タナカゲンゲ - 美味しい変顔魚

 タナカゲンゲ(田中玄華)は、スズキ目ゲンゲ亜目ゲンゲ科マユガジ属に分類される魚。サハリンや朝鮮半島など、北部の海域が主な分布域。日本では、北海道のオホーツク海周辺と北海道から東北までの日本海側の水深100メートルを超える深い海に生息する。奇妙な名の由来は、魚類分類学者の田中茂穂による。しかし、その顔つきから別名はババ、ババア、ババチャン、ナンダ、キツネダラなど、愛想のある名が並ぶ。しかし、性格は獰猛で、鋭い歯と大きな口で深海に生息する甲殻類など捕食する肉食性。体長は1m前後にもなり、体表には不規則な褐色の斑模様があり、小さな円鱗はあるものの表面は粘液で覆われている。そして、腹鰭は小さく、背鰭、尾鰭、臀鰭はつながっている。何とも、奇妙な風体だ。だが、タナカゲンゲの価値は姿にあるのではなく、淡白な白身とゼラチン質を含む上等な食材として珍重され、鍋やフライ、唐揚げなどになる。ただ、生息域が限定され深海魚でもあるので、関東地方の鮮魚店では滅多にお目にかかれないのが残念だ。
 表現上のポイントは、先ず顔で人間か犬か狐を思わせる変顔を剽軽に描くこと。次に鰻のようにつながった長い鰭を表現するため、鰭の輪郭線は波打たせ、柔らかさを強調する。更に体表面の斑点模様は、褐色と一部灰色で点描し、立体感を持たせる。これだけやっても、残念ながら美味しさは表現できない。【2025年制作】