キリ - 日本的な渡来種

 キリ(桐)は、最新の分類ではシソ目のキリ科キリ属の落葉広葉の高木。中国中部が原産との説がある。日本への渡来時期は不明だが、万葉集の時代のキリはアオギリ(青桐)のようで、枕草子以降のキリが本種らしい。日本では始めは栽培され、やがて各地で野生化していった。木材としては、成長が早く、軽く、狂いが少ないので、その特性を活かして、箪笥や下駄などの日用品から文書箱や琴などの特殊用途まで広く利用されてきた。このため、関東以北の会津、津南、秋田、南部地方などでは特産物として栽培されている。昔は、娘の誕生を祝ってキリを植え、お嫁に行く時には大きくなったキリを伐って箪笥をつくる慣習が全国的にあった、これはキリの特性を良く言い表している。日本にすっかり馴染んでしまったキリだが、見た目も素晴らしい。見上げるような高木に、枝が横方向に広がり、春になると上向きの花序に花をつける。青い空を背景にした紫色の花と緑の葉のコントラストは見事だ。冬の役目を終えた果実の殻と出番を待つ蕾が寒空の中で共存している姿は、生命の継続性を象徴しているようで風情がある。

枝から直立する花序 (2023年5月2日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:キリ(桐)
 ・別名:ハナギリ、キリノキ、ヒトハグサ(一葉草)、中国名は毛泡桐、白桐、泡桐、榮
 ・学名:Paulownia tomentosa
 ・分類:シソ目のキリ科キリ属の落葉広葉の高木
 ・原産地:中国中部が原産との説がある
 ・分布:日本各地に分布、特に関東以北
 ・花言葉:高尚

■形態
 樹形は、大きいもので高さ20m、幹の直径は50cm程度になり、枝は横方向に広がり、花茎は上向きに伸びるのが特徴。樹皮は灰褐色で縦に浅く裂け、枝は楕円形の皮目が目立つ。葉は対生し、葉柄が長く、形は広卵形。葉の表面には粘り気のある毛が密生する。花が咲き終わった花序には果実が出来るが、これと別に来年咲く花のための蕾と若葉をつけた花序が出来る。このため果実の残渣と蕾のための花序が同時に存在することがある。

花期のキリの全景 (2003年5月3日 所沢市)

秋には来年に向け、蕾がついた花序が出る (2010年9月12日 所沢市)

■花
 秋に、来年に向けて枝の先に直立して大きな円錐花序が形成されるが、冬になると落葉し、蕾だけが残る。春になると、蕾が膨らみ筒状の花弁の集まりである花冠が現れる。釣鐘型の花は、花冠の先が5裂し、花弁の外側は短く柔らかい毛に覆われている。花序についた花は順次に咲いていくが、花は両性花であり4本の雄蕊(但し、葯は1雄蕊あたり2つあるように見える)と1本の雌蕊がほぼ隣接して配置されているので、自家受粉の危険性が高い。このため、キリの特産地福島では研究機関がこの課題に取り組んでいる報告もある。

葉が落ち冬を越す蕾 (2010年12月19日 所沢市)

蕾から紫色の花冠が現れる (2012年5月13日 所沢市)

蕾が徐々に開花する (2023年4月18日 所沢市)

同上 (2011年5月8日 所沢市)

ほぼ満開の花序 (2003年5月3日 所沢市)

花は釣鐘型で先端は5裂し、外側は短い軟毛に覆われる (2023年4月18日 所沢市)

同上 (2023年4月18日 所沢市)

花は両性花で、4本の雄蕊と1本の雌蕊は隣接する (2003年5月3日 所沢市)

■果実
 夏になると、先の尖った緑色の卵形の果実ができ、秋には黄色みを帯び、褐色になって熟すと2つに割れ、中から硬い翼のある種子が数千個も飛び出す。これが風によって運ばれ拡散する。枯れ残った果序は、翌年まで枝に残るものもある。

花後には先の尖った緑色の卵形の果実ができる (2003年7月6日 所沢市)

果実は熟成しながら黄色みを帯びる (2011年9月18日 所沢市)

褐色になり熟成した果実は2裂し、多数の翼を持つ種子が飛び出す (2008年12月29日 所沢市)

冬のキリのたたずまい (2002年12月23日 所沢市)

■キリと日本人
 木材としてのキリは、成長が早く、軽くて光沢があり、湿気を通さず、割れや狂いが少ないので、建具、家具、箪笥や楽器、下駄などに利用されてきた。このような実用的な目的があったので、日本ではキリは栽培樹として大切に育てられてきた。
 キリの原産地の中国では、鳳凰が"梧桐の木に宿り竹の実を食う”の故事により神聖視され、日本でも、平安時代には菊とともに桐は皇室の紋章となった。武家の世界でも、天皇から家紋に桐を下賜された足利尊氏や豊臣秀吉の例もあり、政権担当者の紋章という認識が定着した。現在でも桐は日本政府の紋章として、勲章のデザインに採用されている。長い歴史を経て、文化的には桐は高尚なイメージを創り出している。
 古くからの渡来種であるキリは、実用的にも文化的にも日本の伝統に溶け込み、脈々と生き続けている。