チュウゴクアミガサハゴロモ - 忽然と現れた外来昆虫
チュウゴクアミガサハゴロモ(中国編笠羽衣)は、中国原産の外来昆虫。名の由来は文字通り、中国原産で、成虫の羽の形状が"編笠"のように見えるハゴロモ科の昆虫の仲間だから。ちなみに、ハゴロモ類の幼虫は、羽衣のように白い綿状の物質を分泌して体を覆っているのが特徴だ。チュウゴクアミガサハゴロモの成虫は、一見すると蛾のような姿をしているが、実はカメムシ目に属し、セミと同様に樹液を吸い取ったり、枝に産卵したりして樹木に危害を加える害虫である。この害虫が外来種として、現在進行形で中国から世界各地に急速に進出して、注目を浴びている。2010年には韓国、2018年にはトルコと南フランス、2021年にはドイツ、2022年にはイタリアやロシアで、そして日本には2018年頃に渡来した。このため、国内の地方自治体や農業団体が、チュウゴクアミガサハゴロモに対する注意喚起活動を続けている。例えば、狭山茶の本場である埼玉県の茶業研究所では、"新害虫チュウゴクアミガサハゴロモの発生に注意"と言うチラシをつくり、茶畑における注意事項を列挙し啓蒙活動を進めている(詳細はここをクリック)。

【基本情報】
・名称:チュウゴクアミガサハゴロモ(中国編笠羽衣)
・別名:-
・学名:Ricania shantungensis
・分類:カメムシ目 頸吻亜目 ハゴロモ科
・原産地:中国
・分布:欧州、韓国、日本などに広がりつつある
■生態
チュウゴクアミガサハゴロモは、幼虫から羽化して成虫の姿になるが、その変化が劇的であるため、同じ昆虫とは思えなかった。卵は若い木の枝に、年2回産み付けられるので、強力な繁殖力がある。孵化すると、幼虫が枝に沿って並び、所々綿の塊が点在しているように見える。よく見ると、これが動くこともあり、顔も足もあって、漸く生物だと気がつく。腹部から白い繊維状のものを広げており、これが羽衣を彷彿とさせ、奇妙な姿をしている。



成虫となったチュウゴクアミガサハゴロモは、あまり活発には動き回らず、植物の茎や葉の上で群れていることが多い。人が近づいても至近距離になるまで飛び立たない。成虫の形状は編笠のようであり、翅の模様も藁で編んだように繊細だ。前翅の縁の中央部に一対の白点がある。正面から見ると、同じカメムシ目のセミに近いように思う。複眼と前足が目立ち、樹液を吸う口吻は後方に伸びる。しかし、後方から見ると、全身が大きな翅に覆われているので、蛾のようだ。成虫も幼虫に劣らず、ユニークな造形だ。




■何故、急激に拡散したのか?
日本でチュウゴクアミガサハゴロモが見つかったのは、2018年に大阪が初めてだが、10年も経たないうちに国内に拡散してしまった。海外でも十数年前から始まった現象なので、中国からの輸出増加の時期に、貨物や植木などに紛れて意図せず人為的に持ち込まれたのかもしれない。現地の中国には天敵である寄生バチが存在するが、日本では肉食性のカマキリやテントウムシ、鳥などが、昆虫一般として捕食しているだけなので、バランスが取れず個体数が増えているようだ。
日本にも類似種のアミガサハゴロモ(編笠羽衣)がいるが、主にカシ類に棲みついている。一方、チュウゴクアミガサハゴロモは、ツバキ科、ブナ科、マメ科、ムクロジ科、モクセイ科、カバノキ科、クワ科など多様な植物を好み、これらが揃った日本の棲息環境は素晴らしかったので、これも拡散に寄与した要因だ。
もう一つの要因は、気候の温暖化が考えられる。東南アジアでも生息するチュウゴクアミガサハゴロモは南方系の外来種であり、気候温暖化にともない、生息地が北上する可能性がある。日本国内でこれまでに注意喚起を行ったのは、神奈川県、埼玉県、福岡県、山梨県、東京都、群馬県、熊本県、富山県、千葉県、奈良県、大阪府、栃木県で、未だ東北地方には至っていないが、今後の動向には注意が必要だ。
チュウゴクアミガサハゴロモの拡散を防ぐ手段は無いものだろうか。日本には、未だ本種に効果的な登録農薬はない。原産地に生息する天敵の寄生バチを導入する方法も考えれれるが、日本の在来生物への影響は未知数だ。茶畑や栗林などの農作物に限定して、防虫ネットや被災した枝を切除しても、農地以外でも増え続けるので対症療法に過ぎない。今後、研究開発が進めば、日本の自然環境な中で効果的な対策が出来る様になるかもしれない。そして、チュウゴクアミガサハゴロモが、夏から秋にかけての日本の風物詩とならないよう期待している。


