カタバミ - 散策路の七変化

 カタバミ(片喰)はカタバミ科カタバミ属の多年草。カタバミは南米原産らしいが、世界中の温帯から熱帯地域に分布し、日本には江戸時代末期、あるいは大正時代に渡来したとの説がある一方、古来からの在来種との説もある。食用や生薬として利用されたが、強力な繁殖力により、今や日本各地の畑や庭、道端などで生育する最もポピュラーな雑草の一つになった。このため呼び方も多い。強い太陽光の下や暗い夜に葉を閉じた姿が、葉を半分食べられてしまったように見えることから、片喰、傍食。また、葉や茎にシュウ酸を含み、食べると酸っぱいことから酢漿草とも呼ばれる。カタバミは春から秋まで花期が長く、しかも蕾や黄色い花、果実が同時進行で現れては消えを繰り返し既視感が強く、すっかりお馴染みになったしまった。日本での出自はよく分からないが、何処にでも何時でも見かけるカタバミとはどのような植物だろうか。

カタバミの株 (2007年6月3日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:カタバミ(片喰、傍食、酢漿草)
 ・別名:スイバ(酸葉)、オウゴンソウ(黄金草)、カガミグサ(鏡草)、ゼニミガキ(銭磨き)、…
 ・学名:Oxalis corniculata
 ・分類:カタバミ科カタバミ属の多年草
 ・原産地:不明
 ・分布:世界の温帯から熱帯地域、日本では全国各地
 ・特性:葉や茎に水溶性シュウ酸塩、葉にクエン酸、酒石酸を含む
 ・花言葉:輝く心、喜び、母の優しさ」

■葉
 カタバミの葉は、ハート形が3枚集まった形で、葉の縁と裏側に疎らに毛が生える。葉は花と同様に夜になると閉じ、強い日差しや乾燥しているときに半分ほど葉を閉じる。これによって、温度や水分の調節を行っていると考えられる。

カタバミの葉 (2024年3月23日 所沢市)

■株の姿
 カタバミは、種子繁殖に加え、地下部に根茎を持ちここからも栄養繁殖をする。この地下茎を全て取り除くのは難しく、カタバミは生育領域はどんどん広がっていく。この地下茎から枝が伸び葉や花をつける。地下茎からは次々と枝が伸びるため、上から全体を見渡すと蕾や花、種子が混在した状態が秋まで続いていく。

カタバミは春から秋の間に、蕾、花、果実が入り乱れる (2023年5月9日 所沢市)

カタバミの蕾、花、果実 (2023年5月2日 所沢市)

■花
 葉の脇から花茎を伸ばし、黄色い5弁の花が1~8個付く。花は雌蕊を囲み、雄蕊は10本あり、内周の5本が長い。また、カタバミの花は日中に咲き、夜には花を折り畳む。

カタバミの花 (2007年10月13日 所沢市)

カタバミの花 (2009年10月12日 所沢市)

カタバミの花 (2009年11月23日 所沢市)

■カタバミに集まる昆虫
 カタバミの種子繁殖には昆虫による受粉が必須。ハチ、アブ、チョウ、アリなどが花粉の運び屋になる。また、ヤマトシジミの幼虫はカタバミを食草とする。

ヒメヒラタアブと花 (2008年6月3日 所沢市)

ヒメハナバチと花 (2012年5月13日 所沢市)

ヤマトシジミと花 (2007年7月29日 所沢市)

■果実
 カタバミは、先が尖った円柱形の小さなオクラのような形の果実を上空に向かってつける。成熟時に何かに触れると、自ら弾けてゴマのような赤い種子を、1m程度の範囲に勢いよく飛ばす。カタバミの繁殖は、この種子繁殖と根茎による栄養繁殖の二刀流だが、どちらの方法にしても、遠方の飛び地ではなく、株の近くから次第に繁殖領域を拡大していくようだ。

果実 (2023年6月6日 所沢市)

■近縁種
 カタバミ属にはオキザリスと呼ばれる多数の園芸種もあるが、ここではカタバミと同様に、小さな黄色い花を咲かせ山野に自生する2種を近縁種として挙げる。アカカタバミ(赤片喰)と、ウスアカカタバミ(薄赤片喰)である。アカカタバミは葉で赤紫色を帯び、花の中心部が赤くなる。ウスアカカタバミは全体に赤味を薄く帯び、カタバミとアカカタバミの中間的な外観をしている。赤味の度合いには幅がある。花にはやや薄い赤い班紋がある。葉の表は緑色~緑紅紫色で、やや赤味を帯びる程度。茎は赤味を帯びる。ウスアカカタバミは、カタバミとアカカタバミの雑種と考えられている。これらの種類を判別する基準はかなり曖昧のようだ。個体の特性の範囲なのかもしれない。

アカカタバミの株 (2012年4月24日 所沢市)

アカカタバミの花 (2004年11月7日 所沢市)

ウスアカカタバミの花 (2006年8月14日 帯広市)

■カタバミと日本人
 カタバミは雑草ではあるが、実用的には、食用や生薬として有用だ。食用としては、茎や葉を熱湯にくぐらせて、酢の物、天ぷら、サラダなどにでき、シュウ酸に由来する独特の酸味を味わえる。そして、カタバミは酢漿草(サクショウソウ)という生薬名を持ち、消炎、解毒、下痢止めなどの作用があるとされ、民間療法に使われていた。また、日本の家紋に片喰紋がある。これは3つのハート型の葉をデザインしたもので、片喰、剣片喰、丸に剣片喰、蔓片喰、八重片喰等々がある。古くは平安時代や戦国時代から使われたようだ(古来よりカタバミの仲間で自生種で白花のミヤマカタバミは存在していたが…)。繁殖力が強く、一度根付くと絶やすことが難しいので、家運隆盛・子孫繁栄の縁起担ぎになったのだろう。

 しかし、現代の日本人にとっては、カタバミの効用はとても身近なものに感じられない。春から秋にかけて、地面に張り付いてどこにでも咲いている黄色いカタバミは、良く見るとずいぶん印象が異なる。太陽の光や雨天には葉が閉じたり、生育領域によっては葉が緑から赤紫まで様々であったり、黄色い花も中心部か黄色から赤までグラデーションがある。散策をすると、今日はどんなカタバミに逢えるのだろうかと楽しみになるのだ。ところで、何故カタバミが在来種なのか外来種なのかはっきりしないのだろうか、雑草ならではの哀れさを感じる。