ホウチャクソウ - 超然とした白い釣鐘状花

 ホウチャクソウ(宝鐸草)は、かつてはユリ科に分類されていたが、現在はイヌサフラン科チゴユリ属となった。日本各地の林縁や森林に自生する多年草で、釣鐘状の白色から緑色のグラデーションのある花が美しい。名の由来は、寺院建築の軒先に吊り下げられた宝鐸に似ているから。旧ユリ科で現キジカクシ科アマドコロ属のアマドコロやナルコユリも生育時期を同じくし白い釣鐘状の花をつけるが、早春には食用野菜として、また薬用としても利用され、日本人には馴染み深い植物だ。一方、ホウチャクソウは全草有毒であり、役立たずと言うよりは危険な植物だ。そして、観賞用としてはアマドコロやナルコユリは草丈が高く、多くの花を弓なりに咲せ華やかな雰囲気がある。それに対し、ホウチャクソウは草丈は低く、花の密度も低く、地味で見映えはしない。しかし、花の構造や配色などは個性的で、これらの中では一種超然とした存在感がある。

ホウチャクソウ の花 (‎2007‎年‎4‎月‎29‎日 神代植物公園)

狭山不動尊第二多宝塔(播磨の旧椅鹿寺)の宝鐸 (‎2023‎年‎10‎月‎18‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ホウチャクソウ(宝鐸草)
 ・別名:キツネノチョウチン、ハトノチョウチン
 ・学名:Disporum sessile
 ・分類:ユリ目 イヌサフラン科 チゴユリ属の多年草
 ・原産地:日本を含む東アジアの極東ロシアから東南アジア
 ・分布:日本全土に自生
 ・花言葉:追憶、あなたを離さない、嫉妬、よきライバル

■生態
 ホウチャクソウは地下に根茎があり、そこから走出枝(ランナー)ができ、その先に新芽をつけるので多年草に分類される。このため、ホウチャクソウは群生しやすい。若芽は直立し、葉や蕾が一緒になって出てくるが、直ぐに展開が始まり、葉や蕾が姿を表す。若芽にもアルカロイド成分が含まれているので、嘔吐や吐き気を催すので要注意。直立した茎は上部で二分岐を繰り返し、草丈は30~60cmになる。葉は長楕円形で先端が尖り、光沢があって全縁で、数本の葉脈が走る。茎に対して短い葉柄を介して葉は互生する。

雑木林の中の開けた場所に群生し易い (‎‎2025‎年‎4‎月‎30‎日 昭和記念公園)

地表に出た若芽 (‎2024‎年‎4‎月‎2‎日 昭和記念公園)

若芽から葉と蕾が展開を始める (‎2024‎年‎4‎月‎2‎日 昭和記念公園)

やがて、葉と蕾が分離する (‎2024‎年‎4‎月‎2‎日 昭和記念公園)

株は上部で二分岐を繰り返し、葉は長楕円形で先端が尖り、互生する (‎‎2014‎年‎4‎月‎25‎日 昭和記念公園)

花期の株の全景 (‎2025‎年‎4‎月‎30‎日 昭和記念公園)

■花
 花期は春から初夏にかけてで、茎の上部で分岐した枝先に、細長い花を1~3個つける。花の構造は、筒状に見えるが、実際は複雑で二重構造になっていて6枚の花被片があり、外側の3枚は萼片、内側の3枚が花弁に相当する。それぞれ3枚の花被片は基部以外では合着せず隣接している。蕾のときは全体が黄緑色だが、開花すると基部は白くなり、開口部の黄緑色とのグラデーションが際立つ。開花しても花冠はわずかに開くだけで、覗き込むと花被片の中から6本の雄蕊の葯が覗く。

蕾の花被片は黄緑色で、外側の3枚の萼片、内側の3枚の花弁は合着せず隣接する (‎‎2014‎年‎4‎月‎25‎日 昭和記念公園)

開花しても花冠はわずかに開くだけで、6本の雄蕊の葯が見える (‎2025‎年‎4‎月‎30‎日 昭和記念公園)

開花が進むと、花被片の基部は白くなり、先端は黄緑色が残る (‎‎2015‎年‎5‎月‎3‎日 埼玉県日和田山)

