フクジュソウ - 太陽の申し子

 フクジュソウ(福寿草)は、キンポウゲ科の多年草。一口にフクジュソウと言っても、分類が複雑で整理が必要。日本に自生するフクジュソウは4種類。
・フクジュソウ(別名エダウチフクジュソウ:枝打福寿草)は北海道から九州に分布し、萼と花弁の長さはほぼ同じで、花期は2~3月。
・ミチノクフクジュソウ(陸奥福寿草)は東北から九州に自生し、萼は花弁の半分程度で、花の色はレモンイエロー。
・キタミフクジュソウ(北見福寿草)は北海道東部に自生し、多毛で一株に1輪だけ花をつける。
・シコクフクジュソウ(四国福寿草)は四国と九州の一部に自生し、全草無毛で、花期は2~3月。
これらに加えて、観賞用に栽培、改良された品種が加わる。ここでは、日本で最も一般的な枝打福寿草をフクジュソウとして扱う。

 フクジュソウは所謂"春植物"で、早春に花をつけ、夏まで葉で光合成を行って枯れ、地下で春を待つ。春になると、短い茎の上に花がつき、次第に茎や葉が伸びて花が咲く。花はパラボナアンテナのように、花弁を使って日光を花の中心に集め、その熱で虫を誘引する。そして、株全体が太陽の動きに合わせて回転する向日性がある。更に、花は日光が当たると開き、日が陰ると閉じる。この様な効率的な手段を駆使して、未だ寒い季節に太陽の恩恵を一身に受けた熱収集システムにより、成長を続ける。

 また、春を告げる花であるため、"元日草(がんじつそう)とか、"朔日草(ついたちそう)"などの別名がある。"福寿"という縁起の良い名前から、正月の飾りとして、江戸時代から観賞用に栽培が始まった。また、根に有毒成分が含まれるので要注意。

フクジュソウの群生 (2007年2月11日 昭和記念公園)

【基本情報】
 ・名称:フクジュソウ(福寿草)、エダウチフクジュソウ(枝打福寿草)
 ・別名:元日草(がんじつそう)、朔日草(ついたちそう)
 ・学名:Adonis ramosa
 ・分類:キンポウゲ科 フクジュソウ属の多年草
 ・原産地:日本、中国、朝鮮半島、シベリア
 ・花言葉:幸福、祝福、回想、思い出

■蕾と花
 春になると地上に短い茎が出て、その上に蕾がつく。その後茎が伸びて羽状に細かく裂けた葉が成長する。 蕾は次第に膨らみ先端が割れ開花する。開花した花は、パラボナアンテナ状に配置された花弁により、花の中心部の温度を上昇させる。また、太陽に向かって花の向きを変える向日性を利用し、効率的な熱エネルギーを確保し、昆虫を呼び込んで受粉を促す。

地上に出た蕾 (2011年2月13日 所沢市)

蕾の下で茎が伸び羽状の葉が成長する (2011年2月13日 所沢市)

開花直前の蕾 (2004年2月22日 所沢市)

開花 (2011年2月13日 所沢市)

充分に開いた花 (2011年3月6日 所沢市)

■花と虫
 早春の寒い季節に、太陽熱収集システムで温めたフクジュソウの花には様々な虫が集まってくる。最も歓迎される虫はハチやアブだ。実はフクジュソウの花には密がない。それでも彼らは暖を取るため温かい花の中を歩き回り、花粉を身に着け飛び立つ。これは虫にもフクジュソウにもWin-Winの関係だ。他にも来訪者はいる。アブラムシはフクジュソウにとっては病気の原因となり、招かざる客だ。有象無象の訪問者で、暖房完備の花の中は何時も賑やかだ。

ハナアブと花 (2013年2月10日 神代植物公園)

アブラムシと花 (2006年3月5日 所沢市)

■果実
 花弁が散ると金平糖の様な果実ができ、やがて種子が膨らみ自然に落下する。5mm程度の目立たない種子なので、遠くへ運ばれる機会が少なく、次の年も群生を維持するのに役立つのだろう。

フクジュソウの果実 (2024年3月10日 東京都薬用植物園)

■様々なフクジュソウ
 フクジュソウは自生種の他に、観賞用に栽培されたものも多い。山野でフクジュソウが群生している景色は少なく、人の手を介して畑の脇や民家の庭、公園に植栽された株を見かけることの方が多い。どのフクジュソウの構成要素や花の色も殆んど似通っているので、素人目には品種名を言い当てるのは至難の業だ。しかし、折角出あった花なので、列挙してみたい。

ミチノクフクジュソウか、萼が短くレモンイエロー (2009年2月15日 所沢市)

園芸種のチチブベニの花 (2014年3月7日 所沢市)

園芸種のチチブベニの花 (2014年3月7日 所沢市)

萼が短く花弁が少ない (2008年3月16日 所沢市)

雄蕊、雌蕊とも先がやや鋭角 (2013年3月9日 所沢市)

雄蕊が長い (2012年3月3日 所沢市)

花弁の数が多い (2023年3月1日 所沢市)

花の色が白味がかっている (2011年2月13日 所沢市)

■フクジュソウと日本人
 フクジュソウは根に有毒なアドニンという成分を含み、嘔吐、呼吸困難、心臓麻痺などの症状を引き起こす。地上で成長を始める頃に、フキノトウやヨモギと間違えて食べてしまう可能性があり、科学的観点からは人間にとって大変厄介な存在だ。

 しかし、日本人は早春に黄金色の輝く太陽の申し子のようなこの花に惚れ込み、正月の縁起物のみならず、多くの園芸種を生み出した。花の時期は僅か2ヶ月程しかないのに。それは、何故か? 日本人は自然を観測し、フクジュソウ独自の太陽エネルギー活用術を知り、他に代わるものがない存在だと気がついたのかもしれない。これまでフクジュソウは、恥ずかしながら1種類と長い間認識してきたが、これほど多くの種類があるとは思わなかった。日本人は、観賞花としてのフクジュソウを育て、愛でてきたのだ。