利尻礼文サロベツ花紀行2 – 桃岩は霧の中
利尻島を後にして、午後からは礼文島の花散歩。礼文島は"花の浮島"と呼ばれるほど、見所は多い。礼文島初日は、南部の桃岩コースを、2日目は林道コースの一部と、北部のゴロタ岬やスコトン岬周辺をハイキングした。礼文島の海岸線は、西側が断崖絶壁が多いため、東側に縦断道路があり、澄海岬やレブンアツモリソウの群生地へは観光バスを利用した。

■桃岩コース
礼文島での最初のハイキングは、南部の桃岩コース。香深の北にある登山道入口から南端の知床までのコース。最初は高い木が生えているが、やがてなだらかな稜線と草原が広がる。国立公園内で自然保護領域なので、人がすれ違い出来るほどの登山道があり、ロープや柵が設置され、勾配のきつい部分には木組みの階段があり、よく整備されている。天気は変わりやすく、次第に霧が深くなり、視界を遮る。桃岩展望台に着くと霧は薄くなり、桃岩の稜線と海上に浮かぶ猫岩は何とか見えた。そして周辺のお花畑の広大さに気がついた。ハイキングの終盤に知床まで下っていくと、人の背を超える程のオオイタドリの群生や疎らな高木に迎えられ、極楽浄土から現実世界に戻ってきたような気がした。






■出会えた植物たち
キジムシロ(雉筵、分類:バラ科キジムシロ属、学名:Potentilla fragarioides)は、日本の在来種で、全国の陽当りの良い山野で小さな黄色い5弁花を咲かせる。花が終わった後の葉が地表に広く展開する様子が、キジが休むムシロに例えられ命名された。

ハクサンチドリ(白山千鳥、ラン科ハクサンチドリ属、Dactylorhiza aristata)は、多年草の高山植物。飛騨の霊山白山に多いこと、花の形を千鳥の飛ぶ姿にみたて命名された。茎が直立して40cm程度になり、総状花序の赤紫色の花を多数つけるので、草原の中では良く目立つ。


ヤマブキショウマ(山吹升麻、バラ科ヤマブキショウマ属、Aruncus dioicus var. kamtschaticus)は、日本各地の湿気のある土地に自生する多年草。葉が山吹に、根茎が鳥脚升麻に似ているので命名された。分岐した花茎の頂部に白い小さな5弁花が、円錐状に集まって咲くが、ここでは未だ花期に至らず、蕾の状態だった。

チシマフウロ(千島風露、フウロソウ科フウロソウ属、Geranium erianthum)は、利尻島でも見かけた。高山植物だが、礼文島では海抜100m程度の草原でも、かなりの密度で生育している。


クルマバソウ(車葉草、アカネ科ヤエムグラ属、Galium odoratum)の多年草。これも利尻島にあった。

ミヤマキンポウゲ(深山金鳳花、キンポウゲ科キンポウゲ属、Ranunculus acris var. nipponicus)は、多年草の高山植物。日本の固有種で、北海道から中部地方以北に自生。黄色い小さな5弁花の近縁種は多いが、光沢のある花とモミジのように深く裂けた葉が特徴。


オオハナウド(大花独活、セリ科ハナウド属、Heracleum maximum)は、北海道から本州近畿地方以北の高山の湿った場所に分布する多年草。礼文島では、ちょうど開花が始まった時期。白い花が咲く大型のセリ科の植物はよく似ていて識別が難しい。オオハナウドの特徴は、小花序の白い5弁花は外側にあるものほど大きく、葉は大きく切れ込みが多い3出複葉。

オオカサモチ(大傘持、セリ科オオカサモチ属、Pleurospermum uralense)は、北海道から本州中部以北の高山や山地に自生する多年草。これも大型の複散形花序を持ち、小花序に白い小さな5弁花をつけるが、大きさは均一。葉は柔らかく切れ込みが細かい。これらの特徴で、オオハナウドとは区別できる。

コケイラン(小蕙蘭、ラン科コケイラン属、Oreorchis patens)は、北海道から九州までの高地の湿り気のある林内に自生する多年草。花茎が直立し、総状花序に多数の黄褐色の花をつける。花の形は、まごうことなきラン科のものだ。

