エニシダ - 地中海生れの評判の園芸樹

 エニシダ(金雀枝)は、マメ科エニシダ属の半常緑性の低木。原産地は、ヨーロッパやアフリカの地中海沿岸地方。日本には、中国経由で延宝年間(17世紀後期)に渡来した。名の由来は、古い属名ゲニスタがオランダ語のエニスタに転じ、エニスダの名で渡来し、それが訛ってエニシダになった説がある。一方漢字表記は、中国では黄色い花が雀のように群がって咲くので"金雀花"と呼んでいたが、日本ではその意を汲んで"金雀枝"となった。不思議な組合せだが、日本人のバランス感覚は素晴らしい。イギリスでは、箒を逆さにした樹形から"common bloom(箒)"と呼ばれ、枝を掃除用の箒として使われていた。空飛ぶ魔女の箒もこれに由来するらしい。なかなか物語が豐富な樹木だ。植物としてのエニシダは、初夏に多数の黄色い花をつけて観賞用に栽培されるだけでなく、マメ科特有の根粒バクテリアを持つので他の植物が育ちにくい荒れ地でも生育出来て開墾地の緑化に役立つ。しかし、樹木の寿命も10年程度で、繁殖力は程々。また、全草にアルカロイド毒があり、瞳孔散大、めまい、頭痛、動悸不全などの中毒症状が、人間のみならず犬や猫にも出るので誤食は危険。功罪両面あるが、園芸植物として、人間社会と共存していくには丁度良い塩梅なのかもしれない。

花期には黄色い蝶形花が枝に沿って咲く (‎2014‎年‎4‎月‎23‎日 東京都薬用植物園)

【基本情報】
 ・名称:エニシダ(金雀枝/金雀児)
 ・別名:エニスダ(古称)、英名:common bloom(箒)、中国名:金雀花
 ・学名:Cytisus scoparius
 ・分類:マメ科 エニシダ属の半常緑性低木
 ・原産地:地中海沿岸(ヨーロッパ、及びアフリカ)
 ・分布:日本には中国経由で江戸時代に渡来し、観賞や治山目的で植栽された
 ・花言葉:謙遜、清楚

■生態
 雌雄同株。樹高は精々3m。地表から幹が直立するが、樹皮は灰褐色で、縦方向に割れる。その先の若い幹の樹皮は緑色を帯び、盛んに枝分かれする。先端の若い枝は緑色で、角ばった稜がある。葉は3出複葉で小葉は全縁の長い楕円形で、葉柄があって枝に互生するのが基本だが、変化が多い。例えば、場所によって3出複葉が単葉になったり、葉柄の長さがバラバラだったり、葉柄の基部に托葉があったりなかったりなど。 更に、エニシダは落葉性との説もあるが、果実が出来た後の葉は密度が小さくなる傾向はあるように思えるものの落葉までは行かないような気がする。半常緑性というのは、若い枝が緑色のままのせいなのかもしれない。

住宅地の街路樹でも、低木なので剪定されず自然な樹形になることが多い (‎2026‎年‎5‎月‎13‎日 所沢市)

枝は直線的に伸びるので、箒を立てたように見える (‎2004‎年‎4‎月‎24‎日 東京都薬用植物園)

地表に近い幹は灰褐色で、樹皮は縦方向に割れる (‎2026‎年‎6‎月‎5‎日 所沢市)

若い幹の樹皮は緑色を帯び、盛んに枝分かれする (‎2026‎年‎6‎月‎5‎日 所沢市)

若い枝は緑色で、角ばった稜がある (‎‎2026‎年‎5‎月‎13‎日 所沢市)

葉は3出複葉で小葉は全縁の長い楕円形で、葉柄があって枝に互生するのが基本だが、変化が多い (‎‎2026‎年‎5‎月‎13‎日 所沢市)

