利尻礼文サロベツ花紀行1 – 利尻富士がランドマーク
二十数年前、夏休みに子供連れで北海道をドライブをしたことがある。道内の郊外の道路は、信号は殆んど無く、緩やかなカーブや起伏が続き、遠景の山々の姿が少しずつ変化する。市街地に入ると雪にも寒さにも耐えられるガッチリした構造の住宅が疎らに並んでいる。道内であれば、ほぼ何処も同じ印象を受ける。ところが、稚内に車を置いて礼文島に渡ると、そこは別世界。交通信号機は小学校前に1つしか無く、交通量は少なく長閑で、北海道内とはかなり雰囲気が異なる。ペンションに宿泊し、昼は花を求めてハイキング、夜は満天の星空を満喫し、記憶に残る旅行になった。
現在は退職し、自由に使える時間がたっぷりあるので、今度は花の種類が豊富な6月の礼文島旅行を思い立った。ちょうど旅行会社のパックツァー"利尻礼文の花々を満喫する旅行"が目に留まったので参加することにした。1日目は飛行機で稚内に経由で利尻島へ、2日目は利尻島の花散歩した後、礼文島へ渡り桃岩付近を散歩、3日目は礼文島北部を散歩、4日目は稚内経由サロベツ原生花園を散布し、飛行機で羽田空港へ、なかなかハードなスケジュールだ。一体どんな旅行になるのだろうか。この地域は1965年に利尻礼文サロベツ国立公園になり、高山性野生植物の宝庫であり、何時も強い風に晒されている強風地帯だ。そして、その中心は、どの地域からでも展望できる利尻富士(別名:利尻山、利尻岳)がランドマークになっている。

■稚内から利尻島へ
稚内空港に着くと、周辺には小高い丘陵が続き、絶えず強い風が吹いている。稚内港に向かう車窓からは、多数の風力発電用の風車が並んでいるのが見える。稚内港は道北の物流や漁業の拠点だが、現在運行されている定期航路は、利尻島と礼文島とのフェリー便のみだが、かつては北防波堤埠頭から南樺太への連絡船が発着していた。稚内港を出港し、利尻島に向かう。最初は薄雲に隠れてた利尻富士の姿が利尻島に近づくにつれ鮮明になり、鷲泊港に近づくと山頂付近の残雪まではっきり見えた。これも強い風の効果だろうか。鷲泊港の入口にペシ岬(別名ゴリラ岩)がある。利尻島は火山によって形成されたが、利尻富士以外にもポンと呼ばれる小さな火山性の山々がある。ペシ岬もペシの1つだったが、資材の少ない島では市街地に近いペシ岬が削られ、尖っていた山がゴリラのような形になったらしい。離島ならでは事情があったようだ。鷲泊港を目指す時に、利尻島の住民が手前にペシ岬が、奥に利尻富士が見えたとき、漸く故郷についたと思わせる風景だと思う。これは多分、道産子が青函連絡船から函館港と函館山が目に入ったときの気分と同じだ。






■利尻島の花散歩コース
利尻島では朝にホテルを出発し、昼には礼文島行きのフェリーに乗船するので、結構ハードなスケジュールだ。このためバスで島を一周するが、姫沼、仙法志御崎公園、オタトマリ沼で下車し、そこで花散歩を楽しんだ。

■姫沼
姫沼は1920年頃に、3つの沼を合わせて周囲1kmの人造沼とし、当時はヒメマスを放流したので、この名がついた。ここでは花に詳しいガイドさんが説明をしてくれた。しかし、十数人の参加者が狭い木道を歩くと、花を凝視したり撮影したりする人がおり、人の列が伸びたり縮んだりして、団体旅行特有の現象が生じる。このため、参加者が団体案内用無線機を持ち、ガイドさんの説明や指示が伝わる仕掛けになっていた。これは便利だ。また、目的の植物が見つかったら、列の前方の人が後続の人にリレー式に指差し伝達したり、団体旅行ならではのノウハウがあり感心した。それでは、いよいよ姫沼の花散歩開始!



