セイタカアワダチソウ - 日本では侵略的外来種、故郷では薬効植物

 セイタカアワダチソウ(背高泡立草)は、キク科アキノキリンソウ属の多年草。北アメリカ大陸の原産で、日本には明治時代末期に観賞目的で渡来し、昭和40年代以降に全国で爆発的に繁殖するようになった。これは、アメリカからの輸入物資についてきた種子が原因と言われている。戦後の減反政策によって、栄養豊富な休耕田に外来種の3mを超えるような背の高い草が突然繁茂し、騒動になった。繁殖地が在来種のススキなどと重なることもあり、侵略的外来種に指定され、現在でも各地の自治体で駆除の活動が続いている。突然、悪者扱いされたセイタカアワダチソウは、秋の花粉症の原因だとの嫌疑をかけられた。しかし、セイタカアワダチソウは虫媒花であり、真犯人は同時期に咲く風媒花のブタクサ(キク科ブタクサ属)であることがわかり、とんだ誤解も受けている。名の由来は、日本では背の高い草で泡立つように花が咲くことから"背高泡立草"、アメリカでは金の竿を意味する "Goldenrod" で、ともに外観を率直に表現したもの。
 生態的には、セイタカアワダチソウはアレロパシー(他感作用)を持つ植物として知られている。これは、根から化学物質(cis-DME)を出し、周囲の植物の成長を抑制する働きをする。cis-DMEに初めて触れる在来種の植物の勢いは衰えるが、地中のcis-DMEの濃度が高くなると、セイタカアワダチソウ自身の種子の発芽も抑制されるようになり、ススキなどの在来種が勢力を挽回する現象も出ている。
 原産地の北アメリカでは、セイタカアワダチソウは雑草ではなく、薬効のある有用な植物と見做されている。セイタカアワダチソウに含まれるポリフェノールやフラボノイド、サポニンなどの成分が、抗酸化作用、デトックス効果、免疫力向上などに作用し、入浴剤やハーブティー、オイルなどに利用されている。更に、養蜂家にとっては、冬を迎える前の貴重な蜜源植物にもなっている。所変われば、植物の評価も変わる。自然環境の相違と、その植物に対する人の理解の程度によるものだろう。日本のセイタカアワダチソウの将来は、どうなるのだろうか。

セイタカアワダチソウの円錐花序 (‎2025‎年‎10‎月‎10‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:セイタカアワダチソウ(背高泡立草)
 ・別名:セイタカアキノキリンソウ(背高秋の麒麟草)、ダイハギ(代萩)、ゴールデンロッド(Goldenrod)
 ・学名:Solidago altissima
 ・分類:キク科 アキノキリンソウ属の多年草
 ・原産地:北アメリカ大陸中北部
 ・分布:明治時代末期に園芸目的で渡来し、昭和40年代に全国各地で繁茂
 ・花言葉:力強さ、繁栄、生命力、元気、唯我独尊、記憶を持つ、変わらぬ愛

■生態
 セイタカアワダチソウは多年草で、種子ばかりでなく、地下茎でも繁殖する。河原や空き地などに群生し、高さは、土地の肥沃度によるが、1~4.5m程度にもなる。草姿はシンプルで、茎は枝分かれせず上に伸び、最上部に黄色い花序がつく。英名のGoldenrodの由縁だ。縦横に広がっている地下茎から、地上に茎が出て真っ直ぐに伸びる。茎や葉など、全体に短毛が密生する。これが近縁種オオアワダチソウとの顕著な相違だ。葉は茎に互生し、形は披針形で細かい鋸歯があり、3本の側脈がある。

群生するセイタカアワダチソウ (‎‎‎2020‎年‎10‎月‎25‎日 所沢市)

草姿は、茎は枝分かれせず上に伸び、最上部に花序がつく (‎2025‎年‎10‎月‎10‎日 所沢市)

縦横に広がっている地下茎から、地上に茎が出て真っ直ぐに伸びる (‎2025‎年‎10‎月‎10‎日 所沢市)

茎や葉など、全体に短毛が密生する (‎2025‎年‎10‎月‎10‎日 所沢市)

葉は互生し、披針形で細かい鋸歯があり、3本の側脈がある (‎2025‎年‎10‎月‎10‎日 所沢市)

