ヤツデ - 独特な葉形と巧みな生存戦略
ヤツデは、ウコギ科ヤツデ属の常緑低木。日本の固有種で、福島県以南の本州太平洋側、四国、九州及び沖縄に自生する。特徴はユニークな葉の形と、季節外れの開花時期。葉は、分厚く艶のある大きな濃緑の掌形で観賞用の庭木として、江戸時代後期以降から植栽されるようになった。19世紀半ばには、シーボルトによってヨーロッパに渡り、今や欧米でも園芸植物として普及している。ヤツデの名の由来は、見ての通り葉が幾つかに裂けているため。但し、8つには裂けず、奇数の7か9に裂けることが多い。葉も大きいが、葉柄も長いので、"天狗の羽団扇"との別名もある。また、ヤツデの開花時期は、多くの植物の花が咲き終えた晩秋だ。このため、虫媒花であるヤツデは多数の白い花を咲かせて半ば独占的に昆虫を集めて花粉を運んでもらう。巧みな生存戦略だ。狭山丘陵を散策すると、ヤツデの株は所々に点在する。鳥が種子を運び実生したものだろう。一方、民家や公園では、ヤツデは庭木として挿し木や株分けにより繁殖し、群生しているものも多い。何れにせよ、ヤツデは寒い時期に葉や、花、果実が身近に楽しめる貴重な植物となっている。

【基本情報】
・名称:ヤツデ(八手)
・別名:テングノハウチワ(天狗の羽団扇)
・学名:Fatsia japonica
・分類:ウコギ科 ヤツデ属の常緑低木
・原産地:日本の固有種
・分布:東北地方南部以南の本州から南西諸島
・花言葉:分別、親しみ、健康
■生態
ヤツデは雌雄同株。樹高は1~3m程度が多い。数本の幹が地面から株立し、樹皮は灰褐色。上方の幹には、維管束痕が十数個V字形に並んだ葉痕が続く。長い葉柄を持つ大きな葉は、互生ないし輪生する。幹の先には、白くて大きな円錐形の花序が連なる。




春になると冬芽が割れ、数本の萎れたままの褐色若い葉が芽を出す。葉が充分に開くと、葉の直径は20cm以上、葉柄も15cm以上にもなり、まるで団扇のような形になる。葉は厚く、表面は濃緑色で艶があり、裏面は淡緑色で光沢はない。葉の形状は、"八手"の名とは裏腹に、奇数の7つか9つに裂けることが多い。




■花
秋が深まる頃、幹の先にできた円錐体の中に多数の蕾の集合体が現れる。これが成長すると、茎の先に球状の散形花序ができ、これらが集まって大きな円錐花序を構成する。花は両性花で、晩秋に花茎の頂点の方から時期をずらしながら開花するが、基部の方では開花せずに終わる蕾もあるようだ。



花は両性花で、雄性先熟。蕾が開くと、先ず雄花になる。雄花は、白い花弁が5枚、雄蕊が5本、中央の雌蕊も5本だが密着して1本に見える。雄花の中央に広がる花床には蜜が溢れ出し、花粉媒介昆虫を引き寄せる。雄花の花弁と雄蕊が落ちると、花は雌性期に入る。雌花は、密着していた雌蕊が5本に別れ、受粉が可能な状態になる。




晩秋に、花の最盛期を迎える。かなり寒い時期になっているので、生き残っている花粉媒介昆虫は少なくなっているが、それでもこの時期の貴重な蜜源を求めて、ハナバチやハエの仲間が花を訪れる。



■果実
雌蕊が枯れると、若い果実が生育を始める。果実は液果で、中に種子が5個ある。翌春の春には黒く熟し、鳥によって拡散される。自生の場合は、このようにして実生繁殖する。園芸種として栽培される場合は、挿し木や株分けによる繁殖が一般的だ。


■ヤツデと日本人
日本人との関係は、在来種でもあり、かなり深い。ただ、植物が特殊な形をしているためか、称賛の対象ではなく、何やら神秘的な雰囲気を漂わせる。葉が人の手を広げた形をしているので千客万来の象徴になったり、逆に大きな手がストップをかけるように家に邪気が入らないように魔除けを期待して植えられたりする。また、薬草としてサポニンを含んでいるので、薬草風呂や民間療法に利用されたり、汲み取り式トイレに葉を投げ込んで蛆虫の殺虫剤にもした。東京の高尾山薬王院ではヤツデ形の団扇が開運の縁起物として授与される。現代の日本人にとっては、実用的には期待するものは少ないが、ヤツデの持つ精神性のようなものを感じさせてくれる。


