に囲まれた小さな未熟の果実が現れる。これが次第に緑色の大きな楕円体になる。その個数は5個のものが多いが、様々。秋になると熟し、暗褐色になる。果実は痩果で、中に種子がある。冬が近づくと葉は黄葉するが、落葉する過程のようで鮮やかさはない。

花弁が落ちると、未熟な果実が見えてくる (‎2024‎年‎7‎月‎1日 所沢市)

果実の数は様々だが、5個が多い (2024‎年‎6‎月‎5‎日 東京都薬用植物園)

成熟途中の5個の果実 (‎2024‎年‎6‎月‎17‎日 所沢市)

同上、2個の場合 (‎2024‎年‎6‎月‎17‎日 所沢市)

冬が近づくと葉は黄葉する (2001‎年‎12‎月‎1‎日 所沢市)

■ヤエヤマブキ
 ヤエヤマブキ(八重山吹、学名:Kerria japonica cv. Plena)はヤマブキとは同属で、品種の相違。具体的には、ヤマブキの雄蕊に異変が起きて花弁に変わってしまい八重咲きとなった。そのため雄蕊の花粉がないので受粉できず、果実や種子ができなくなった。このため、繁殖には株分けや挿木に頼るしかなく、ヤエヤマブキはヤマブキの園芸種の位置づけになっている。八重の花の花弁は、外側から開き始め、最後に中心部が開くと半球型のボリューム感のある黄色い花弁の塊になり、ヤマブキと比べるとかなり豪華。観賞用に庭木として植栽されるのも納得。

蕾 (‎2024‎年‎4‎月‎12‎日 所沢市)

花は周辺から開く (2005‎年‎4‎月‎23‎日 所沢市)

満開の花 (‎2012‎年‎4‎月‎22‎日 所沢市)

同上 (‎2010‎年‎4‎月‎25‎日 所沢市)

満開時の枝の様子 (‎2004‎年‎4‎月‎17‎日 所沢市)

■ヤマブキと日本人
 ヤマブキといえば、黄金色で質実剛健な一重のもの、少し大振りで豪華で重量感のある八重のものがあり、それぞれが個性的だ。人里では、ヤエヤマブキを見かける機会が多いので、ヤマブキには果実ができないという、昔からの都市伝説が現代でも残っているのはこのためだろう。しかし、一重と八重の2つのヤマブキは、物理的な構造も視覚上の印象も異なるにも拘らず、これらを日本人は春の花、黄金色の花、凛とした気品のある花と捉え、区別せずに愛でているように思う。もともと、ヤエヤマブキはヤマブキの突然変異で姿が少し変わってしまっただけなので、そのような気もする。