オニドコロ – 雑草だが所沢のルーツ

 オニドコロ(鬼野老)は、ヤマノイモ科ヤマノイモ属の蔓性多年草。日本の在来種で、全国各地の山野に自生する雑草。別名はトコロ(野老)で、これが所沢の地名の由来になっているとの説がある。室町時代に京都の高僧が、この地で饗しを受けて詠んだ歌"野遊のさかなに山のいもそへてほりもとめたる野老沢かな"による(詳細はここをクリック)。何処にでもある雑草を、たまたまこの地で見かけたので、地名になった。また、所沢市の市章もオニドコロの葉をモチーフにしたものだ(詳細はここをクリック)。所沢とは縁の深いオニドコロは、今でもこの地で大いに繁茂している。植物としては、丸く大きなハート形の葉、小さくともクッキリ開く花、3つの翼を持つ変わった形の果実など、個々の構成要素は見映えがする。しかし、芋が出来ても苦味が強く、有毒物質を含むので食べられない。また、表面に細かいひげ根が多く、これを"老人"に見立てて、野原に生えるので、野老と表現されてしまった。オニドコロに対する世間の評価は、有り触れたもの、何の役に立たないものということか。ところが、万葉集では"ところずら"(ずらは蔓の意味)という名前で詠まれ、源氏物語の横笛では里山に繁った"ところ"を場所の意味するもの置き換えて和歌にしていた(詳細はここをクリック)。古来より日本人は、数ある雑草の中で、何故オニドコロに関心を持ったのだろうか。

オニドコロの特徴は、ハート形の葉と3つの翼を持つ果実 (‎‎2007‎年‎9‎月‎8‎‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:オニドコロ(鬼野老)
 ・別名:トコロ(野老)
 ・学名:Dioscorea tokoro Makino
 ・分類:ヤマノイモ科 ヤマノイモ属の蔓性多年草
 ・原産地:日本の在来種
 ・分布:北海道から九州、海外では朝鮮、中国
 ・花言葉:子だくさん

■生態
 雌雄異株。オニドコロの地下にある芋は枝分かれし、細かなヒゲ根も多く、横に向かってのびる傾向がある。また苦味が強く、有毒物質が含まれるので食べられない。蔓性植物で、他の樹木や人工物のフェンスなどを覆い尽くす。葉の形は丸いハート形が典型で、先端は尖り、基部が張り出し、葉縁はやや波打つ。しかし、葉の形はやや細めのハート形のものも散見されるので、草本全体を眺めて判断すべし。葉は茎に互生し、雌雄株とも花序は葉腋から伸びる。

蔓性のオニドコロは、花期になると他の樹木などを覆い尽し成長する (‎2026‎年‎7‎月‎30‎日 所沢市)

葉の形は丸いハート形が典型で、先端は尖り、基部が張り出し、葉縁はやや波打つ (‎2022‎年‎9‎月‎14‎日 所沢市)

葉は茎に互生し、花序は葉腋から伸びる (‎‎‎2026‎年‎7‎月‎8‎日 所沢市)

■花
 雄株には雄花が、雌株には雌花がつくが、その様子はかなり異なる。雄株の花序は上方に直立する傾向があり、花序の基部から開花を始める。雄花は、花序に複数個ずつ周期的につく。雄花の構造は、開花すると淡黃緑色の6個の花被片は平開し、雄蕊も6個あり、雌蕊は退化して殆んどわからない程だ。

雄花序は上方に直立する傾向があり、基部から開花を始める (‎‎‎‎2014‎年‎7‎月‎22‎日 所沢市)

雄花は、花序に複数個ずつ周期的につく (‎‎‎‎‎2026‎年‎7‎月‎29‎日 所沢市)

雄花の淡黃緑色の6個の花被片は平開し、雄蕊も6個ある (‎2026‎年‎7‎月‎8‎日 所沢市)

 雌株の花序は垂れ下がる傾向があり、開花はやはり花序の基部からを始まる。雌花には、開花の頃から大きな子房があり、既に細長い翼のような室が3つ出来ている。雌花も6個の花被片は平開し、柱頭は3裂し、退化した6個の雄蕊が周辺に残っている。

