フキ - 驚きの二面相

 フキ(蕗)は、キク科フキ属の多年草。フキの語源については、冬に黄花を咲かせるため"冬黄(ふゆき)"を略した説もあるが、詳細は不明。早春に地上に現れる花茎のフキノトウ(蕗の薹)と、山菜として知られる円い大きな葉のついた中空の葉柄であるフキが、実は同じ植物であると聞いて驚く人もいる。キク科の植物としては珍しい雌雄異株であり、生態的にも特異な存在なのかもしれない。日本原産で、全国各地に自生するが、フキノトウもフキも山菜としてのニーズは高く、愛知や大阪などでは栽培もされている。また、フキは食用ばかりでなく、薬用植物としての側面もあり、苦味健胃薬として胃もたれや、咳や痰を抑制する効果もあると言われている。更に、日本の詩歌の世界では、"蕗"に関係する言葉は春の季語とされ、現代に至るまで多くの作品が生み出されている。このように、フキは古来から日本人にとってお馴染みの存在だ。しかし、現代人にとってフキで思い起こすのは、何と言っても春の訪れを感じさせるフキノトウの天婦羅だろう。何と爽やかな苦みだろう。それを味わうと、フキの不思議を調べたくなる。

花のフキノトウと葉のフキは地下茎でつながる同一植物 (‎2025‎年‎3‎月‎27‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:フキ(蕗)
 ・別名:ヤマブキ、カントウ(款冬)、フウキ(富貴)、など
 ・学名:Petasites japonicus
 ・分類:キク科 フキ属の多年草
 ・原産地:日本
 ・分布:北海道から沖縄まで全国各地、海外では樺太、朝鮮半島、中国
 ・花言葉:公正な裁き、待望、愛嬌、真実は一つ

■生態
 フキの構成要素は複雑。地中は根茎が地下茎となって長く伸びて広がり、地上には花となる部分(フキノトウ)や葉となる部分(フキ)を伸ばす。早春に、鱗状の苞に包まれたフキノトウの花茎が地上に現れ、やがて花へと変化していく。フキは雌雄異株なので、雌雄それぞれの株の花の生育プロセスが変化に富み、興味深い(後述)。開花後に、地下茎から葉柄を伸ばして葉が成長する。地上に現れたばかりの葉は丸まっているが、葉が開くと大きなハート形になり、葉縁には鋸歯があり、表面には艶はなく、薄い毛が生える。葉の裏は葉脈が目立ち、茎に相当する葉柄にも薄く短い毛があって縦に筋が入り、茎の内部は中空だ。フキは地下茎を介して成長するので、フキの葉もフキノトウも群生する。

苞に包まれたフキノトウの花茎が、地上に現れる (‎‎2004‎年‎2‎月‎1‎日 東京都薬用植物園)

地上に現れた葉は、初めは丸まっている (‎2025‎年‎3‎月‎27‎日 所沢市)

葉の形は、大きなハート形で、葉縁に鋸歯があり、艶はなく薄い毛が生える (‎2025‎年‎3‎月‎27‎日 所沢市)

葉の裏は葉脈が目立ち、葉柄にも薄く短い毛がある (‎2025‎年‎3‎月‎28‎日 所沢市)

地下茎を介して、フキの葉もフキノトウも群生する (‎‎2023‎年‎3‎月‎29‎日 所沢市)

■花
 フキノトウの花茎の苞が開くと、茎先に散房花序に沿って、円弧を描くように頭花が並ぶ。フキノトウの頭花を構成する多数の小花は舌状花はなく、全て筒状花だ。フキは雌雄異株だが、花に関しては、ここまでは雌雄共通だ。
 雄株のフキノトウには、雄花がつく。これは多数の筒状花の集合で、最初は黄色みを帯びた蕾が出来、やがて周辺から雄花が咲き始める。雄花は両性花であり、5裂した花冠、黄色い葯、そして白く長い雌蕊の花柱があるが、柱頭に花粉がついても受精できない。雄花は蜜を出して昆虫を集めて、花粉を雌株の雌花に運んでもらうのが役割で、それが終わると枯れる。

雄株の花茎の苞が開くと、茎先に散房花序に頭花が並ぶ (‎2025‎年‎3‎月‎28‎日 所沢市)

雄花は全て筒状花で、黄色い蕾が周辺から5裂した花冠を持つ雄花に変化し、花粉を供給する (‎2024‎年‎3‎月‎9‎日 所沢市)

雄花の筒状花は白く伸びた雌蕊もあり両性花だが、花粉を受けても結実しない (‎‎‎2025‎年‎4‎月‎10‎日 所沢市)

 一方の雌花の頭花は、やはり筒状花だが、長い雌蕊を持つ小さな雌花が多数並んでいる。しかし、密も花粉も無いので、昆虫にとっては魅力がない。このためか、筒状花の中央部に、雄の小花のダミーを所々に配置して、昆虫を雌花まで誘導しているようだ。このダミーの雄の小花は、密は出すが花粉は無いので繁殖には寄与しない。実に巧妙な仕掛けだ。やがて、雌株の花茎は更に上方に伸び、頭花は伸びてきた冠毛が目立つようになり、キク科のタンポポのように、白い冠毛がついた果実(痩果なのでほぼ種子)を風によって飛ばす準備をする。フキの繁殖方法は、この種子による方法の他に、地下茎による栄養繁殖による方法、そして、栽培の場合は株分けによる方法もあり、万全だ。

雌株の筒状花には、細長い小花の雌蕊が多数飛び出している (‎2015‎年‎3‎月‎22‎日 東京都薬用植物園)

雌株の頭花の中央部には、雄の小花のダミーが混じることがある (‎‎‎‎2025‎年‎4‎月‎23‎日 所沢市)

やがて、雌株の頭花は、伸びてきた冠毛が目立つようになる (‎2025‎年‎4‎月‎4‎日 東京都薬用植物園

雌株は受精後も花茎を伸ばし、白い冠毛がついた果実を飛ばす準備をする (‎‎2025‎年‎4‎月‎21‎日 所沢市)

■フキと日本人
 古くから日本人の生活に関わってきたフキは、各地に様々な伝説を残している。北海道のアイヌの伝説では、小さな神様コロポックルはアキタブキの葉の下に隠れ、道行く人に悪戯をしたり手助けしたりするという。アキタブキ(秋田蕗)とは、本州北部から北海道に自生するフキの大型の亜種で、特に北海道の足寄町に自生するものはラワンブキ(螺湾蕗)と呼ばれ、わずか2ヶ月で茎の高さが2~3mにもなり、北海道遺産にも選定されている。何故、そのような大きなフキが出来るのかを調査した研究成果がある。
 九州大学の研究グループが公開したプレスリリース"日本一巨大なフキ「ラワンブキ」はなぜ大きいのか? ―巨大化の原因解明に挑む― "(詳細はここをクリック)では、十勝の足寄町の螺湾川周辺のラワンブキを観察し、上流の雌阿寒岳の麓から流出する河川水に窒素、リン、カリウム、マグネシウム、カルシウムといった植物の成長に必要な栄養分が、平均的な河川水よりも約10倍程度多く含まれていることを突き止めた。この結果をもとに、ラワンブキの生育環境を模して肥料を施し、巨大化する事実を実験的に検証した。これは河川の水質とその流域に自生する植物の特性が整合した稀有なケースなのだろう。効率的な農産物の栽培には、栽培地の環境と作物の成長促進要因の最適化が重要だと思う。