ヒメヒオウギスイセン - 和風のようでコスモポリタン

 ヒメヒオウギスイセン(姫檜扇水仙)は、アヤメ科ヒオウギズイセン属の球根性の多年草。日本的な名称だが、出自は複雑。両親は共に南アフリカ原産のヒオウギズイセン(檜扇水仙)とヒメトウショウブ(姫唐菖蒲)で、ヨーロッパで人工交配されて生まれた園芸種だ。これが、日本には明治中期に渡来して観賞用に栽培が始まったが、繁殖力が強いため逸出して野生化し、現在では各地の野原や道路沿いでも繁殖ををしている。佐賀県では環境の保全のため、県内での栽培や植栽を禁止する条例がある程だ。しかし、梅雨から夏にかけて下向きに慎ましく鮮やかなオレンジ色の花を咲かせる様子は、夏の風物詩として定着してしまった感がある。また、在来種のアヤメ属のヒオウギ(檜扇)は葉の配列が平安文化の道具である檜扇に由来するが、その関連からより小形で姿が似ていた本種に姫檜扇水仙なる和風の名前が与えられた(詳細はここをクリック)。更には七夕の花として華道に取り上げられたり(詳細はここをクリック)、厄除けの花として祇園祭で取り上げられたりする例(詳細はここをクリック)も出てきて、この和名のおかげで日本の伝統文化にも馴染み始めたような気がする。将来、ヒメヒオウギスイセンは日本でどのようなステータスで生きていくのか気になるところだ。

開花が始まったヒメヒオウギズイセンの花序 (‎2008‎年‎7‎月‎5‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ヒメヒオウギスイセン(姫檜扇水仙)
 ・別名:クロコスミア(園芸名)、モントブレチア(旧学名)
 ・学名:Crocosmia x crocosmiiflora
 ・分類:アヤメ科 ヒオウギズイセン属の球根性の多年草
 ・原産地:両親は南アフリカ産だが、ヨーロッパで人工交配して創られた園芸帰化植物
 ・分布:日本には明治中期に栽培が始まり、現在は各地で野生化もしている
 ・花言葉:謙譲の美、気品

■生態
 球根で繁殖する多年草。地下に球根があり、そこから数枚の葉が直立して互生し、上方で緩やかに分岐する。葉の形状は剣のように細長く、先端は鋭く尖る。葉脈は平行脈で、中央に太い線が入ることもある。花序の茎は2~4回程度分枝して、上方でなだらかに曲がってうつむくが、葉よりも高い位置まで伸びる。

群生するヒメヒオウギズイセン (‎‎2002‎年‎7‎月‎19‎日 神代植物公園)

根から数枚の葉がまとまって直立して互生し、上方で緩やかに分岐する (‎‎‎2026‎年‎7‎月‎8‎日 所沢市)

葉は剣のように細長く、平行脈があり、中央に太い線が入ることもある (‎‎‎2026‎年‎7‎月‎8‎日 所沢市)

花序の茎は2~4回分枝して上方で曲がるが、葉よりも高い位置まで伸びる (‎‎2019‎年‎7‎月‎6‎日 所沢市)

■花
 花は両性花。蕾は苞(苞葉)に覆われて花茎に直接つながっている。花柄は無いので、穂状花序を構成している。開花は、花序の基部から先端に向かって進んでいく。花の構造は、やや複雑。花を後方から見ると、花茎とは苞を介して6個の花被片があるが、外側の3個が外花被で萼に相当し、内側の3個が内花被で花弁に相当する。正面から見ると、花の中心に柱頭が3裂した雌蕊があり、その周辺に長い葯のある雄蕊が3本ある。また、花被片の基部には濃い斑点があるのが特徴だ。花は下向きに慎ましく咲き和風を思わせるが、鮮やかなオレンジ色で多少入り込んだ複雑な形状は外来種らしさも感じさせる独特な雰囲気を持っている。また、虫媒花であり、蜜を求めてハナバチなどが訪れる。

苞を被った蕾が直接花茎につき、穂状花序を構成している (‎‎‎2024‎年‎6‎月‎27‎日 所沢市)

開花は、花序の基部から先端に進んでいく (‎‎‎2024‎年‎6‎月‎27‎日 所沢市)

花茎とは苞を介して6個の花被片があり、外側の3個が萼、内側の3個が花弁に相当する (‎2012‎年‎7‎月‎7‎日 所沢市)

花の中心に柱頭が3裂した雌蕊、その周辺に雄蕊が3本あり、花被片の基部に濃い斑点がある (‎‎2010‎年‎7‎月‎17‎日 所沢市)

外来種の鮮やかなオレンジ色の花だが、下向きに慎ましく咲くと和風を感じさせる (‎2015‎年‎6‎月‎28‎日 所沢市)

ヒメヒオウギズイセンの花には、蜜を求めてハナバチなどが訪れる (‎2007‎年‎7‎月‎21‎日 所沢市)

■果実
 ヒメヒオウギズイセンは、人工的に交配した種間交雑種であり、折角昆虫が花粉を運んで果実が出来ても中の種子はほとんど成熟しない(不稔)ので、種子繁殖するのは難しいらしい。その代わり、地中に"球茎"と呼ばれる球根をつくり、これを数珠つなぎに伸ばして驚異的な繁殖能力を発揮する。

花後に若い果実はできるが、不稔で種子を含まないことが多いらしい (‎2007‎年‎7‎月‎29‎日 所沢市)

■類似種 ヒオウギ
 ヒオウギ(檜扇)は、アヤメ科アヤメ属の多年草で、日本の在来種。姿形が新参者のヒメヒオウギスイセンに似ていたので、名称や人との関わり方で、常にお手本となった。また、ヒオウギの真っ黒で艶のある種子は"ぬばたま(射干玉)"と呼ばれ、万葉集では黒や夜の枕詞となったり、花は厄除けの植物として京都の祇園祭の期間中に床の間に飾る習慣があったりと、日本の文化に関わってきた。立ち姿も、花の時期や形、開花時期も重なりるが、ややマイルドな印象を与えるヒオウギに対し、新参のややシャープな外来花卉植物を見た命名者は、これだという気分になったのかもしれない。

ヒオウギの花 (‎‎2004‎年‎8‎月‎22‎日 東京都薬用植物園)

■ヒメヒオウギズイセンと日本人
 日本人は、ヒメヒオウギズイセンを繁殖力の強い雑草として、あるいは観賞用の園芸種として、更には日本の伝統に根差したヒオウギの代用品として認識している。しかし、生物学的な観点からは、別の存在価値も持っている。ヒメヒオウギズイセンの球根に含まれる特定のサポニン成分によって、癌などの抗腫瘍効果はあることが分かり、2006年に特許が公開された(詳細はここをクリック)。しかし、実用化に際しては、強い溶血性があり赤血球をを破壊する可能性があること、体温上昇などの副作用の危険があること、強い辛味などがあって経口摂取が難しいことなどが課題になって、未だ具体的な成果には至っていないようだ。潤沢にある資源を利用できる利点はあるので、何とか突破口を見つけていただきたい。