■花
 茎の上部の葉腋から枝を出し、それに多数の蕾がつく。蕾は黄色みを帯び、短い花柄によって枝につながる。蕾が開花すると、頭花がついた枝が横に広がり、大きな円錐花序を構成する。個々の黄色い頭花は、枝の上側に規則的に並ぶ。キク科の植物らしく、頭花は舌状花と筒状花の集合体で、満開時には隙間なく連なる。頭花は、周辺に10個程度の舌状花、中心に数個程度の筒状花がある。舌状花は雌性だが、筒状花は両性花で果実をつくる。筒状花は、開花前は花被片がつながって楕円体のように見えるが、開花すると5弁の花になり、中央に雌蕊が伸びる。

茎の上部の葉腋から枝を出し、それに多数の蕾がつく (‎‎2023‎年‎9‎月‎26‎日 所沢市)

蕾は黄色みを帯び、短い花柄を持つ (‎‎2023‎年‎9‎月‎26‎日 所沢市)

蕾が開花すると、頭花がついた枝が横に広がり、大きな円錐花序を構成する (‎‎‎2006‎年‎10‎月‎9‎日 所沢市)

個々の黄色い頭花は、枝の上側に規則的に並ぶ (‎‎‎‎2025‎年‎10‎月‎8‎日 所沢市)

頭花は舌状花と筒状花の集合体で、満開時には隙間なく連なる (‎‎‎‎‎2025‎年‎10‎月‎10‎日 所沢市)

頭花は、周辺に10個程度の舌状花、中心に数個程度の筒状花がある (‎‎‎‎‎2025‎年‎10‎月‎10‎日 所沢市)

■果実
 花が終わると、花被片が枯れ、子房部分が目立つようになる。やがて、花序部分は白い綿毛に覆われる。この状態が"背高泡立草"の名の由来だ。果実は痩果で、中に1個の種子があり、綿毛によって拡散する。繁殖は、種子による方法と、地下茎の栄養繁殖もあり強力だ。

花が終わると、花被片が枯れ、子房部分が目立つようになる (‎‎‎‎‎‎2023‎年‎11‎月‎21‎日 所沢市)

やがて、花序部分は白い綿毛に覆われる (‎‎‎‎‎‎‎2023‎年‎11‎月‎28‎日 所沢市)

果実は痩果で、中に1個の種子があり、綿毛によって拡散する (‎‎‎‎‎‎‎‎2023‎年‎12‎月‎4‎日 所沢市)

■近縁種 オオアワダチソウ
 セイタカアワダチソウに姿形が良く似たものに、同属のオオアワダチソウ(大泡立草、学名: Solidago gigantea Aiton subsp. serotina)がある。遠目で見るとは、区別が出来ない程だ。北アメリカ原産で、日本では外来種として全国に定着している点も同じだ。両者の相違点は3つある。オオアワダチソウの背丈は、0.5~1.5mと、半分程度だ。また、葉や茎に短毛が密生するセイタカアワダチソウと異なり、毛がない。花の時期は、オオアワダチソウは夏だが、セイタカアワダチソウは秋だ。気が付かなければ、随分と長い間花が咲き続けていると錯覚しそう。キク科の瓜二つの雑草であるハルジオンは春、ヒメジョオンが夏に開花するのと類似している。

オオアワダチソウの花序 (‎‎‎‎‎‎‎‎‎2022‎年‎7‎月‎8‎日 所沢市)

茎や葉に毛は無く、表面は滑らかだ (‎‎‎‎‎‎‎‎‎‎2025‎年‎7‎月‎13‎日 所沢市)

■セイタカアワダチソウと日本人
 日本では、何かと評判の悪いセイタカアワダチソウだが、最近の研究成果では、癌細胞に対して増殖抑制効果を持つことが明らかになった。広島大学の研究グループが"セイタカアワダチソウから新たな抗癌活性物質を発見"を公表した(詳細はここをクリック)。セイタカアワダチソウ抽出液から、分裂酵母を用いて、細胞内で輸送にかかわるタンパク質の一種であるヒト14型キネシン(HSET/KifC1)の働きを阻害する新規低分子化合物(低分子コラベン酸誘導体)を同定することに成功した。その化合物が実際に乳癌細胞に対して増殖抑制効果を持つことを明らかにした。本研究で行った分裂酵母を利用した阻害剤探索アプローチは、ヒト疾病治療薬シーズを体系的に発掘するためのブレークスルーとなる発展性を秘めている。
 実際に癌細胞に対し、増殖抑制効果が確認できたのは大きな成果だと思う。将来の癌治療に新しいアプローチが出来ることを期待したい。これが、あのセイタカアワダチソウによって実現されたのは、大きな驚きだ。