ビワ - 微妙にずれた季節感
ビワ(枇杷)は、バラ科ビワ属の常緑広葉高木。DNA分析などにより、シャリンバイ属との説も浮上しているが、決着はついていない。原産地は中国南西部だが、奈良時代以前に日本に渡来し、四国や九州でに帰化したものが自生しているらしい。現在では果樹植物として品種改良され、関東以南の温暖な地域で栽培されている。ビワの名の由来は、中国名"枇杷"の音読み説や、果実の形が楽器の琵琶に似るからとの説がある。ビワの花期は冬で、褐色の産毛の覆われた小さな花は地味だが、花の少ない時期に芳香と密を持つので、昆虫や鳥を引き寄せる。果実は初夏に黄橙色に熟して実り、果物として食用になる。一般的な植物とは、花や果実の時期が半年程度ずれているのは、生存競争に有利なのだろうか。ビワの利用価値としては、食用やビワ茶になる他に、葉は"枇杷葉"、種子は"枇杷核"と呼ばれる生薬になり、咳止めや美容、消化器官の維持に効用がある。また、木材は硬くて粘りが強いので、杖や剣道の木刀にもなる。更に、文学の世界では、"枇杷"や"枇杷の実"は梅雨の頃に実がなるため仲夏(6月6日~7月6日頃)の季語、"枇杷の花"や"花枇杷"は花が咲く初冬(11月8日~12月7日頃)の季語になっている。ビワは、日本人には馴染み深いが、微妙にずれた季節感に特異性を感じる。

【基本情報】
・名称:ビワ(枇杷、比波)
・別名:中国名:枇杷、蘆橘
・分類:バラ科 ビワ属の常緑広葉高木(シャリンバイ属との見解もある)
・学名:Eriobotrya japonica
・原産地:中国南西部、日本の四国、九州に帰化したものが自生
・分布:日本では、関東以南の温暖な地域で栽培される
・花言葉:温和、治癒、密かな告白、愛の記憶、あなたに打ち明ける
■生態
ビワの枝葉は旺盛に成長し、人手を加えなければ樹高は10mにも及ぶが、果実のつきが悪くなる。ビワの栽培樹は、枝葉の剪定して、毎年果実を収穫できるよう樹高を数mに抑制しているようだ。幹は根から直立し、樹皮は剥離して斑模様になる。春になると、枝先から葉の新芽がでる。葉は、短い葉柄を介して枝に互生する。葉の形は、長楕円形で先端は尖り基部は次第に細くなり、葉脈が目立ち、周辺に鋸歯がある。葉の表面は光沢があり、裏面は細い毛があり黄色味を帯びる。







■花
初冬に、花芽は新しい枝の先にでき、円錐花序を形成する。花序は寒さに耐えるため淡い褐色の毛に覆われている。寒さによる全滅の危機を避けるため、個々の花は、少しずつ時期をずらしながら咲く。寒い冬であっても、昆虫や鳥を集めるため、芳香や密で誘導する。花は両性花で、自家受粉も可能なので、厳寒でも充分な保険はかかっている。花弁は白く5弁で、控えめに外側に開く。花の構造は、萼は5枚、花弁は5枚、中央に雌蕊があり柱頭の先は5裂し、その周辺に雄蕊が20本ある。





■果実
春になり、花が終わり花弁が落ちると、開口部が閉じ、子房ではなく花托が肥厚して偽果をつくる。果実の形状は楕円体で、未熟なうちは緑色で薄い産毛に覆われている。初夏に向けて、果実の熟成が進行し、果皮は緑色から橙黄色に変化する。果実の先端部には萼の痕跡が残る。果実の中には、大きな数個の赤褐色の種子があるので、食べられる果肉部分は全体の3割程度しかない。ビワの繁殖は、栽培では接木や挿し木の他、実生も可能。実生の場合は結実まで7~8年かかるが、自家結実性のため、他品種を混植する必要はなく、他の地域に逸出する可能性があり、環境保護上注意が必要だ。




■ビワと日本人
ビワの起源は中国南西部だが、日本には自生種もあり、栽培品種もある。しかし、その歴史的経過は文献のない有史前の出来事でもあり、確かな根拠のない状態で推測の域に留まっていた。この課題に対し、佐賀大学等の研究グループが、世界中から収集したビワのゲノム配列の比較を初めて実施し、ビワの歴史的系統を解明した。その論文"日本へのビワ伝来の謎を紐解く!~世界のビワのゲノム研究を実施~"(詳細はここをクリック)の要点は、
・現在の日本の栽培品種は、中国ビワから派生し、多数の品種がもたらされた。
・日本の自生ビワは、元来日本で生育したものか、大昔に中国から渡来した両方の可能性がある。
・日本と中国以外の系統(アメリカ、メキシコ、イスラエル、ギリシャ、ベトナム)は、東南アジア諸国に由来する可能性があるが、中国から欧米を経てベトナムにもたらされたものの可能性も残る。
結論としては、これまでの通説をおおよそ是認することになったが、ビワの系統が科学的に解明できたので、今後の育種で格別に美味しいビワが誕生するよう期待したい。