ミヤマオダマキ(深山苧環、キンポウゲ科オダマキ属、Aquilegia flabellata Sied. et Zucc. var. pumila Kudo)は、利尻島の姫沼でも見かけたが、ここでは先が5裂した細長い果実が生育していた。


サクラソウモドキ(桜草擬、サクラソウ科サクラソウモドキ属、Cortusa matthioli var. sachalinensis)は多年草で、北海道特産の希少種で、礼文島に多い。しかし、他の植物と比べると、見かける頻度は低い。サクラソウに似ているが、くすんだ色調でやや下向きに咲く花は地味に感じるけど、華やかなサクラソウとは異なる個性を持っている。

シャク(杓、セリ科シャク属、Anthriscus sylvestris)は、全国区のセリ科の植物。利尻島の姫沼にもあったが、こちらのものは、やや成長が進み、細長い果実もでき始めていた。

センダイハギ(千代萩/先代萩、マメ科センダイハギ属、Thermopsis lupinoides)は、北海道や本州中部以北に自生する多年草。マメ科特有の蝶形の黄色い小花が、花茎に対生する。葉は3出複葉で、小葉は楕円形。礼文島内ではよく見かけた。

スズラン(鈴蘭、キジカクシ科スズラン属、Convallaria majalis var. manshurica)は、北海道や本州の高地など冷涼な地に自生する多年草。2枚の大きな葉に囲まれて花茎を伸ばし、白い釣鐘形の花を慎ましく咲かせる。本種は普通、葉の先が花茎より高い位置にある。スズランの園芸種として普及しているドイツスズランは、花茎が葉の先よりも高いと言われている。

スズムシソウ(鈴虫草/紫雲菜、ラン科クモキリソウ属、Liparis makinoana)は、北海道から九州の林床に自生する多年草。花の薄い唇弁が、紫褐色の半透明でスズムシの翅に擬えて命名されたユニークな小型の地生ラン。山野草として人気が高く盗掘が絶えないが、栽培が難しく、絶滅の危機にある。ここで見られたのはラッキーだった。

エゾイブキトラノオ(蝦夷伊吹虎の尾、タデ科イブキトラノオ属、Bistorta officinalis ssp. pacifica)は、北海道の中央高地から礼文島に欠けて自生する多年草。日本全国に分布するイブキトラノオとは亜種同士で、本種の方が草丈が高く、花色のピンクは濃いめ。花は茎頂に円柱花序を作り、花弁はなく、萼が5深裂しており、数本の雄蕊が突き出している。この時期は、花が咲き始めたところ。

バイケイソウ(梅蕙草、ユリ目シュロソウ科シュロソウ属、Veratrum oxysepalum var. oxysepalum)は、多年草の高山植物で、日本では北海道から九州の山地から亜高山帯の林内や湿った草地に自生する。花が梅に似て、葉が蕙蘭(けいらん)に似ているので命名された。茎の上部に大形の円錐花序をつくり、花は小さく緑色を帯びた白い6枚の花弁をもち、草丈は1mを超えるので、草原の中では良く目立つ。


レブンハナシノブ(礼文花忍、ハナシノブ科ハナシノブ属、Polemonium caeruleum ssp. laxiflorum f. insulare)は、北海道に自生するカラフトハナシノブのうち、礼文島で自生し花序が花茎の上部に密集するものと定義する説がある。花は5裂した深い青紫色の合弁花で、その中央に雌蕊の3裂した白い柱頭と雄蕊の黄色い葯との対比が美しい。

ネムロシオガマ(根室塩竈、ハマウツボ科シオガマギク属、Pedicularis schistostegia)は、日本では道東と礼文島に自生する高山性の多年草で、何故か隣の利尻島には無い不思議な分布。草丈は精々30cm程度で、羽状の葉が互生した茎の先に淡黄白色の花を多数つける。花冠は上唇が舟形で下唇より長く、先が下向きに曲がる。蜜を分泌しないレブンアツモリソウに対し、昆虫がネムロシオガマと誤認してレブンアツモリソウに入り込み受粉の機会を与えているとの説がある。何か不思議な植物だ。