雌花序は垂れ下がり、基部から開花を始める (‎2026‎年‎7‎月‎8‎日 所沢市)

雌花には、開花の頃には大きな子房があり、既に翼のような室がある(‎‎2026‎年‎7‎月‎8‎日 所沢市)

雌花も6個の花被片は平開し、柱頭は3裂し、退化した6個に雄蕊がある (‎‎2026‎年‎7‎月‎8‎日 所沢市)

■果実
 雌花は受精すると子房が膨らみ、薄い3つの翼がある若い果実ができる。果実は蒴果で、1つの翼の中に薄い種子が重なり合って2個あり、成熟すると先端が割れ、羽根を持った種子が風でプロペラのように飛散する。しかし、この方法だと余り遠方には飛んで行かないような気がする。秋になると黄葉した後に落葉し、冬には種子を放出した果実の脱け殻だけが蔓につながって残る。
 オニドコロの繁殖方法は、2通りの方法がある。1つは種子による有性生殖。花が小さく、寄ってくる昆虫を見かける機会は殆んどなかったが、風媒花でもあるようだ。もう1つの方法は塊茎による栄養繁殖。万全な繁殖能力方法だが、少しずつ勢力範囲を広げていく作戦のようだ。

雌花は受精すると子房が膨らみ、薄い3つの翼がある若い果実ができる (‎2009‎年‎9‎月‎6‎日 所沢市)

1つの翼の中に薄い種子が2個あり、成熟すると先端が割れ、種子が風で飛散する (‎2026‎年‎2‎月‎15‎日 昭和記念公園)

冬には、種子を放出した果実の脱け殻だけが残る (‎2026‎年‎2‎月‎15‎日 昭和記念公園)

■近縁種 ヤマノイモ
 ヤマノイモ(山の芋、学名: Dioscorea japonica)は、ヤマノイモ科ヤマノイモ属の蔓性多年草。オニドコロと同属の植物で、生育環境も、姿形もよく似ているので、同時に見かけることも多い。有毒で野生的なオニドコロに対し、ヤマノイモは自然薯とも呼ばれる高級食材で、栽培もされる程有用だ。となると、しっかり区別できるようにしなければならない。花は、ヤマノイモは白色でわずかに開くが、オニドコロは淡黃緑色で平開する。葉の形はハート形だが、ヤマノイモは細長く、オニドコロは丸い。葉のつき方は、ヤマノイモは対生で、オニドコロは互生。果実の翼の形は、ヤマノイモはほぼ円形で、オニドコロは楕円形。蔓の巻き方は、ヤマノイモは右巻きで、オニドコロは左巻き。そして、栄養繁殖器官のムカゴが葉腋にできるのはヤマノイモだけ。やはり、似て非なるものだった。

ヤマノイモの雄花序、花は白色で小さく、6枚の花被片は殆んど開かない (‎‎‎‎‎2026‎年‎7‎月‎29‎日 所沢市)

葉の形は細長いハート形で対生し、栄養繁殖器官のムカゴが葉腋にできる (‎‎‎‎‎2026‎年‎7‎月‎29‎日 所沢市)

■オニドコロと日本人
 古来より日本人に関心を持たれながらも、大して役に立たないと思われているオニドコロであるが、最近の研究で生物学的に重要な発見があった。京都大学の研究グループが"日本の野生植物オニドコロの雌雄を決める性決定機構の解明"を公表した(詳細はここをクリック)。交配集団の連鎖解析とゲノム解析により、オニドコロがXY型(XYが雄、XXが雌)の性決定様式を持つことを確認。更に、Y染色体上の遺伝子BLH9とHSP90が雄株形成に関与することを特定した。ヤマノイモ属では種ごとに異なる性決定様式が存在する(XY性決定型のみならずZW性決定型など)ことから、本成果は植物における性決定の多様性の理解にも貢献し、分子レベルで性決定機構を明らかにした成果である。
 この研究は生物学の基礎研究であるが、ヤマノイモ属の食用品種、例えば熱帯域諸国での主食であるヤムイモの栽培などに対して、雌雄を決める性決定機構の解明されると、安定的な生産を促す機会になるかもしれない。