カラスビシャク - 面妖で気が置けない雑草

 カラスビシャク(烏柄杓)は、サトイモ科ハンゲ属の多年草。花はサトイモ科特有の筒状の仏炎苞と呼ばれる苞の中にある特異な姿であり、また繁殖方法は複雑で独特なため、普通の植物ではない異質感がある。名の由来は、役に立たないという意味を含めて、カラスが使うであろう柄杓に見立てたため。実態も、日当たりのよい道端や土手、田畑などに繁茂する繁殖力の強い雑草て、"百姓泣かせ"の別名もある。一方で、漢方では地下の球形の根茎(球茎)が"半夏(ハンゲ)"と呼ばれる生薬にもなり、これを採取して小銭を稼げたので"ヘソクリ"の別名もある。暦の上では、カラスビシャクが生える時期を"半夏生(はんげしょうず)"と呼び、夏至から11日目(7月2日頃)は農家にとって田植えの最終期限の目安になっていた。また、烏柄杓や半夏は仲夏の季語であり、現代の俳句の世界では、しばしば歌われる。同じ時期に葉が半分白くなるドクダミ科のハンゲショウ(半夏生、半化粧)もあるが、季節としての半夏生は、カラスビシャク由来のものだ。こうしてみると、カラスビシャクは面妖な姿ながら、日本の社会とは生薬や季節感、現代俳壇などにも関わり、単なる雑草とは思えない存在になっている。

カラスビシャクの群生では、花を内蔵する苞(仏炎苞)が目立つ (‎‎‎‎2015‎年‎4‎月‎30‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:カラスビシャク(烏柄杓)
 ・別名:ハンゲ(半夏)、シャクシグサ(杓子草)、百姓泣かせ、ヘソクリ
 ・学名:Pinellia ternate
 ・分類:サトイモ科 ハンゲ属の多年草
 ・原産地:中国からの史前帰化植物らしい
 ・分布:日本では北海道から沖縄まで、海外では中国、朝鮮半島
 ・花言葉:心落ち着けて

■生態
 カラスビシャクの姿を特徴づけるのは、直立した花茎の先に仏炎苞と呼ばれる葉が変形した器官と、ヒゲのように弧を描いて伸びる付属体であり、これらをを含めると草丈は20~40cm程度になる。雌雄同株で花は両性花。地下にある球茎や、茎の基部や中間部、葉身の基部などにつく栄養を蓄えた生殖器官のムカゴ(珠芽)が地面に落ち、これらから発芽することが多い。発芽すると、長い葉柄の先に葉がつき、その後に花茎が立ち上がり、最終的には葉の高さを超える。株が小さいうちは単葉もあるが、成長すると矛形の3つの小葉からなる複葉になる。カラスビシャクの内部には、シュウ酸カルシウムを含み、皮膚に汁液がつくとかぶれることがある毒草だが、一方、漢方では地下の球茎を生薬"半夏"と呼び、吐き気や咳止めなどに有用な薬効もある。

カラスビシャクの仏炎苞は直立し、ヒゲのような付属体を含め、草丈は20~40cm程度 (‎‎‎2023‎年‎7‎月‎19‎日 帯広市)

地下の球茎、または地上に落ちた栄養を蓄えた生殖器官のムカゴ(珠芽)から発芽する (‎‎2013‎年‎5‎月‎4‎日 所沢市)

先ず、葉が長い葉柄の先につき、その後に花茎が立ち上がり、最終的には葉の高さを超える (‎‎‎2023‎年‎5‎月‎28‎日 東京都薬用植物園)

葉は、最終的には矛形の3つの小葉からなる複葉になる (‎2025‎年‎10‎月‎30‎日 所沢市)

ムカゴ(珠芽)は茎の基部や中間部、葉身の基部などにつく (‎2026‎年‎5‎月‎7‎日 東京都薬用植物園)

茎の中間部についたムカゴ (‎2026‎年‎5‎月‎7‎日 東京都薬用植物園)

■花
 長い船のような形をした仏炎苞は、付属体、雌花群、雄花郡などの器官を覆っている。付属体は仏炎苞から飛び出し、受粉を媒介する昆虫を匂いで誘引して内部に誘導する役割を持つ。その送粉者(ポリネーター)は、体長1mm程度のコバエのようだ。また、仏炎苞の内側が暗紫色の変異種ムラサキハンゲも、良く見かける。

仏炎苞は付属体、雌花群、雄花郡などの器官を覆っている (‎‎‎2023‎年‎7‎月‎19‎日 帯広市)

付属体は仏炎苞から飛び出し、昆虫を匂いで誘引して内部に誘導する (‎‎2012‎年‎5‎月‎27‎日 所沢市)