■花
 枝の先に総状花序を構成し、葉の腋から花柄を介して蕾や花をつける。花はマメ科らしい蝶形花で、遠くから眺めてもよく目立つ明るい黄色。花の構造は、上部に旗弁、下方両脇に翼弁、翼弁に挟まれて雌蕊と雄蕊を包む竜骨弁からなる。萼が花弁を支え、開花すると曲線を描いた10本の雄蕊と1本の長い雌蕊が覗く。ハナバチなどが翼弁に脚を掛けると、その重みで花弁が開き、雄蕊がハチに触れて花粉の受け渡しをする。

枝の先に総状花序を構成し、葉の腋から蕾や花をつける (‎2004‎年‎4‎月‎24‎日 東京都薬用植物園)

花はマメ科らしい蝶形花で、遠くから眺めてもよく目立つ明るい黄色 (‎‎2014‎年‎4‎月‎23‎日 東京都薬用植物園)

花の構造は、上部に旗弁、下方両脇に翼弁、翼弁に挟まれて雌蕊と雄蕊を包む竜骨弁がある (‎‎‎‎2007‎年‎5‎月‎4‎日 所沢市)

萼が花を支え、開花すると曲線を描いた10本の雄蕊と1本の長い雌蕊が覗く (‎‎‎2010‎年‎5‎月‎15‎日 所沢市)

■果実
 花が終わると、緑色の若い果実ができる。果実は豆果で、エンドウ豆のような形をしている。夏になると成熟し、果皮は黒ずみ、やがて自然に弾けて、中にある黒い種子を外に放出する。エニシダの繁殖方法は、この種子による実生の他、園芸では挿し木に依る方法もある。

花が終わると、緑色の若い豆果ができる (‎‎‎‎2026‎年‎5‎月‎13‎日 所沢市)

夏になると成熟し、果皮は黒ずむ (‎‎‎‎‎2026‎年‎8‎月‎11‎日 所沢市)

豆果は自然に弾けて、種子を外に放出する (‎‎‎‎‎2026‎年‎8‎月‎11‎日 所沢市)

■園芸品種 ホオベニエニシダ
 ホオベニエニシダ(頬紅金雀枝、学名:Cytisus scoparius var. andreanus)は、エニシダの園芸品種。その名の通り、黄色の花の翼弁が鮮やかな赤く色づいたもの。最近では、エニシダと同様にホオベニエニシダも良く見かけるほど、普及している。

ホオベニエニシダの花 (‎‎‎2006‎年‎5‎月‎5‎日 東京都薬用植物園)

■近縁種 ヒメエニシダ
 ヒメエニシダ(姫金雀枝、学名:Cytisus x spachianus)は、エニシダとは同属の常緑低木で、樹高はより低い。花は共に蝶形花だが、エニシダの花は葉の脇から葉と混じって咲くが、ヒメエニシダは葉がない本年枝にまとまって穂状に咲くので、鈴生りに花がつく印象を与える。このためか、園芸店では人気があり、販売されている"エニシダ"は実はヒメエニシダが多いらしい。

近縁種ヒメエニシダの花序 (‎2011‎年‎5‎月‎8‎日 所沢市)

■エニシダと日本人
 エニシダの有用性について、他の植物が育ちにくい荒れ地でも生育して開墾地の緑化に役立つと述べた。これに関して、興味ある研究成果がある。農業環境技術研究所の研究者が”アレロパシー/農林水産業への利活用”(詳細はここをクリック)で、アレロパシー(植物が他の植物や微生物に対して、化学物質を通じて影響を与える現象)の例として、エニシダに言及した。瀬戸内海沿岸には山火事が多く、焼け跡を放置すると優占種としてアカマツが生える。その前にエニシダを植えると、エニシダから放出されるDOPA(3,4-Dihydroxy-phenylalanine)がアレロパシー物質となって、アカマツの生育を阻害することが分かった。このように、植物が本来持っている機能を組合せて、目的外の植物の生育を抑制する除草剤の研究が進んでいる。抑制される側と抑制する側の組合せを見つけるのは容易ではないが、自然環境保護には優れた手法と思う。