シュンラン - 花のかげに長い雌伏の期間
シュンラン(春蘭)は、ラン科シュンラン属の常緑多年草の蘭で、洋蘭のシンビジウムの仲間。日本を代表する野生ランであり、地表に根を下ろして生息する地生ランで、北海道から九州まで広く分布し、里山や人里に近い雑木林などに自生する。シュンランはラン科の中では最も早く、3~4月に開花。シュンランの魅力は何と言っても花にある。花の色は緑系統で見た目は地味だが、花は花茎の先端に一輪ずつ咲き、花弁や萼、蕊、包葉など多くの構成物が複雑に絡み合って見応えがあり、雑木林で出逢うと、控えめな美しさを感じさせる。かつては葉や花が食用に、根が薬用にされていた。最近では、観賞目的で乱獲が進み、自生株は減りつつある。現在では公園や植物園で見かけることも多い。
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【基本情報】
・名称:シュンラン(春蘭)
・別名:ホクロ(唇弁の模様から)、ジジババ(長い蕊柱や広がった唇弁の形から)
・学名:Cymbidium goeringii
・分類:ラン科 シュンラン属の常緑多年草
・原産地:日本、中国
・分布:北海道から九州の落葉樹林帯
・花言葉:飾らない心、控えめな美、清純、気品
■冬の姿
冬のシュンランは根元を中心に細い常緑の葉が弧を描きながら円形に広がっているだけだ。自生地の株は、地表近くの浅いところに、太くて長い根を数年かけて張りめぐらす。地下にはいくつかの球根状のバルブがあり、そこから茎が出て、春には1本の茎に1つの花がつく。冬はそれまでの準備期間だ。
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■開花期
3月になるとシュンランの薄い膜に覆われた細長い楕円体の蕾が地表に現れ、やがて花が咲く。黄色から緑色をを主体に白や赤のアクセントが入り、3次元的な構造をしている花は、見る方向によってずいぶんと印象が変わる。
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シュンランの花を鑑賞するに当たり、先ず構造の整理をしておこう。花の中心は蕊柱で、この中に雌蕊と雄蕊に相当するものが含まれ、その先にある葯帽は花粉を運ぶ昆虫の体を支えるものだ。そして花弁に相当するのは、蕊柱を囲む左右の側花弁と唇弁。唇弁には斑点があり、これが別名のホクロの由来となっている。また、長く突き出た蕊柱とえぐれた唇弁が男女の性器を思わせることから、ジジババの別名が生まれた。花粉を運ぶ昆虫は唇弁の上に潜り込み、葯帽の内側にある花粉を授受する。花弁相当の唇弁と2枚の側花弁の外側にあるものが萼に相当する。それが上萼片と下の2つの側萼片だ。花を支える茎は白っぽい包葉に包まれ、その中にある花の直下部分に子房や胚珠が出来る。クローズアップした何枚かの花の写真で、花の様子を確かめてみよう。
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■果実
花が終わった後に、茎が伸びその先に紡錘形の果実が上も向いてできる。果実に含まれる種子は極めて小さく、埃のようだ。一度に何十万個もの種子が作られ、風によって種子が運ばれる。この軽い種子には胚乳がなく、着地した場所で共生する菌から栄養を受けて発芽するため、発芽から開花までには5年から10年かかることもある。長い雌伏の期間を要する特殊な繁殖方法だ。種子がなくなって枯れた果実は、年を越して開花期まで残ることがある。
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■シュンランと日本人
早春の山野を散歩し、放射状に細長い葉が茂っている株を見つけるとシュンランかと期待するが、大方はヤブランやヒメカンスゲだったりする。今や、シュンランはどこにでもある植物ではなく、群生地はかなり限定されているように思う。それでは、シュンランを愛好する都会人と言えば、日本庭園や植物園に見に行く。もっと手軽に自宅で栽培する方法もありそうだが、特殊な発芽条件や数年はかかる開花までの期間は結構な障壁だ。洋ランの培養栽培のような科学技術的な手法は確立されていないようで、基本は野生株を人手をかけて株分けする方法が基本のようだ。かつては、食用や薬用に使われたと聞いているが、それはおそらく外来植物が山野に蔓延る前の話ではないだろうか。日本に存在するシュンランのかなりの部分は、人手を介した環境の中で生き続けているのだろう。それでも早春のシュンランは愛おしい。