キジ - モチーフとレプリカ

 かつて狭山丘陵で草刈りのボランティアをやっていた時に、藪の中からキジが飛び出した。しかし、キジは素早く逃げ去ったため、残念ながらその姿をじっくり見ることが出来なかった。この付近でのキジの目撃談はよく聞くので、そのうち遭遇するのではないかと思いながら、狭山湖の南側の民家が点在する草原や畑地をデジカメ散歩していると、突然その機会がやってきた。"ケーン、ケーン"という鋭い鳴き声を聞きつけ現場に急行すると、立派なオスのキジが出迎えてくれた。最初は鋭い目でこちらを凝視していたが、どうやら当方を敵にも値しない存在と認識したようで、何事もなかったように悠然と歩き回っていた。キジの繁殖期は4月から7月でこの時期にオスは鋭い鳴き声でメスにアピールするようだが、現場にはメスの姿はなく、どうやら食事中のようだった。キジは植物の種子や芽、花などの他、動物性の昆虫やクモなども食べる雑食性。この時季は4月の中旬、花が芽吹き、厳しい冬を越したキジには豊富な餌を前に至福の時だったのかもしれない。折角出会ったので、色々なポーズをしてもらおうとチョッカイをかけたが、毅然として無視された。緊張の十数分が過ぎ、諦めて逃げ出したのはこちらだ。今思えば、鮮明に記憶に残る経験だった。

【基本情報】
 ・ 名称:キジ (雉子、雉)
 ・ 英名:Japanese Pheasant
 ・ 学名:Phasianus versicolor
 ・ 分類:鳥綱 キジ目 キジ科 キジ属
 ・ 全長:60から80cm程度
 ・ 分布:本州、四国、九州(日本固有の留鳥)
 ・ 日本の国鳥、且つ猟鳥

キジ (2023年4月18日 所沢市)

キジ (2023年4月18日 所沢市)

キジ (2023年4月18日 所沢市)

キジ (2023年4月18日 所沢市)

 折角キジに対面したのだから、このときのインパクトを残そうと思い、草原を悠々と闊歩するキジの姿をモチーフにレプリカの陶芸作品を創ることにした。陶芸と言う手段を使うと、幾つか製作上の制約がある。構造上の課題としては、焼成中は窯の温度が約1200℃にもなって作品がかなり柔らかい状態になるので、崩れないように作品を成形する必要がある。特にキジの首は長く背が高くなるので、焼成の際に倒れないように首は垂直に伸ばして重心が草地をイメージした台座上にあること。また、胴体と尾は地上から浮かせること無く、草地の台座とシームレスに接続すること。これらを守れば何とかモノは出来そう。難しいのは色使いだ。色付けは、粘土を成形して半ば乾燥した後に陶芸用下絵の具で行う。頭部の赤い肉冠や羽の模様は複雑だがはっきりしているので面相筆で描く。一方、頭から首、腹に至る部分は青、緑、黒がある程度段階的に変化しているが、このグラデーションの表現はうまく実現できなった。太めの筆で首の周りに筆を置いて一周し、色を変えていけば良かったかもしれない。次の作陶に活かしたい。結局、キジの写真とレプリカを並べると、如何にも本物と偽物という感じがするが、キジを思い出させる象徴としてはまぁまぁの出来か(勝手に自画自賛?)。

陶芸のキジ (2023年制作)

陶芸のキジ (2023年制作)

陶芸のキジ (2023年制作)

 キジは、日本固有の留鳥であり、桃太郎などの日本昔話で重要な役割を演じており、日本人が身の回りで見かける野鳥の中では誰もが認める華麗さが備わっているので、日本の国鳥となったのだと思う。その一方で、飛翔が苦手で比較的大きなキジは絶好の狩猟の対象になっている。アニマルウェルフェアが認知されつつある時代に何だかなぁと思う。兎にも角にもキジと日本人の関係は昔から深く、常に持ちつ持たれつと言う関係よりは、少し距離を置きながら共存してきたように思う。それだけに、再び何処かで逢えるときの感動を想像するのは楽しいことだ。