仏炎苞の内側が暗紫色の変異種ムラサキハンゲも見かける (‎‎‎2002‎年‎5‎月‎19‎日 所沢市)

花粉を媒介する昆虫は、体長1mm程度のコバエのようだ (‎2010‎年‎5‎月‎9‎日 所沢市)

 次に、仏炎苞の内部を覗いてみよう。花柄に繋がる部分から雌花群、雄花群の順に並び肉穂花序(にくすいかじょ)を形成しており、花弁はない特殊な形態をしている。雌花群は、先端に柱頭がついた卵形の子房が多数集まって構成される。雄花群は雄蕊の葯が密集しており、雌蕊群とは隣接しているが、当初は両者の間には通路はない。コバエによる受粉の過程はおおよそ次のように考えられている。カラスビシャクは雌性先熟で、雌花群がアクティブになると、付属体から臭気を発し、仏炎苞の下部に開いた小さな隙間からコバエが入り込む。そのコバエが運よく他の花の花粉を持ち込めば受粉は完了だし、花粉がついていなければ失敗。暫くの間、コバエは雌花群内で待機し、雄花群がアクティブになれば、雌花群と雄花群の通路が開き、コバエは雄花の花粉を付けて、他の花に向かう。これを繰り返し、受粉の確率が高くなる。この方法は、他家受粉を実現できる方法には違いないが、雌花群と雄花群の活性化時期が重なると自家受粉になってしまう(それでも構わないのかも知れないが)ので、結構トリッキーな方法と思う。

仏炎苞部分の断面図、雌花群と雄花群は肉穂花序を形成し、花弁はない (‎2025‎年‎9‎月‎14‎日 所沢市)

雌花群は、先端に柱頭がついた卵形の子房が多数集まって構成される (‎2025‎年‎9‎月‎14‎日 所沢市)

雄花群は付属体を取り巻き雄蕊の葯が密集しており、隣接する雌蕊群と通路は当初はない (‎2025‎年‎9‎月‎14‎日 所沢市)

■果実
 花が終わると仏炎苞の中には多数の緑色の果実(液果)ができ、各果実には1個の種子がある。種子が地上に落ちると、アリなどにより拡散されることがある。

果実は緑色の液果で、雌蕊群が生育したもの (‎‎2025‎年‎10‎月‎30‎日 所沢市)

 カラスビシャクの繁殖方法は、地下の球茎によるもの、ムカゴによるもの、そして種子繁殖の3通りだ。球茎とムカゴによる方法は栄養体によるクローン繁殖で、環境に依存せず確実な手段だ。種子による方法は昆虫によるサポートと複雑なプロセスを必要とするので容易ではなさそうだが、自然界での結実率はどの程度になるのだろうか。何れにせよ繁殖力は強力で、百姓泣かせに間違いはない。

■類似種 オオハンゲ
 初めてオオハンゲを見たときは、少し大きなカラスビシャクかと思い、別の種には見えなかった。オオハンゲ(大半夏、Pinellia tripartita (Blume) Schott)は、やはりサトイモ科ハンゲ属で、物理的に識別可能な点は、葉のつけ根をチェックすると、カラスビシャクの葉は3つに完全に分かれて独立しているが、オオハンゲは深い切込みがあっても葉はつけ根で僅かにつながっていること。また、オオハンゲはムカゴを持たないことが特徴だ(cf.カラスビシャクはどの株にもムカゴがつくとは限らないが)。道端で遭遇すると迷うかも知れない。

オオハンゲの葉は深裂するが、分離しない (‎‎2023‎年‎6‎月‎21‎日 東京都薬用植物園)

■カラスビシャクと日本人
 カラスビシャク面倒な雑草ではあるが、生薬"半夏"の原料でもある。カラスビシャクは日本各地に自生しているのにも拘らず、半夏は中国からの輸入に頼っている現実がある。このため、九州大学の研究者が日本での栽培の最適条件の研究"効率的な生薬「半夏」生産のための光環境制御および本邦自生原料の遺伝的変異の解明"(詳細はここをクリック)を公開した。先ず、カラスビシャクに適した栽培条件を探査するため、赤、青、緑のLED単色光下で栽培すると、球茎肥大は青色光下で促進され、球茎の有用成分(アラバン)の含量は緑色光下で高まった。更に、日本で自生する系統の葉緑体DNAを調べると、中国や韓国の自生系統などにない変異を確認した。また、本種の育種(優良系統のかけあわせ)で重要となる倍数性の変異を調査し、6倍体から9倍体が存在することが示唆された。

 同じカラスビシャクと言っても、日本で自生するものと、中国や韓国で自生するものはDNAレベルまで調査すると違いはあるようだ。また、新しいデバイスを利用すれば、多様な栽培環境も実現できそう。是非、効率的な国産半夏の生産実用化を実現してほしい。