 ホウチャクソウの花を眺めていると、あることに気がついた。雌蕊の花柱が花冠の外に飛び出しているものと、そうでない2種類が存在することだ。これは成長の過程で雌蕊が伸びてくるのではなく、染色体の構造に起因するものだ。雌蕊が長いものが2倍体であり、一般的な方法で、昆虫が花粉を媒介して受精し果実ができる。一方、雌蕊が短く花冠の外に出ないものが3倍体であり、昆虫による花粉の媒介はあまり期待できない。繁殖に関しては、種子によるもの以外に、地下の根による栄養繁殖も可能なので万全だ。この2倍体と3倍体の並立は何か意味があるのだろうか。当地では、2倍体は少なく、3倍体が圧倒的に多い。

2倍体の花では、雌蕊が花冠の外に飛び出す (‎‎2015‎年‎5‎月‎3‎日 埼玉県日和田山)

2倍体では、花冠付近まで雌蕊の柱頭が3裂して伸びる (‎2025‎年‎4‎月‎30‎日 昭和記念公園)

3倍体の花では、雌蕊は花冠の外には出ない (‎2014‎年‎4‎月‎23‎日 東京都薬用植物園)

3倍体では、雌蕊が目立たない花が多い (‎2025‎年‎4‎月‎30‎日 昭和記念公園)

■果実
 花が終わると、花被片や雄蕊が落ち、柱頭のついた子房が残る。やがて、柱頭も落ち、子房が膨れて若い果実になる。果実は生育すると、果皮は黄緑、緑、黒色へと変化していく。黒く成熟した果実は液果で、中に10個程度の種子がある。

花が終わると、花被片や雄蕊が落ち、柱頭のついた子房が残る (‎2025‎年‎4‎月‎30‎日 昭和記念公園)

黄緑色の若い果実 (‎‎2024‎年‎5‎月‎3‎日 東京都薬用植物園)

果実は生育すると、黄緑、緑、黒色へと変化する (‎2024‎年‎9‎月‎5‎日 東京都薬用植物園)

成熟した果実は液果で、中に10個程度の種子がある (‎2024‎年‎9‎月‎5‎日 東京都薬用植物園)

■良く似た植物
 アマドコロとナルコユリは、花ばかりか果実の形もホウチャクソウに良く似ている。アマドコロ(甘野老、学名: Polygonatum odoratum var. pluriflorum)とナルコユリ(鳴子百合、Polygonatum falcatum)はともに、キジカクシ科アマドコロ属の多年草。花の形が釣鐘型であるが合弁花であること、そして複数の花や果実が弓形の茎に対して周期的につくことで、ホウチャクソウとは外観上の区別がつく。また、アマドコロとナルコユリの外観上の区別は、花と花柄の接点の突起の有無、茎の陵の有無で判別できる。また、アマドコロとナルコユリは食用や薬用にもなるが、ホウチャクソウは有毒植物なので、春の山菜採りの際は注意が必要だ。

アマドコロの花は筒状の合弁花で、茎には稜がある (2011‎年‎5‎月‎8‎日 所沢市)

ナルコユリも合弁花だが、花と花柄の接点には突起があり、茎は円柱形 (‎2006‎年‎6‎月‎4‎日 東京都薬用植物園)

■ホウチャクソウと日本人
 在来種であり、白い釣鐘状の花を持つ似た者同士の旧ユリ科3兄弟の待遇は、随分と異なる。ホウチャクソウは、有用な山菜植物の採集を混乱させる悪役として過ごしてきた。このためか、古典文学や詩歌の世界で取り上げられることも、伝統行事に登場することも無い。最近、遺伝子情報に基づいた植物分類法で、ホウチャクソウはユリ科からイヌサフラン科に変更された。広く海外に分布するイヌサフラン科に属するイヌサフランやグロリオサ、サンダーソニアなどの植物の花は美しく、日本でも観賞植物として園芸用に栽培されているが、やはり有毒種が多い。世界的な観点からは、ホウチャクソウはイヌサフラン科にしては地味な花姿ではあるが、精緻な花の構造を継承した日本固有のイヌサフラン科の植物であり、これまでと異なる概念で評価すべきだ。