道路脇には至る所、樹液にかぶれ成分を含むツタウルシ(蔦漆、分類:ウルシ科ウルシ属、学名:Toxicodendron orientale)の3出複葉の若葉が繁茂していた。

チョウセンゴミシ(朝鮮五味子、マツブサ科マツブサ属、Schisandra chinensis)は蔓性落葉樹で、ちょうど花が咲いていた。雌雄異株で、写真の花は雄花のようだ。果実が生薬になる。

ミヤマオダマキ(深山苧環、キンポウゲ科オダマキ属、Aquilegia flabellata Sied. et Zucc. var. pumila Kudo)は高山に自生する多年草。園芸種のオダマキの原種であり、かなり大きい。

マイヅルソウ(舞鶴草、キジカクシ科マイヅルソウ属、Maianhemum dilatatum)は高山植物の多年草。大きな2枚の葉は茎の上部につき、花は白く総状に付く。

ツルアジサイ(蔓紫陽花、アジサイ科ツルアジサイ属、Hydrangea petiolaris)は、落葉蔓性の広葉樹。今の時期は、円形花序は未だ蕾だが、周辺の装飾花が開き始めた。園芸種のアジサイと比較すると、他の樹木に気根で絡みつき、大きくて野性味がある。

ミズバショウ(水芭蕉、サトイモ科ミズバショウ属、Lysichiton camtschatcensis Schott)は湿地に自生する多年草。早春に白い仏炎苞が出るが、現在はそれが落ち、葉がひたすら伸びて巨大化している。

ヤブニンジン(藪人参、セリ科ヤブニンジン属、Osmorhiza aristata)は、何処にでもある雑草。関東地方では4月頃に開花するが、ここでは2か月位遅いようだ。

クルマバソウ(車葉草、アカネ科ヤエムグラ属、Galium odoratum)は、北海道、本州、南千島に自生する多年草。葉が輪生するのでこの名がついた。ちょうど花期に入り、茎先に2~3出状の集散花序を出し、白い花をつける。芳香があり、海外ではハーブや民間薬に利用されているようだ。

ギンラン(銀蘭、ラン科キンラン属、Cephalanthera erecta)は、地生ランの多年草。関東地方では5月連休の頃には咲いているが、道北の花期は1.5か月程度遅いようだ。

エゾマツ(蝦夷松、マツ科トウヒ属、Picea jezoensis var. jesoensis)は、道央以北と以東に分布する常緑針葉高木。巨大(~40m)で直立し、堂々としており"北海道の木"に指定されている。この時期は、枝先の黄緑色若い葉とオレンジ色の花序が目立っていた。



ダイコンソウ(大根草、バラ科ダイコンソウ属、Geum japonicum)は、全国に分布する多年草。葉がタイコンの葉に似ていると言われるが、それ程規則的ではない。この時期には、花がもあり、併行して果実も出来ていた。

シャク(杓、セリ科シャク属、Anthriscus sylvestris)は、全国に分布する多年草。セリ科の植物は区別がつき難いが、葉がニンジンに似て、花は白色の5弁。山菜にもにもなるらしいが、よく似た有毒植物も多いらしい。

オニシモツケ(鬼下野、バラ科シモツケソウ属、Filipendula camtschatica)は、北海道や本州の中部以北に自生する多年草。葉は掌のように5裂し、小さな5弁の白い花が散房状につけるが、今は未だ蕾の状態だった。

クルマバツクバネソウ(車葉衝羽根草、シュロソウ科ツクバネソウ属、Paris verticillata)は、日本では亜高山帯までの林に生える多年草。不思議な形をしている。6~8枚の葉が輪生し、茎の先端に花柄を伸ばして一輪の淡黄緑色の花を上向きにつける。外花被片は4個、花柱は4裂するのが標準らしいが、この個体はともに5個あった。変異でもしたのだろうか?

ミヤマエンレイソウ(深山延齢草、別名白花延齢草、シュロソウ科エンレイソウ属、Trillium tschonoskii)は、山地の林下に自生する多年草。今回見たのは、枯れた花弁があまり大きくなく、花の向きが横向きなので、おそらくミヤマエンレイソウだろう。花の盛りには、花を囲む輪生する3枚の葉とのバランスが絶妙で、花と葉が一体になってミヤマエンレイソウと認識される。

ダケカンバ(岳樺、カバノキ科カバノキ属、Betula ermanii)は、高山や北国の山地などに自生する落葉広葉樹。同じ仲間のシラカンバ(白樺)より高いところに分布し、樹皮は灰褐色で、シラカンバの方が白い。似た者同士が微妙な環境差で棲み分けをしているようだ。この時期は、ちょうど花序が出てきたところだ。北海道では、野球のバットの材料になるらしい。


