タチイヌノフグリ - 異次元のミクロの世界
タチイヌノフグリ(立犬の陰嚢)は、オオバコ科クワガタソウ属の雑草。原産地はヨーロッパやアフリカで、帰化植物として世界中で自生している。日本には、明治初期に渡来したようだ。タチイヌノフグリを語るには、同属で花の形や色が類似し、且つ同時期に渡来したオオイヌノフグリを抜きにはすまされない。桜の開花前にオオイヌノフグリは山野や路傍に茎を広げながら多数の小さな星のような花を咲かせる。一方、タチイヌノフグリはサクラの開花後に、名称が示す通り茎が立ち上がり、その先に極小の同じ形の花を僅かに覗かせる。散策をしている時にタチイヌノフグリの存在に気が付くのは難しい程、地味な植物だ。同属で同じような顔を持つ同士なら、生態も良く似ている。しかし、別種なのでやはり形態は異なる。良く知られたオオイヌノフグリを見た後にタチイヌノフグリを知ると、似て非なるものであることが分かる。異次元のミクロの世界に迷い込んだようだ。

【基本情報】
・名称:タチイヌノフグリ(立犬の陰嚢)
・別名:中国名は直立婆婆納、英名はCommon Speedwell
・学名:Veronica arvensis
・分類:オオバコ科 クワガタソウ属の雑草
・原産地:ヨーロッパからアフリカ
・分布:アジア、オーストラリア、南北アメリカに移入分布
・花言葉:隠れた才能を持つ、清浄
■生態
雌雄同株。春になると茎が直立し、草丈が10~30cmになる。細かな毛が葉や茎を覆い、直立した茎は成長しながら、下から上へ次々に葉や花をつける。葉のつき方は場所によって異なり、茎の下方の葉は対生し、葉は丸い卵形で鋸歯がある。一方、茎の上方では、長楕円形の葉と花を包む苞葉が一体となって互生する。この苞葉は、蕾や花、果実を覆うが、茎との間に長い柄を持たずに直接繋がっているのが特徴だ。




■花
茎の先端は成長点にあたり、苞葉に包まれた蕾や花、若い果実などを次々につくりながら茎は上方に伸びていく。花は1個毎に苞葉に包まれるが、花柄はなく直接茎に繋がるのが特徴だ。花は両性花で、花冠はコバルトブルーで4裂し、中心に雌蕊と雄蕊2本がある。花茎は3~4mm程度と小さく、晴天時の昼間の数時間しか咲かないことも目立たない理由だ。また、花冠が5裂したり、花冠色が薄紫色のものも稀に見かける。





■果実
花が終わると子房が膨らみ、苞葉に包まれた状態で、茎の下方から順に果実ができる。若い果実は緑色で、扁平なハート形をしているので、正に名称の由来を連想させる。果実は蒴果で、成熟すると茶褐色になって割れ、20個程度の種子を拡散する。種子は、地中で休眠して春になって発芽するか、またはロゼット葉に成長して冬を越すので、一年草、もしくは越年草に分類される。



■近縁種オオイヌノフグリとの相違
同じオオバコ科クワガタソウ属の雑草であるタチイヌノフグリとオオイヌノフグリは外観上は似た者同士だが、物理的に明確に区別出来る点は2つに絞れる。1つは花の大きさ。花の色は青く形は相似形だが、花径はタチイヌノフグリが3~4mm、オオイヌノフグリは10mm程度とかなりの差がある。写真で比較すると一目瞭然だ。もう1つは、タチイヌノフグリには花柄がないが、オオイヌノフグリは長い花柄があること。他にも相違点、例えば茎の伸び方、花冠の模様、葉の形、開花時期などもあるが、アナログ的な要因が入り込んでしまうので迷うことが多くなる。しかし、生活史は同属の植物だけあって良く似ているが、生息している空間の大きさが異なるような気がする。


■タチイヌノフグリと日本人
明治になって日本に渡来し、牧野富太郎博士にも言及され、その立ち姿から命名されたタチイヌノフグリは、外来種であるが侵略的な性格はなく、特定外来生物などには指定されず、日本各地の道端や山野でひっそりと自生している。日本での歴史も浅く、食用にも薬用にもならない地味な雑草だが、鮮やかな小さなコバルト色の花は素晴らしい。それにも拘らず、酷い名前がついてしまい、子供には説明し難い。改名したほうが良いと思うほど、名前だけが有名になってしまった植物だ。

