ナツツバキ - 理想的で高尚な花

 ナツツバキ(夏椿)は、ツバキ科ナツツバキ属の落葉広葉樹の中高木。初夏に、枝いっぱいに次から次へと白い花を咲かせる。寒い季節に色とりどりの花を咲かせるツバキの仲間だが、花の形が似ているので、本種をナツツバキと呼んでいるが、性格はかなり異なる。原産地は、日本と朝鮮半島。日本では本州の西部や四国、九州の山地に自生。花は、5枚の白い花弁とボリューム感のある黄色い蕊を組み合わせた一日花で、明快さと清楚さと儚さを感じさせ、観賞用として人気があり日本各地で庭木として植栽されている。また、仏教の聖樹である沙羅双樹(サラソウジュ)がナツツバキと誤認されてしまったため、ナツツバキにはシャラノキ(沙羅木)の別名もあり、何やら高尚な雰囲気もある。ツバキ科の植物は常緑樹が多いが、ナツツバキは落葉樹であり、若葉や花、黄葉、果実など、四季の変化を楽しめる。変わり者のナツツバキとは、どのような植物だろうか。

ナツツバキの花 (2022年6月17日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ナツツバキ(夏椿)
 ・別名:シャラノキ(沙羅木)、サラノキ、シャラ、サルナメ、シャラソウジュ、サラソウジュ、サルスベリなど、但し別の植物を指す場合があるので要注意。
 ・学名:Stewartia pseudocamellia
 ・分類:ツバキ科 ナツツバキ属の落葉広葉樹の中高木
 ・原産地:日本、朝鮮半島
 ・分布:日本では宮城県、福島県、新潟県以西の本州、四国、九州の山地に自生。栽培可能地域は、北海道南部から九州。
 ・花言葉:愛らしさ

■形態
 ナツツバキは、自然にまかせていると、樹高は20mにも及ぶ。株は真っ直ぐに伸び、樹皮は薄く不規則に剥がれて、独特の褐色や灰褐色の斑紋ができ、表面はつるつるして良く目立つ。このため、サルスベリとの別名もある(ミソハギ科の百日紅と紛らわしい)。葉は互生し、卵形で、葉先は尖り、葉縁に細かい鋸歯があり、表面に光沢はない。また、ナツツバキは落葉樹なので、秋には葉の色が黄色や橙色に変化し、落葉する。

全景、自然に任せると樹高は意外に大きくなる (2023年7月22日 北海道中札内村)

樹皮の外観からサルスベリの別名もある (2024年6月14日 所沢市)

葉は互生し、卵形で葉脈が目立つ (2023年5月16日 所沢市)

■花
 花は梅雨の時期に咲く。花弁は白く5枚で、縁には細かいしわがある。花の中央には多数の雄蕊があり、黄色い花糸が目立つ。また、雌蕊の花柱の先は5裂する。蕾は朝に開花し、夕方には落花する一日花である。

葉の付け根から花芽が出る (2023年4月10日 所沢市)

蕾は多数発生する (2023年5月23日 所沢市)

開花直前の蕾 (2023年6月11日 所沢市)

蕾が開き始める (2014年6月20日 所沢市)

同上 (2021年6月12日 所沢市)

開花した花 (2013年6月22日 所沢市)

多数の雄蕊と、花柱の先が5裂した雌蕊 (2014年6月16日 所沢市)

萼と花弁は5枚 (2014年6月19日 所沢市)

花に潜り込むミツバチ (2022年6月17日 所沢市)

 花弁は白いが、その中にピンクや緑色の斑点があるものが散見される。ピンクの斑点は、花弁に含まれるアントシアニンが太陽光に含まれる紫外線と反応したものではないかとの説がある。緑色の斑点の原因はよくわからないが、良く見ると花の脈がピンク色がかって見えるので、もしかしたらピンク色に変化する途中のプロセスなのかもしれない。これらの斑点を眺めていると、白い花の中に笑窪が出来たようで、なかなか魅力的だ。

花弁のピンクの斑点 (2021年6月16日 所沢市)

花弁の緑色の斑点 (2007年6月3日 所沢市)

■果実
 秋になると果実は熟し、楕円体に5つの稜線が目立つようになり、尖った先端は5裂し、果殻は冬を越し翌年の春まで枝に残る。

未熟な果実 (2023年9月25日 所沢市)

熟成中の果実 (2023年10月31日 所沢市)

冬には5裂した果実が残る (2002年12月15日 所沢市)

■近縁種 ヒメシャラ
 ヒメシャラ(姫沙羅、学名: Stewartia monadelpha)は、ナツツバキと同様、ツバキ科ナツツバキ属の落葉樹。形態はナツツバキに似ているが、花も葉も小ぶりなのでこの名がついた。日本の特産種で、本州の一部、四国、九州などに自生するが、ナツツバキと同様に庭木として植栽されている。ナツツバキと比較すると、花がやや小さいこと、葉がナツツバキの様な卵形ではなくやや細いことから見分けがつく。

ヒメシャラの枝 (2023年6月1日 所沢市)

ヒメシャラの花 (2012年6月17日 所沢市)

■ナツツバキと日本人
 既には自生株があり、その後観賞用として人家の周辺で栽培されるようになると、より珍しいものを目指して人の手が加わり、品種改良が進められるのが常である。しかし、ナツツバキは原種の姿のままでも、花の清楚な美しさや儚さなど、四季折々の姿が日本人の感性に寄り添っていているので、敢えて変える必要がなく原種のままの姿だ。茶道の茶花、俳句の季語としての沙羅の花、仏教における沙羅双樹のイメージは、まごうことなきナツツバキそのものだ。例え薬用や食用など、実用的な役に立たないとしても、それがどうした。ナツツバキは、理想的で高尚な花として、日本人に愛され続けるのだ。