アケビ - 不思議な一族

 アケビ(木通、通草)は、アケビ科アケビ属の蔓性落葉低木。北海道を除く各地の山野に自生し、茎は蔓(つる)になって、他の樹木などに絡みつき、秋には甘い果実がみのる。「アケビ」の語源には、熟すと自然に果皮が開く「開け実」が転訛したとか、近縁種のムベの実は開かないがアケビは開くため「アケウベ」が転訛したとか諸説あり。また、「アケビ」は果実のみを指し、木全体を呼ぶ場合は「アケビカヅラ」と言うべきとの説もある。アケビは山菜や薬草になる他、盆栽や蔓を利用した籠など、人間との関係も深いだけに、名の由来も諸説ある。分類的には、アケビ属の代表種の位置づけでもあるが、アケビ属には他にも姿形が似たミツバアケビやゴヨウアケビもあるので、属名を指すのか、品種名を指すのか注意が必要。とは言え、春の変わった形の薄紫色の雌花や雄花、秋の大きな果実はなかなか印象に残る。

アケビの花 (2020年3月28日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:アケビ(木通、通草)
 ・別名:ヤマヒメ(山姫)、サンジョ(山女)、アケビカズラ、ゴヨウアケビ(別種を指すこともある)、オトメカズラ、アケベ、ハダカズラ、コノメ、アケビヅル、オメカズラ、カミカズラ
 ・学名:Akebia quinata Decaisne
 ・分類:アケビ科アケビ属の蔓性落葉低木
 ・原産地:日本、中国、韓国などの東アジア
 ・分布:日本では、北海道を除く、本州、四国、九州
 ・花言葉:才能、唯一の恋

■形態
 蔓性の落葉の低木、茎は蔓になって他の樹木などに巻き付いて長く伸び、古くなると木質化する。葉は、短い柄を持ち先端が少しへこんだ楕円形の小葉が5枚集まった奇数掌状複葉。それが、長い葉柄をつけて茎(蔓)に互生する。

葉は5枚の小葉からなる奇数掌状複葉 (2023年6月21日 東京都薬用植物園)

■花
 アケビの蕾は3月に若葉とともに姿を現し、ソメイヨシノが開花する頃に、薄紫色をした花を下向きに咲かせる。雌雄同株、雌雄異花の植物で、花は長い総状花序を構成する。花軸の基部には1~3輪の雌花とともに、花軸の先端には数輪の雄花が房状に咲く。

アケビの蕾と若葉 (2009年3月21日 所沢市)

アケビの雌花と雄花からなる花序 (2013年4月14日 東京都薬用植物園)

同上 (2011年4月17日 所沢市)

同上 (2014年4月8日 所沢市)

 長い花柄の先に雌花があり、紫色の3枚の萼片(花被)がつき、花弁は無く、雌花の中央部には3~9本の雌蕊が放射状につく。雌花の柱頭には、甘みを持った粘着性の液体が付いており、花粉がここに付着して受粉が成立する。

雌花の3枚の萼片と雌蕊 (2020年4月11日 所沢市)

雌蕊の柱頭には粘液性の液体がある (2015年4月16日 所沢市)

 雄花は、その中央部に6本の雄蕊がミカンの房のように集まり、その外側に萼片が3枚ある。雌花と同様に花弁はない。

雄花の花序 (2020年4月11日 所沢市)

雄花の雄蕊と萼片 (2015年4月16日 所沢市)

 アケビの花には蜜腺がないのに、昆虫が集まってくる。昆虫は雄花の花粉を目当てに飛来し(密もないのに何故?)、その後に甘い粘着性の液を出す雌花の柱頭に寄り、受粉が成功するのではないかとの説がある。また、雌雄同株だが自家受粉しないので、雌花が受粉するには他の株の雄花の花粉が必要となり、果実を得るには複数の株が必要になる(アケビの近縁種でも可)。他の植物とは異なる受粉のメカニズムであり、謎が残る。

雌花のつくアブラムシ (2020年4月11日 所沢市)

雌花のつくアブラムシとゴミムシ? (2005年5月2日 所沢市)

■果実
 受粉に成功した雌蕊は、成長して秋に楕円体の果実に成長する。表面は紫色で白粉を帯びたようになり、甘い香りを放つ。果皮は肉質で分厚いが熟すと縦に裂け、半透明の柔らかな果肉に包まれた黒い種子が現れる。ゼリー状の果肉は、よく熟したものは甘くて美味しい。また、種子にはアリの好物のエライオソームが含まれるので、アリによる種子の散布も行われる。

成長する果実 (2014年6月23日 所沢市)

表面が白くなった果実 (2014年6月23日 所沢市)

熟して紫色になった果実 (2010年11月20日 所沢市)

■アケビと日本人
 アケビと人間との関わりの歴史は古い。食用としては、若芽を山菜としておひたしや和え物にしたり、開いた果実を子供のおやつにしたり、大人には果実酒として親しまれている。生薬としては、蔓や果実が内臓の熱を取って利尿を促す薬効がある。漢方では、木通(もくつう)とか、八月札(はちがつさつ)と呼ばれる生薬が知られている。他にも、観賞用に庭木や盆栽に仕立てられたり、成熟した蔓は籠を編むための素材として利用される。

 現在では実際にアケビに遭遇するのは、山野での自生株よりは、公園のフェンスに巻き付いているものや民家の垣根代わりに植えているものなど、場所も目的も限定的。しかもアケビと近縁種のミツバアケビは栽培上の事情もあって同じ場所にあることも多く、姿形も良く似ているので、意識しないと区別がつかない。良く見ると葉や花の色は異なるが、人間への有用性ですらアケビ属として括っても何の違和感もなく共通だ。それでも春になって紫色の花を見ると、どっちのアケビだろうかと詮索してしまう。不思議な植物だ。