カルドン - 地中海の鮮やかな巨大アザミ
カルドン(英語:Cardoon)は、キク科チョウセンアザミ(Cynara)属の多年生宿根草本。日本では属名をチョウセンアザミ(朝鮮薊)としているが、異国からきたアザミに似た植物と言う意味でそうしたらしい。大陸伝来と勘違いしたのだろうか。実は、カルドンは地中海沿岸地方の原産で、古代ギリシャ・ローマ時代から食用野菜としても利用されてきた。しかし、繁殖力が強いため、移出先のた南米や豪州などでは侵略的外来種として、自生する雑草として扱われている。日本では江戸時代に渡来したが、現在では植物園や好事家の庭に観賞用として限定的に植栽されているのが実情だ。カルドンの姿は、日本の植物とはかけ離れた異国風の風貌だ。花も葉も大きく鋭角的で複雑な形状をしており、ダイナミックな印象を与える。一度でも目にすると、強烈な印象が残り忘れられない。同属の植物にアーティーチョークがある。これは、カルドンを原種とする改良品種で、欧米では野菜として栽培され、姿も良く似ているがややマイルドな感じがする。両者とも長い期間に野菜としての品種改良が進み、形や色のバリエーションが豊富なためか、両者を判別するのは難しいこともある。しかし、原種のカルトンは野性的な印象が強く、地中海の鮮やかな巨大アザミと呼ぶのに相応しい存在感がある。

【基本情報】
・名称:カルドン(英語:Cardoon)
・別名:-
・学名:Cynara cardunculus
・分類:キク科チョウセンアザミ(Cynara)属の多年生宿根草本
・原産地:地中海沿岸
・分布:欧米では野菜として、南米や豪州では侵略的外来種として、日本では稀に観賞用として植栽される
・花言葉:高貴な心、独立、気高さ、誇り、持続、持久力
■生態
カルドンの繁殖は、種子によるもの、株分けなどの栄養繁殖も可能だが、通常1年目はロゼット状態で越冬し、翌春に茎を高く伸ばして花を咲かせる。早春の若い株は地表に根生葉を広げ、晩春になると株は成長して、直立した茎を2m程度まで伸ばす。葉は奇数羽状複葉で茎に対し互生し、小葉は深く裂け、葉軸には翼がある。同じカルドンでも、野菜作物として品種改良も進んでいるためか、葉や茎の色合いが異なるものもある。茎は太く、所々に疎らな小さな棘がある。





■花
カルドンはキク科アザミ亜科の植物であり、花の成長過程や構造はアザミと同様だ。茎の先に頭状花序をつけるが、頭状花には舌状花は存在せず全てが筒状花で構成され、総苞が多数の筒状花を束ねている。カルドンで特徴的なものは、総苞の周りにつく総苞片の先が鋭く尖っていること、時として総苞が紫色を帯びること、そして花径が10cmを超える程の巨大さだろうか。





頭状花を構成する個々の筒状花の構成は、雄蕊を包む葯筒と雄蕊の葯、そして雌蕊の花柱と柱頭が一直線に並ぶ。初めは、葯が葯筒の中に収まっているが、成長すると葯筒が下がり雄蕊の葯が葯筒からはみ出し、花粉を出す。花粉は昆虫によって他の花の運ばれる。花粉が枯れると、今度は雌蕊の柱頭の先が2裂し、他の花からの花粉の受け入れが可能となる。このような雄性先熟の手順を踏み、自家受粉を防いでいる。




昆虫にとっては、巨大で遠方からの視認性が良く、花粉も豊富なカルドンの頭状花のスペースは、絶好のたまり場だ。花粉を運ぶミツバチ、吸汁性害虫のハゴロモ類の幼虫、何故か小さなショウジョウバエ、そして小ぶりな獲物を狙うハナグモなどの訪問者で賑わっている。




■果実
花の時期が終わると、それぞれの筒状花は果実をつくる。果実は、痩果であり、果皮と種子が癒着して綿のような冠毛が付着している。痩果は、総苞の中に大量につくられ、風によって冠毛のついた種子を順次拡散する風媒花だ。なかには、冠毛がついたまま越冬するものもある。


■近縁種 アーティーチョーク
アーティチョーク(英名: Artichoke、学名: Cynara scolymus)は、同属の多年草で、別名はチョウセンアザミ(朝鮮薊)。やはり、地中海沿岸原産で、欧州では若い蕾を食用とする野菜で、カルドンから改良されたと言われている。両者は外見上は背格好も大きさも似ているが、総苞片で区別できる。アーティチョークの総苞片は丸みを帯びているが、カルドンの総苞片は鋭く尖っている。アーティチョークは穏やかだが、カルドンは野性的な雰囲気がある。また、食用と言う観点で主な可食部分は、アーティチョークは蕾を、カルドンは蒸し煮にした茎を利用するようだ。


■カルドンと日本人
カルドンを食用にする習慣が無い日本では、この植物を見かける機会は稀で、もし遭遇したなら、その異国風の姿が個性的なものとして印象に残る。しかし、原産地の欧州や海外の移入先では自生する雑草でもあるので、彼の地の人々が抱く印象は異なる。オランダの研究者が"カルドンの超臨界二酸化炭素油から得たバイオディーゼル油(和訳)"(概要はここをクリック)の中で、バイオディーゼル油生産のための再生可能原料としてのカルドン種油を評価し、ディーゼルエンジンの燃料規格(EN 14214規格)をクリアしていることを示した。バイオディーゼルの原料としては、従来はサフラワーやひまわりを原料にしたものが知られていたが、これにカルドンが加わった。同様に、日本でも全国で大量に繁茂するクズの葉や蔓を原料としたバイオマスの応用研究が始まっている。世界各地で地域の実態に合致したこれらの活動が、地球の温暖化を防ぐ手段となることを期待したい。


