東京パノラマドライブ - 都会に映える街路樹

 東京の近郊に住んでいると、仕事や所用で都内に出かける機会はあるが、日帰りするのが常であり、未だに東京に詳しいわけでは無い。務めを卒業して暇を持て余す身分になると、この際お上りさんになって、東京見物でもしようか…という気分になった。ガイドさんの説明付きで、東京の名所を要領よく巡る方法はないか…と調べてみると、はとバスの2階建てオープンバスによるTOKYOパノラマドライブなるツアーを見つけた。これは、東京駅丸の内南口を出発して、日比谷公園、霞ヶ関、国会議事堂、虎ノ門ヒルズ、東京タワー、レインボーブリッジ、お台場、 豊洲、勝鬨橋、築地、歌舞伎座、銀座を車窓から眺める小一時間の旅だ。

 はとバスのターミナルは、東京駅丸の内南口を出て直ぐの線路沿いにある。2階建てバスと言えば、赤いロンドンのバスが有名だが、今回乗るはとバスは観光用なので、天井が無く開放的だ。都会の風景は、歴史的な建物と高層ビル、公園などが入り混じり、それらを分け隔てる道路の両側には、必ずと言ってよいほど街路樹が植えられており、街の雰囲気を演出している。これも街散歩の楽しみだ。バスターミナル側の歩道の街路樹はトウカエデであり、道路を挟んで向こう側には、プラタナスの街路樹が並んでいる。今は、青々と繁っているが、秋になり木々が色づき、葉が落ちた冬には、どのような景色になるのだろう。また、近くのオフィスビルの野外テラスには、常緑のシマトリネコの植栽があった。最近は、街路樹のみならずビルの緑化も、環境整備の一環として推奨されているのだろうか。

はとバスのターミナルは東京駅丸の内南口

2階建てオープンバスは、まさに青天井

バスターミナル側の歩道の街路樹はトウカエデ

道路を挟んで、向こう側にはプラタナスの街路樹

オフィスビルの野外テラスにはシマトリネコの植栽(東京ビルディング)

 バスが発車すると、瞬く間に皇居、日比谷公園、霞が関を通り抜け、国会議事堂へ。ここで見かけたのは、修学旅行と思われる高校生の集団。そう言えば、数十年前に北海道から修学旅行で国会議事堂を見学した際に、地元の代議士先生が"お父さん、お母さんに宜しく"とわざわざ挨拶にきたが、今でもこの習慣は続いているのだろうか。次は、いよいよ東京タワー。近づくに連れ、遠近法に従い形状が極端に変形され、迫力満点。東京タワー付近の街路樹はクスノキが多く、ちょうど良い高さに満開の花が咲いていた。芝公園付近を進行中に、変わったビルがあった。壁一面を1本の樹木に見立てたデザインで、人工的に引いた線で囲まれた緑色の部分には、実際の植物が植栽された壁になっている。素晴らしいアイデアの緑化ビルだ。更に進むと、今度は超高層ビルが現れた。ビルを囲む壁は、ほぼ全面ガラスで構成されているので、それに空の雲が映されて、ビルの背景の空との連続して繋がっているように見え、しかも下方には東京タワーまで映っていて、東京の空を映す鏡のようだ。人工物のビルでも、自然との親和性を感じさせる不思議な表現だ。

オープントップのバスから眺める東京タワーの風景

東京タワー直下を通過する際は、迫力満点

東京タワー付近は、クスノキの街路樹が多い

芝公園付近で、壁一面を1本の樹木に見立てたビルを発見(長谷川グリーンビル)

超高層ビルの窓ガラスには雲の様子が映される(麻布台ヒルズ森JPタワー:高さ325.40m)

 バスはいよいよ東京湾の湾岸道路に入る。遠くに見えていたレインボウブリッジが近づいてくる。橋に乗り入れて、バスから上方を見ると、この吊り橋を支える主塔やそれに繋がるケーブル類が目に入り、柔軟で強固な吊り橋の構造に感心する。湾岸道路を進むと、右に左に様々な景色が拡がる。右側には大井埠頭があり、動物のキリンを連想させるコンテナ積み降ろし用のクレーンが並んだコンテナターミナルが見える。そして少し進むと、最近すっかりお馴染みになったお台場の町並みが見える。そして、左側都心方向には、晴海地区に高層ビル群を望むことが出来る。未だ建設中のものもあり、これらは東京湾の新しいランドマークになりそうだ。世界一高い東京スカイツリーは、高層ビルの隙間から時折姿を見せ、バスがどの方向に進行しているかを教えてくれ、あたかも、東京を海原に例えると、灯台のような役割を果たしている。

芝浦付近から見るレインボーブリッジ

吊り橋を支える主塔とケーブル類

大井埠頭に並ぶキリン形コンテナ・クレーン

お台場方面の景色

東京湾の晴海地区に拡がる高層ビル群

高層ビルの隙間から、時折東京スカイツリーが姿を見せる

 湾岸道路から再び上陸すると、左手に築地から2018年に移転した豊洲市場が現れる。機能の異なる複数の分散した建物からなる卸売市場なので、外観的にはやや地味かもしれない。先に進むと、跳開橋として有名な勝鬨橋があるが、残念ながら現在は開かない。勝鬨橋を渡ると、直ぐに築地場外市場に着く。卸売市場移転後も、一般の人には便利なためか、今でも人通りが多く賑わっている。更に進むと、右手に歌舞伎座が現れる。現在の建築は、背後に建つオフィスビルと一体化した複合施設として、2013年に完成した。伝統を守りながらも、手堅い方法と思う。最後に、銀座を巡った。銀座と言えば、新しい高いビルが増えたとしても、やはり銀座四丁目交差点に面した銀座和光ビルが、今でも銀座の象徴だ。

2018年に築地より移転した豊洲市場の風景

勝鬨橋を渡ると築地場外市場で、今でも賑やかで人通りが多い

今の歌舞伎座は、背後の高層ビルとともに2013年に開館

銀座四丁目交差点に面した銀座和光ビルは、銀座の象徴

 小一時間の巡遊の後、バスは東京駅丸の内南口に戻ってきた。しかし、ここには東京駅があるので、あえて寄り道をする。東京駅と言えば、多くの路線が交わるターミナル駅であり、いつもは1階や地下の通路を右往左往している事が多い。2階以上は利用する機会は少ないが、ホテルや美術館がある。この東京駅丸の内駅舎は、鉄骨レンガ造りのルネサンス様式の建築物で1914年に完成したが、戦災で一部焼失し、2012年になって漸く復原工事が完了した。特に左右のドーム部分がオリジナルの8角形に戻された。風格のある洋風建築であり、国の重要文化財になっている。丸の内側には広場があり、街路樹もある。樹形は強く剪定されて随分丸くなっているが、葉や幹を見るとケヤキのようだ。ケヤキ並木の下にはベンチがあり、休憩や待ち合わせの場所になっているようだ。

8角ドームに復元された東京駅(新丸ビルより)

東京駅丸の内側にはケヤキの街路樹

 これまでは、仕事にしろ遊びにしろ、都内のある地点を目的地にして足を運んでいた。今回の物見遊山のバス旅では、はからずもこれらの地点の位置関係が分かり、点から面に理解が拡がったような気がする。また、都会の街路樹は街の雰囲気を演出するだけでなく、環境改善の観点で植栽されているものもあり、心強く思った。樹木が山地や都会など、何処に存在しようが、人間が樹木に求める気持ちは変わらないのだろう。