レブンソウ(礼文草、マメ科オヤマノエンドウ属、Oxytropis megalantha)は、礼文島の固有種の多年草。風の強い土地に太い茎を地面に這わせ、羽状複葉の葉が繁る中から花茎が立ち上り、紫色のマメ科特有の蝶形花をつける。全体に細かな毛に覆われ、野性的な雰囲気がある。貴重種で環境省絶滅危惧IA類。

ホソバノアマナ(細葉の甘菜、ユリ科チシマアマナ属、Lloydia triflora)は、日本では北海道から九州の陽当りの良い草原などに自生。花茎の先から幾つかの花柄を伸ばし、漏斗状で平開しない6弁の白い花をつける。雄蕊も6本あるが、この個体では既に落ち、花は終わりに近づいていた。

レブンキンバイソウ(礼文金梅草、キンポウゲ科キンバイソウ属、Trollius ledebourii)は多年草で、礼文島の固有種。八重咲きのように10枚程度の黄色い花弁に見えるのは萼片で、本当の花弁はその内側にある細長い短冊状のもので、雄蕊より長い。花が大きく、鮮やかな黄色で、構造も複雑で、野の花としては見応えがある。


オニシモツケ(鬼下野、バラ科シモツケソウ属、Filipendula camtschatica)は、北海道や本州の中部以北に自生する多年草。利尻島でもに蕾の状態だったが、こちらでは未だ出来立ての硬い蕾だ。

クロユリ(黒百合、ユリ科バイモ属、Fritillaria camschatcensis)は、日本では北海道や本州中部地方以北に自生するの高山植物。花は鐘状で、茎先に斜め下向きにつく。黒紫色の花被片は6個で網目模様がある。葉は披針形で3~5枚が数段にわたり輪生する。ここでは、花は終わりに近づき、葉も黄色くなり始めた。

ヤマハナソウ(山鼻草、ユキノシタ科チシマイワブキ属、Micranthes sachalinensis)は、北海道の高山帯の礫地や岩場に生える多年草。名の由来は、札幌の山鼻地区(藻岩山)で発見されたため。白い5弁花で、中央部の黄色い模様と雄蕊の赤茶色の葯の配色が引き立つ。葉は葉は根生葉のみで、長い茎が伸びる。

エゾニュウ(蝦夷丹生、セリ科シシウド属、Angelica ursina)は、北海道から本州の北部と中部に自生する多年草。若い茎はアクの処理をして山菜になる。この個体は、未だ散形花序をつける前のもので、大きな羽状複葉が目立つ。この辺に自生するセリ科の植物の中でも大きく、高さは1~3m、茎の直径は5cmにもなる。

ダイコンソウ(大根草、バラ科ダイコンソウ属、Geum japonicum)は、全国に分布する多年草。利尻島で見た株は若い果実が出来始めていたが、こちらでは蕾が開花を始めたところ。

ツルアジサイ(蔓紫陽花、アジサイ科ツルアジサイ属、Hydrangea petiolaris)もは、落葉蔓性の広葉樹。 昨日、利尻島の姫沼で見たが、ここでも装飾花が開き始めたところ。

オオタカネバラ(大高嶺薔薇、バラ科バラ属、Rosa acicularis)は、ハマナスにそっくりな落葉低木。日本では、北海道、本州中北部の日本海側の高山に自生。道内には無いタカネバラと比較すると、葉の形がやや丸みがあり、小葉の数が少ない。またハマナスの葉は光沢があり葉脈が細かい。葉は兎も角、花だけ見ると、殆んど区別がつかないと思う。

桃岩コースのハイキングも終わりに近づき、歩道が砂利敷に変わると、2つの不思議な光景が目に入った。一面に広がっているササ原では、花が咲き、葉や茎は灰褐色に成り枯れかけているのだ。ササが一斉開花して枯れるのは、数十年から百数十年に一度との定説がある。これからこの地域の植物相はどうなるのだろうか。


もう1つはアキグミに遭遇したことだ。 アキグミ(秋茱萸、グミ科グミ属、学名: Elaeagnus umbellata)は、北海道の渡島半島を北限とする落葉低木。ちょうど細長い白い花が、開花を始めるところだ。渡島半島より北にある礼文都にアキグミが存在するのは、地球温暖化のためか、それとも人為的に植栽されたものか。人家のないところで、彼方此方にあったので、気になった。

次の日も、礼文島の花紀行を続ける。


