ミューズ ニューイヤーコンサート - 小山実稚恵讃

 所沢市民文化センターミューズの新春恒例のニューイヤーコンサートに出掛けた。これには所沢周辺の多くの音楽愛好家が来場し会場はほぼ満席、あちこちで立ち話の新年の挨拶が交わされていた。ニューイヤーコンサートは2018年に始まり、途中でコロナやホールの耐震工事を挟んで今回で5回目、すっかり定着したようだ。ピアニストの小山実稚恵と秋山和慶指揮の東京交響楽団が毎回出演している。2024年のプログラムははじめにJ.シュトラウス2世のワルツ「春の声」、次にラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、休憩を挟んでドヴォルジャークの交響曲第9番「新世界」。誰でも楽しめるように、新年の気分と人気の名曲を組み合わせたようだ。

ミューズ ニューイヤーコンサート2024のポスター

 最初の曲は「春の声」管弦楽版。ワルツのリズムに揺られながらどのパートもテンションが高めだったので、メロディーを奏でる楽器が埋もれそう。ソプラノ独唱版だと、より華やかになった思う。
 次はロシアロマン派のラフマニノフが作曲したピアノ協奏曲第2番。甘く切ないメロディーとは裏腹に、ピアノの難曲として知られている。小山さんの演奏は強い打鍵でも特異点としては聞こえず、また弱い打鍵も消え入ることは無く、大きな音楽の流れの中に音符が展開され、一音一音が粒立って聞こえる。また、メロディーを奏でるオーケストラの奏者との間合いも絶妙で、協奏曲の醍醐味を堪能した。ここには丁々発止のような世界と言うよりはむしろ、内省的で緊密な音楽が流れていた。このようなスタイルは日本人の感性にあったもので、自ずと納得が出来るものだ。その後、アンコールとして小山さんの独奏で、映画「愛情物語」でも有名なショパンのノクターンOP.9-2が演奏された。こちらは静的で叙情的な演奏だったように思う。
 休憩後は名曲の「新世界」。基本はインテンポながら、緩急をつけてメリハリがあり、各パートが良く鳴っている。アインザッツも良く揃い、客席から見るとバイオリン奏者の弓の上下運動や、奏者の体の傾きも見事に同期している。生演奏ならではの発見だった。予想以上の好演だった。アンコールはJ.シュトラウス1世のラデツキー行進曲。客席の手拍子とともに盛り上がった。

 小山さんのミューズニューイヤーコンサートは、2018年と2021年は今回と同じラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、2022年はショパンのピアノ協奏曲第1番、2023年はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。ミューズでの演奏は更に2023年7月に"華麗なるピアノ・コンチェルト"としてNHK交響楽団との共演でブラームスのピアノ協奏曲第1番とラフマニノフのピアノ協奏曲第3番、そして2021年7月には"ベートヴェン後期三大ソナタ"の独奏会等。所沢ミューズでの演奏は数年に及び、その度に新たな感興が湧く。この関係が今後も続くよう所沢市民として期待している。
 また今回、東京交響楽団の実力を知ったのも成果だ。ニューイヤーコンサートでは定番にしている「新世界」以外の曲も是非聴いてみたくなった。

小山実稚恵さんサイン会の成果