アマドコロ(甘野老、キジカクシ科アマドコロ属、Polygonatum odoratum var. pluriflorum)は、全国各地に自生する多年草。類似した植物は多いが、茎が枝分かれせず、花が葉の付け根から1~2個垂れ下がっているので、アマドコロのようだ。花期は、関東地方より1~2か月遅い。

マムシグサ(蝮草、サトイモ科テンナンショウ属、Arisaema serratum)は、全国の湿った林床に自生するお馴染みの植物。ちょうど花が苞の中で直立し、見頃だった。茎の紫褐色のまだらなマムシ模様もはっきりしていた。

オククルマムグラ(奥車葎、アカネ科ヤエムグラ属、Galium trifloriforme)は、全国の湿った土地に自生する多年草。既出で同属のクルマバソウと良く似ているが、葉は6枚が輪生しているのが特徴。

チシマアザミ(千島薊、キク科アザミ属、Cirsium kamtschaticum)は、北海道や千島に自生し、蝦夷薊の別名がある。草丈は人の背の高さ程あり、葉は長く鋭い鋸歯があり、なかなかワイルド感がある。筒状花からなる頭花は下向きにつくのも特徴。

トドマツ(椴松、マツ科モミ属、Abies sachalinensis)は、北海道や千島・樺太に分布する常緑針葉樹であり、エゾマツと並ぶ北海道を代表する針葉樹。枝は水平または斜上し、葉は密生する。樹皮は灰白色からやや褐色を帯び、表面は滑らか。建材などにも利用され、植林もされている。



クマゲラ(熊啄木鳥、キツツキ科クマゲラ属、Dryocopus martius)は、北海道と東北に棲息するキツツキ類の最大種。利尻島には多いが、残念ながら姿は見られなかったが、クマゲラが掘った巣穴があった。

■仙法志御崎公園
姫沼を後にして、バスは利尻島最南端の仙法志御崎公園へ。上空が雲に覆われていたため、残念ながら利尻富士の絶景はお預け。海岸は、溶岩が造り出した奇岩が並ぶ。此処は3軒ばかりのお土産屋さんが並ぶ休憩場所になっている。海岸や道路沿いには多くの植物が咲いていた。

ハマナス(浜茄子、バラ科バラ属、Rosa rugosa)は、北日本の海岸に自生する落葉低木。5弁の紅紫色の花を咲かせ、強く甘い芳香があるので、近寄るとその存在に気がつく。道外でも公園や植物園で植栽されるようになり、よく見かけるようになった。

エゾカンゾウ(蝦夷萱草、ワスレグサ科ワスレグサ属、Hemerocallis middendorffii var. esculenta)の正体は、ゼンテイカ(禅庭花)と呼ばれる多年草。日本各地で同定されたため、地方によってはニッコウキスゲ、エゾゼンテイカ、センダイカンゾウなどと呼ばれる。朝に咲き、夕方には萎む一日花だが、群生すると見事な景観になる。

チシマフウロ(千島風露、フウロソウ科フウロソウ属、Geranium erianthum)は、北海道から東北地方に分布する多年草。花はフウロソウの中では大きめで、5花の青紫色の花弁と雄蕊や花脈の濃い紫色とのコントラストが美しい。この季節には彼方此方に咲いていた。

オオハナウド(大花独活、セリ科ハナウド属、Heracleum maximum)は、北海道や本州近畿地方以北などに自生する多年草。草丈は人の身長程度で草原に生えると突出して目立つ。分枝した先端に大型の複散形花序をつけ、花は白色の小さな5弁花。セリ科の植物は多数あり、なかなか識別しにくい。

■オタトマリ沼
仙法志御崎公園の次の休憩場所は、オタトマリ沼。この沼は湿原地にあり、利尻富士の地下水によって維持されている淡水湖。湖上にはカモメやウミネコなどの海鳥が羽根をを休めており、不思議な光景。風を遮るものがない海上より、木々に囲まれた穏やかな湖上を選んだのかもしれない。オタトマリ沼の逆さ利尻富士は、やはりお預け。此処にはお土産屋と食事処があるだけで、あまり見るべきものがなかった。

■利尻島から礼文島へ
利尻島内で昼食(ホッケの焼魚定食)をとった後、フェリーで鷲泊港を出発し、礼文島の香深港へ向かう。海上に出ると利尻富士の山頂を覆っていた雲が風に流されていって、上空は晴天になっていた。船のデッキの上で変わりゆく風景を撮影していたら、強風で飛ばされそう。いよいよ午後からは、礼文島でのハイキングが始まる。



