ヒイラギナンテン – 庭木にしてはタフな存在
ヒイラギナンテン(柊南天)は、メギ科メギ属の常緑低木。原産地は中国南部、台湾、ヒマラヤで、江戸時代初期に渡来し、日本では庭木や公園樹として植栽されている。名の由来は、葉が同じメギ科のナンテンのように複葉で、小葉がヒイラギのように棘があるからと言われている。ヒイラギナンテンは地面から直立する幹の先に、同心円状に傘のように多数の複葉や花序を並べ、特異な形状をしている。早春には多数の黄色い花、初夏にはたわわに実った果実、秋には紅葉も加わり、他の植物よりも早めの成長を続けながら、季節ごとに見応えのある風情を見せ、鑑賞用の庭木として相応しい。しかし、日本での歴史が比較的浅いためか、実用性や文学上で言及すべき点は無いのが実情だ。果たして、ヒイラギナンテンに明るい未来はあるのだろうか。

【基本情報】
・名称:ヒイラギナンテン(柊南天)
・別名:トウナンテン(唐南天)、チクシヒイラギナンテン、マホニア
・学名:Berberis japonica
・分類:メギ科 メギ属の常緑低木
・原産地:中国南部、台湾、ヒマラヤ
・分布:日本には江戸時代初期に渡来し、現在は日本各地で植栽されている
・花言葉:激しい感情、激情、愛情は増すばかり
■生態
ヒイラギナンテンは、主に庭木や散策路の傍らに植栽され、随時剪定されるので、1m程度の樹高になる。人手が加わらない場合は、樹高は人の背の高さを超えることもある。株から数本の幹が上方に伸び、あまり枝分かれはせずに。枝の先端に複葉や花序が集中し、構造的には不均衡ではあるが、複葉も花序も長くて緩やかに垂れ下がるので、大きく見えて視覚的印象はバランスが取れている。幹の樹皮はコルク質で灰黒色を帯び、不規則な割れ目がある。葉は奇数羽状複葉で、枝の先端付近で互生する。複葉の中の小葉は茎に対生し、先端の1枚の小葉を除き葉柄はない。小葉は革質で厚みがあり、周辺に鋸歯があり、その先端は鋭く、ヒイラギの葉に似ている。晩秋には紅葉するが、その程度は個体や陽当りなどの環境によってかなり異なり、春の開花の時期になっても紅葉のままの場合もある。







■花
冬に、枝の先端から放射状に蕾のついた複数の総状花序を伸ばす。春になると、総状花序の基部に近い蕾から開花が始まる。花の構造は、花弁と萼がともに黄色く、大きさも近いので分かりにくい。花を側面から見ると、萼は3重になっていて花柄に近い方から、小、中、大の萼が各3枚、計9枚あり、内側の大きな萼の内側に花弁がある。花を正面から見ると、中央に雌蕊が1本、その周辺に雄蕊が6本、その外側に先が浅く2裂した花弁が重なりながら6枚ある。花に昆虫が止まると、中心の雌蕊に向かって花粉のついた雄蕊が動き、昆虫は花粉がついた状態で他の花に移動し、受粉が成立する仕掛けになっているようだ。そうすると、雄性先熟の性格も持っているようだ。花期が過ぎると、花弁や、萼の一部が落ち、膨らんだ子房が現れ、果実へと成長していく。





■果実
果実は液果で、表面に白い粉をふき、始めのうちは表面は緑色だが、やがて紫から黒くなる。但し、熟す速度はそれぞれの果実によって異なるようで、色の濃淡が違う果実が混在する時期がある。熟成が進むと、表面に皺が目立つようになる。鳥が果実を食べると、種子が消化されずに排泄されて広範囲に拡散され、繁殖する。また、植栽されるものは、挿し木による増殖が普通のようだ。



■近縁種 ホソバヒイラギナンテン
ホソバヒイラギナンテン(細葉柊南天)はヒイラギナンテンと同属の常緑低木。中国原産で、日本では観賞用樹木として植栽されている。ヒイラギナンテンとの外見上の相違は、文字通り小葉が細長いこと。生態的には、花期は秋から初冬で、ヒイラギナンテンより早い。紅葉はしないと言われているが、陽に焼けたせいか赤味がかった葉はよく見かける。当地でも、お馴染みの庭木になっている。


■ヒイラギナンテンと日本人
縁起担ぎの好きな日本人は、葉が魔よけのヒイラギ、実が"難を転ずる"ナンテンと似ていることから命名されたヒイラギナンテンを、縁起木として鑑賞してきた。しかし、ヒイラギナンテンは種子から実生できるので、庭木としては繁殖力は高い。繁殖をサポートする昆虫や鳥が多い地域では、在来植生を混乱させる可能性が懸念されているとの見解がある。"ヒイラギナンテン 虫利用し受粉勢力拡大"(詳細はここをクリック)。ヒイラギナンテンが生物多様性に及ぼす影響は未知だが、可能性として考慮すべきなのかもしれない。