ナズナ - 路傍の相棒

 ナズナ(薺、撫菜)は、アブラナ科ナズナ属の越年草。日本には有史前に、東ヨーロッパや西アジアから渡来したらしい帰化植物。日本各地に分布し、古くから身近にあった植物なので、様々な名前を持つ。薺は漢字表記、撫菜は早春に開花して夏になると枯れるので"夏無き菜"から、また三角形の果実を三味線のバチに見立てて、ぺんぺん草や三味線草の名の由来になった。雑草扱いされるナズナだが、縁起物の春の七草の一つであり、若い株は食用にされたり、また民間薬にもなっていて人間との関わりも多い。早春のほんの一時しか注目されない小さく目立たないナズナはどんな植物だろうか。

ナズナの姿 (2015年3月29日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ナズナ(薺、撫菜)
 ・別名:ぺんぺん草(ペンペングサ)、三味線草(シャミセングサ)
 ・学名:Capsella bursa-pastoris
 ・分類:アブラナ科 ナズナ属の越年草
 ・原産地: 東ヨーロッパ、西アジア
 ・分布:世界的には北半球、日本では北海道から九州まで
 ・花言葉:すべてを君に捧げる(I offer you my all) ∵果実が三角の財布の形に見えるので

■生態
 冬の間は根から地面に張り付くように、羽状に深く裂けた葉が放射線状に広がり、ロゼットを形成する。この時期のロゼット状の若苗は柔らかで香味が良く、お浸し、和え物、煮びたし、漬物として食用になる。春になると茎が伸びて、先端部に蕾を、その下に花を、更に下に果実をつける。茎は50cm程度まで伸び続け、次第に下方の果実が占める割合が大きくなる。言い方を変えると、これは総状花序で、有柄の白い4弁の小さな花を多数付け、下から上へと次々に花を咲かせる無限花序で、下の方で花が終わって種子が形成される間も、先端部では次々とつぼみを形成して開花していき、花後は順次、実を結ぶ。花茎の成長過程の形態と時間的経過が一度に理解できそうだ。著名な神社仏閣の一幅の絵に描かれた縁起物語を連想させる。また、茎につく葉は、株元の葉と異なり、小さめで葉柄がなく基部は茎を抱き、切れ込みは無い。

株の様子 (2024年3月15日 所沢市)

道端にホトケノザとともに咲くナズナ (2024年3月15日 所沢市)

 花の構造は白い花弁が4枚、黄色い雄蕊は6本、中央に黄色い雌蕊が1本。アブラナ科の典型的な構造だ。蕾は中央部にあり、最上部の花より下にあるが、花が果実に変わる時期に入れ替わり、最上部で花を咲かす。

花茎の先端に蕾があり、周辺のものから開花し花柄が伸びる (2023年3月2日 所沢市)

花の構造 (2024年3月15日 所沢市)

花の構造 (2024年3月15日 所沢市)

最上段の花と蕾 (2024年3月15日 所沢市)

最上段の花と蕾 (2005年3月27日 所沢市)

果実が花の直下で成長する (2005年3月27日 所沢市)

果実は成長すると花より大きく、柄も長くなる (2024年3月15日 所沢市)

ハート形の果実部分、この中に種子がある (2024年3月15日 所沢市)

■ナズナと日本人
 有史以来日本に根付いたナズナは、実用的には、寒い時期の食料として利用され、また生薬として様々な薬効(解熱、下痢、便秘、止血、利尿、等)があるとされてきた。そればかりでなく、日本人の文化や習慣にも少なからず影響を与えてきた。
 ナズナは春の七草の一つとして、ロゼット状の若苗を七草粥にして食べる。食用として旬の時期に当たり、薬効も期待できるので、縁起や健康長寿を願う正月の習慣として現在でも続いている。
 また、慣用句としても登場する。"ぺんぺん草が生える"とは、荒廃した土壌でもナズナは生育するので、荒れ果てた様子を表す。荒廃した土壌でナズナも生育しないのは何も残っていない状態であり、"ぺんぺん草も生えない"と言う。雑草の強さを比喩的に使った分かり易い言い方だ。
 他にも、日本の家紋に薺紋がある。ナズナのロゼット状の若苗の葉をデザインしたもので、葉の枚数により五つ薺、八つ薺、雪輪に六つ薺などがあり、由緒ある家で使われている。

 日本人はナズナとは永い付き合いで、その性格や特性を良く理解している。ナズナは何処にでもある地味で小さな目立たない雑草だが、日本人にとては単なる路傍の石のような存在を超えて、もはや路傍の相棒のような存在だ。