ブタナ - 揺れるタンポポ

 ブタナ(豚菜)は、キク科エゾコウゾリナ属の多年草。欧州原産で、日本では1933年に札幌で外来種として発見され、1940年以降に全国に分布が拡大。穀物飼料に混入したらしい。欧州では苦みが少ない若葉をサラダ、茹で野菜、揚げものなどにして食べ、根はコーヒーの代替品として炒ってハーブティーとして飲まれる。欧州では由緒正しい植物だが、日本ではタンポポに似た雑草として生きている。空き地や牧草地、道路脇など明るく乾燥した場所に群生し、長い茎の先の花が、風に揺られて一斉に同じ方向にゆらゆら揺れる様子を見て、これは普通のタンポポではないと気がついた。どんなタンポポだろう。

ブタナの群生 (2023年5月5日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ブタナ(豚菜)
 ・別名:タンポポモドキ(蒲公英擬、false dandelion)、ブタのサラダ(仏語で Salade de porc)、ネコの耳(英語でCat's ear:葉の形状に依る)
 ・学名:Hypochaeris radicata L.
 ・分類:キク科 エゾコウゾリナ属の多年草
 ・原産地:欧州
 ・分布:日本には外来種として19740年以降に全国に拡散
 ・利用:欧州では食用
 ・花言葉:最後の恋

■生態
 ブタナは花が終わった後に、綿毛付きの種子が風で運ばれ着地すると、そこで発芽してギザギザの葉っぱが根元から円を描くようにロゼットと呼ばれる根生葉をつくる。その状態で冬越しをし、春になるとロゼットの中心から花茎を伸ばす。この花茎の特徴は、花茎には葉がつかないこと、そして途中で数本に枝分かれすること。この花茎の分岐がタンポポとの相違点だ。花茎の高さは50cm程度になる。また、ブタナは多年草でもあるので、花が終わった株のロゼットからも次の年に成長することもある。

ブタナのロゼット (2023年11月8日 所沢市)

ブタナのロゼット (2023年11月8日 所沢市)

花茎は枝分かれし、その先に蕾ができる (2024年4月1日 所沢市)

蕾 (2024年4月1日 所沢市)

花期を迎えた株 (2024年4月1日 所沢市)

花茎は枝分かれし、50cm程度の高さになる (2023年5月26日 所沢市)

蕾と花が混在する時期もある (2023年4月13日 所沢市)

花期には、逐次花が咲き続ける (2023年5月26日 所沢市)

空き地に広がるブタナの群生 (2023年5月4日 所沢市)

■花
 所沢周辺では、開花時期は4〜9月頃。花は枝分かれした花茎の先に一つずつ付く。ブタナの花は、花だけを見るとタンポポと区別が付き難い。黄色く丸い頭状花序は多数の舌状花からなる。舌状花には、花弁が5枚だが合弁花なので1枚に見え、綿毛になる萼があり、雌蕊を囲むように雄蕊が5本、そして雌蕊は1本でその先の柱頭がある。受粉の方法は、雄性先熟で、雄蕊から花粉が放出された後に雌蕊が延びてきて柱頭が2つに分かれる。舌状花は頭状花序の外側から開き始め、中央部の舌状花も開くと、頭状花序の花弁数や柱頭が増えたよみ見えて豪華。花粉は、様々な昆虫によって運ばれる。

開花始めの頭状花序 (2023年4月13日 所沢市)

外側の舌状花から開き始める (2023年6月6日 所沢市)

舌状花が開花し頭状花序が広がる (2024年4月1日 所沢市)

同上 (2023年4月13日 所沢市)

同上 (2020年5月9日 所沢市)

ほぼすべての舌状花が開いた頭状花序 (2023年4月13日 所沢市)

円柱形の総苞片が頭状花序を支える (2020年5月9日 所沢市)

ブタナの花とハナバチ (2022年6月20日 所沢市)

■果実
 花が終わると、タンポポと同様に、果実は果皮が乾燥して1個の種子を包み、裂開しない痩果(そうか)を作り、これに冠毛が付いて風によって運ばれる。頭状花序の舌状花が全て果実になると、フワフワの球体のように見える。

果実をつけた株 (2023年12月2日 所沢市)

フワフワの痩果の集合体 (2023年12月2日 所沢市)

■ブタナと日本人
 原産地の欧州では、豚が好んでこのこの植物を食べたことから、フランス語の"Salade de pore"(豚のサラダ)を和訳してブタナとなった。ブタナは欧州では、葉物野菜か飼料の価値はあったようで、うまく人間社会と共生していた。日本へは期せずして紛れ込んで帰化植物となってしまったため、過酷な運命を背負って生きている。繁殖に関しては、耕起に弱いため畑や水田で問題となることは少ないが、刈り取りには強くので道端や河川敷、空き地では雑草として駆除の対象にもなり得る。しかし、良く考えてみると、何処にでもあるタンポポと同じステータスのような気がする。人間が作物を植えようとする土地にはそれなりの管理をすべきだし、それ以外の土地は排他的外来種は別として生物多様性を維持できれば良い。タンポポ一族の中でも背が高く細身で風に優雅に揺れるブタナの姿は、洋の東西を問わず美しい。日本でも共存できる筈だ。