アベリア - 正体は花園衝羽根空木
アベリアと表現されるものには、2つの対象がある。1つはスイカズラ科ツクバネウツギ属(Abelia)に属する植物の総称、もう1つはツクバネウツギ属の交配種アベリア(Abelia×grandiflora)であり、今回は後者をテーマにする。アベリアの和名はハナゾノツクバネウツギ(花園衝羽根空木)と呼ばれる。衝羽根と表現するのは、正月の羽根つきの羽根が花が落ちたあとの萼の形に似ているため。アベリアの出自は複雑で、中国原産の Abelia chinensisと Abelia uniflora の交雑といわれ、19世紀末にイタリアの種苗会社によって最初に育成され、日本には大正時代末期に渡来し、戦後の緑化ブームを契機に全国へ広まり、人家に近い街路や緑地、マンション等の生垣などで植栽され、すっかりお馴染みになっている。花期は初夏から晩秋までと長く、点在する白い花が多くの昆虫を引き寄せ、大変賑やかだ。しかし、何故か果実が実ることはなく、種子はできないので、自然界へ流出することはない。庭木として優れた特性を持っているが、人間と共生していく運命にある。

【基本情報】
・名称:アベリア
・別名:ハナゾノツクバネウツギ(花園衝羽根空木)、ハナツクバネウツギ(花衝羽根空木)
・学名:Abelia×grandiflora
・分類:スイカズラ科 ツクバネウツギ属の半常緑性広葉低木
・原産地:中国原産の Abelia chinensis と Abelia uniflora の交雑種で、19世紀末にイタリアの種苗会社によって最初に育成
・分布:日本では、主に関東以西で植栽される
・花言葉:平和、安らぎ、知恵、勝利
■生態
樹形は、自然のままの株は上方で枝分かれして広がり、樹高は2m程になる。生け垣などで植栽される場合は、人手で強く剪定されるので、整った樹形になる。株元から、多数の細い幹が直立して伸び、幹は古くなると樹皮は灰褐色になり、縦に縞模様が入る。若い枝は光沢のある紅色で細かな毛がある。幹の上方では、小枝は枝に対生し、葉は小枝に対生するか、複数の葉が輪生する。葉は、表面は光沢がある暗緑色で、形は先端が尖った卵型で鈍い鋸歯がある。





■花
冬になると、枝の先の方の葉の脇に小さな花芽が付く。これが成長すると、萼片と蕾ができる。萼片は大きく、茶から紫色を帯びるが、その数は基本は5枚だが、一部融合して2~4枚のもある。アベリア(Abelia×grandiflora)の両親のアベリア・シネンシス(Abelia chinensis)の萼片は5枚、アベリア・ユニフロラ(Abelia uniflora)の萼片は2枚で、アベリアの萼片の数は個体によって異なるようだ。今年枝の先に円錐花序ができて、花をつける。花は両性花で、形は漏斗状で先端は浅く5裂する。花の中央に雌蕊があり、その周辺に白い葯を持つ雄蕊が4本ある。花弁の内側には、網状紋はなく、細かな毛が密生する。






冬になると花は落下し、枝の先には萼片だけが残る。従って、果実はできず、種子による実生はできない。繁殖は、人手による挿木や株分けによって行われる。

■アベリアに集まる昆虫
真夏の酷暑の時期は、花を咲かせる植物は少ない。アベリアは初夏から晩秋まで花をつけ、しかも甘い芳香を放つので、多くの昆虫が蜜を吸うために集まる。しかし、いくら密を提供しても、受精には結びつかないアベリアは、他利主義の何と高尚な植物だろう。







■園芸種
アベリアは園芸種としての歴史があり、多くの品種が育成されている。大雑把に2つに分類でき、花の色や形状が異なるものと、葉の色が黄色味を帯びて模様が入る班入りのものである。ここでは、当地でよく見かけるピンクの花を咲かせる園芸種を挙げておく。

■アベリアと日本人
庭木としてのアベリアは、美的鑑賞にも、繁殖方法に関しても優れた特性があることは既に述べた。昆虫との関係では、密を求めて多くの昆虫を呼び寄せているが、その一方で、アベリアの花や葉を食べる(摂食)する害虫について、興味深い研究成果がある。近畿大学の研究グループが"近畿地方におけるアベリアの害虫"(詳細はここをクリック)の中で、2つの点に言及している。1つ目は、アベリアを摂食する害虫は5種で、サクラ類の158種と比べ圧倒的に少なく、ツゲの2種並であり、害虫に出会う機会が少ない。2つ目は、ある害虫の幼虫の飼育実験で他の植物を摂食させ、それをアベリアに切り替えると生存率が低下した。アベリアには、特定の害虫には栄養的に不充分な要因があるようだ。この結果から、アベリアは害虫の摂食に強い植物と言えそうだ。やはり、庭木にふさわしい。