コウヤボウキ - 春を待つ姿は宇宙のよう

 コウヤボウキ(高野箒)は、キク科コウヤボウキ属の落葉小低木。キク科には珍しく、草本ではなく木本。名の由来は、和歌山の高野山で茎を束ねて箒の材料としたため。また、タマボウキ(玉箒)の別名も箒の材料とされ、正月の飾りにもされたのが由来。更に、正倉院にある儀式用の玉飾りの箒も、コウヤボウキを材料としたものらしい。しかし現代人には、コウヤボウキ=箒の概念はもう過去のものになってしまった。コウヤボウキの見どころは何と言っても花が咲く秋だが、それ以外の季節でも地上で大きく姿を変化させながら生き抜いている。どのような姿を見せてくれるのだろうか。

コウヤボウキの花 (2022年10月31日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:コウヤボウキ(高野箒)
 ・別名:タマボウキ(玉箒)、ウサギカクシ、キジカクシ
 ・学名:Pertya scandens
 ・分類:キク科 ウヤボウキ属の落葉広葉低木
 ・原産地:不明、日本か? 奈良時代からの記録はあるが、中国大陸にも分布しているらしい
 ・分布:日本では、関東以西の本州、四国及び九州に分布
 ・花言葉:清掃、働き者

■形態
 春になると、根元から多くの細い枝を出して群生するが、背が低いので草本のように見える。茎は細く木質化していて硬い。この特性が箒の材料に適しているのだろう。葉には2種類の形態がある。本年枝につく葉は広い卵形をしていて互生し、前年枝の節には3~5枚の葉が束生し、その形は細長い。花は、本年枝の先端にのみ頭状花が一輪ずつ咲く。前年枝には花はつかず、2年で枯れる。

コウヤボウキの群生 (2022年10月31日 所沢市)

本年枝には互生で葉がつく (2022年10月31日 所沢市)

前年枝には束生で葉が付くが花はない (2023年4月4日 所沢市)

■花
 本年枝に先が赤い蕾ができ、花が咲く。キク科特有の筒状になった白から淡い紅色の小花が十数輪程集まって一つの花序を作る。1つの小花に雌蕊1本と雄蕊が5本あり、花弁の先端は五つに裂けて反り返る。この花は両性花でもあり、雄蕊は筒状に合わさっていて、雌蕊はその筒の中にあり、これが成熟すると雄蕊の花粉を内側から押し出すように伸びて自家受粉をするようだ。また、花序の下部は総苞片が重なり円柱形なる。地味な花だが、生け花では秋山の寂寥感を表すモチーフに使われる。コウヤボウキの花には、蚊に似たガガンボや、蝶のイチモンジセセリなどが密を吸いに来る。

蕾 (2009年10月17日 所沢市)

小花が十数輪程集合して花序を構成 (2006年10月14日 所沢市)

花序 (2009年10月17日 所沢市)

花序 (2006年10月14日 所沢市)

花序 (2022年10月31日 所沢市)

花の蜜を吸うガガンボの仲間 (2006年10月15日 所沢市)

■果実
 果実は痩果で冠毛がつく。複数の種子の冠毛が開くと全体で白い毛玉ができる。痩果が風にのって飛ばされた後には総苞が残り、冬の間、花のようにも見える。また、冠毛の長い果実は冬でもよく残っており、場所によっては春まで残ってる。

花後には冠毛を持つ果実ができる (2024年2月14日 所沢市)

果実は痩果で風にのって拡散され、冬を越すものもある (2024年2月14日 所沢市)

果実が落ちた総苞は花のように見える (2024年2月14日 所沢市)

■冬のコウヤボウキ
 冬芽は卵形で白い毛に覆われていて、枯れた枝につくと良く目立つ。春には葉が開き、夏には枝先の花芽が膨らんでくる。冬のコウヤボウキは、風に飛ばされずに残った果実の冠毛、果実が落ちて花の形のようになった総苞、出たばかりの白い冬芽、 そして縦横無尽の走る入り乱れた細い枝、これらがこんもりと立体的な塊になって存在する。まるで大きな宇宙の中で惑星や衛星、そしてそれらを結ぶ幾つもの調和的な軌道を見ているようだ。ここにはコウヤボウキの秋までの残渣と来たるべき春への準備が含まれ、生存のための意気込みが感じられる。

冬芽 (2024年2月28日 所沢市)

冬芽 (2024年3月14日 所沢市)

春を待つコウヤボウキ (2024年3月14日 所沢市)

■コウヤボウキと日本人
 今の日本では、コウヤボウキを箒の材料として使おうと思う人はいない。キク科でありながら、木本でしなやかな細い枝を持つコウヤボウキは、生き方もしなやか。どの季節も地上に顔を出し、次のステップへ突き進む。特に冬の姿は前年の残滓と今年の仕込みが重なり合い、雑草(雑木?)ならではの強さと魅力を感じさせる。