クチナシ - 益多くとも、はかない美しさ

 クチナシ(梔子)は、アカネ科クチナシ属の常緑低木。原産地は日本を含む東アジアで、日本では静岡県以西の照葉樹林内に自生するが、庭木として広く栽培されている。和名の"クチナシ(口無し)"は、果実は熟しても裂けないので、命名されたとの説がある。クチナシは、初夏の白い一重の6弁花や、秋の赤黄色に熟した果実が常緑の葉に映え、シンプルな構成ながら良く目立つ。また、食品や繊維の着色料や、生薬"山梔子(さんしし)"の原料など、古くから日本では日常的に役立つ植物にもなっている。園芸用には、豪華な八重咲きのクチナシがあり、海外ではガーデニアと呼ばれて主流になっている。学名の中に含まれる jasminoides はラテン語で"ジャスミンのような"という意味であり、キンモクセイやジンチョウゲとともに三大芳香木とされている。実用的にも良し、観賞しても良しのクチナシはどのような植物だろうか。

クチナシの花 (2010年7月17日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:クチナシ(梔子)
 ・別名: 漢名では山梔(さんし)
 ・学名:Gardenia jasminoides
 ・分類:アカネ科 クチナシ属の常緑低木
 ・原産地:日本を含む東アジア(中国、台湾、朝鮮半島、インドシナ半島など)
 ・分布:日本では、本州の静岡県以西、四国、九州、南西諸島の森林に自生、他に各地で庭木として栽培される
 ・花言葉:優雅、喜びを運ぶ、幸せを運ぶ、清潔、私は幸せ、胸に秘めた愛

■形態
 常緑の低木で、根元から複数の茎が上に向かって伸びる。葉は、光沢があり、はっきりとした葉脈が入っており、形は楕円形で先端が尖り、枝に対して対生につく。花の寿命は短く、白い花が開いた翌日には黄色味を帯びて萎み始め、ほぼ一日花といって良い。このため、花期には蕾、白い花、萎れた花の残滓が枝に混在する。

クチナシの枝 (2014年6月12日 所沢市)

花の寿命は短く、枝には蕾、盛りの花、萎れた花が混在 (2014年6月12日 所沢市)

■花
 葉の付け根から短い花柄を出し、萼や花冠の基部が筒状で、先は大きく6裂(たまに5、7裂も)する。花の中央にヒゲのような褐色の雄蕊が6本と楕円体の雌蕊がある両性花である。開花直後でも花の中央部には花粉があり、自家受粉が可能。自然界ではこれが普通なのかもしれない。しかし、雄性先熟と言われているので、風媒、虫媒を頼り複数の花から花粉を集めたほうが果実のつきは良くなりそう。実際にクチナシの花を訪れる昆虫もいた。人工栽培時には、ノウハウとして筆で雄蕊の花粉を取り、他の花の雌蕊に擦り付ける方法のあるとのこと、なるほど。

開花直後の花には花粉がある (2011年7月3日 東京都薬用植物園)

花冠の基部は筒状で、先で6裂 (2013年6月15日 所沢市)

花弁は6裂、雄蕊6本、雌蕊1本 (2010年6月27日 所沢市)

花の中心部 (2010年6月20日 所沢市)

満開の翌日から黄色味を帯び始め萎れる (2005年7月17日 東京都薬用植物園)

花とカマキリの幼虫 (2014年6月16日 所沢市)

■果実
 秋に果実をつけるが、未熟なうちは緑色、熟すにつれて赤黄色に変化する。果実は楕円体の液果で、側面にくっきりと6本の稜が突き出ており、先端には6個の萼片が針状について残る。果実の果皮の中に100個程度の卵形や広楕円形の種子が入っていて、液果は冬に熟す。

未熟な緑色の果実 (2012年10月20日 所沢市)

成熟するにつれ果実は赤味を帯びる (2014年1月11日 所沢市)

果実は冬まで残る (2012年2月19日 所沢市)

■利用価値
 クチナシの果実は赤黄色だが、カロチノイドという黄色の色素が含まれ、古代から、布を染めるのに用いられた。また、クチナシは有毒物質を含まないため、栗きんとんや沢庵、凍豆腐、和菓子、餅等の食品に自然由来の着色料として広く使われている。
 熟した果実を熱湯に浸したあと、天日または陰干しで乾燥処理したものを山梔子と呼び、日本薬局方に収録された生薬になっている。漢方では、消炎、利尿、止血、鎮静などの目的で処方に配剤される。また、黄連解毒湯、竜胆瀉肝湯、温清飲、五淋散などの漢方方剤に使われる。外用による民間療法では、打撲、捻挫や腰痛などに、冷湿布として用いる。

■八重咲きのクチナシ
 一重咲きのクチナシの他に、八重咲きのクチナシもある。八重咲きのクチナシは、ヤエクチナシ、オオヤエクチナシ、ガーデニアとも呼ばれ、日本や東アジアからヨーロッパに渡ったクチナシが品種改良され、里帰りしたものが園芸種として広く普及したものだ。八重咲きなので、蕾も花も幾重にも花弁が重なり、優美で豪華な雰囲気があり、芳香も強い。また、雄蕊と雌蕊があるものもあるが、一般に果実はならないと言われており、この点は不可解だ。また、熊本市の立田山ではヤエクチナシの自生地があり、天然記念物に指定されているとのことだが、自然に八重種が生育する環境があるのだろうか? 園芸の世界では、ヤエクチナシの栽培は、挿し木や株分けで行っているようだ。八重咲きのクチナシはミステリアスだ。

ヤエクチナシ の蕾 (2014年6月25日 所沢市)

ヤエクチナシの花 (2014年6月25日 所沢市)

同上、雄蕊と雌蕊があるものもあった (2004年7月11日 所沢市)

■クチナシと日本人
 クチナシはイソギンチャクのような風変わりな姿の果実を残し、それが古くから食品の着色や繊維の染料、そして薬用に利用されてきた。しかし、花はといえば、白い花弁に雄蕊と雌蕊が主な構成要素のシンプルな花で、印象には残るが、その盛りは短い。その潔さは、春のサクラ以上かもしれない。この美意識は日本人に合う。益を多くもたらす赤黄色の果実と、はかなく一瞬を飾る白い花の両方がクチナシの本質だ。