ドクダミ - 雑草か、薬草か、観賞花か

 ドクダミ(蕺草)は、ドクダミ科ドクダミ属の多年草。1属1種で日本の在来種。梅雨の時期になると、周囲が紫がかったハート形の葉が緑の絨毯をつくり、その上に白い花や蕾が点々と散らばって宇宙のような広がりを感じさせ、なかなかの風情だ。しかし、繁殖力が強く、道端や畑地に群生するだけではなく、庭の敷石の隙間からでも茎を伸ばす。駆除のため手で引き抜くと、独特な臭気とともに茎はポキポキ折れ、少しはきれいになった…と思っているうちに、再び勢いを取り戻しまた絨毯ができる。かなり、根性のある雑草だ。だが、ドクダミは、ゲンノショウコやセンブリとともに日本の三大民間薬草のひとつだ。生薬は効能が多いので"十薬"と呼ばれ、内服薬にも外用薬にもなる。更にドクダミは健康茶やハーブとしても利用されている。このため、有用植物として、わざわざ栽培されたりもする。また、園芸種として、花の形状や、葉に斑模様の入った品種があり、鑑賞用として庭園や植物園で鑑賞できる。ドクダミには様々な顔があり、厄介な奴でもあり、役に立つ奴でもあり、何か不思議な奴だ。

開花時期のドクダミ (‎2007‎年‎6‎月‎9‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ドクダミ(蕺草、蕺、蕺菜)
 ・別名:ジュウヤク(十薬)、イシャゴロシ(医者殺し)、スイダシグサ(吸出)、ジゴクソバ(地獄蕎麦)など、英名:fish mint
 ・学名:Houttuynia cordata
 ・分類:コショウ目ドクダミ科 ドクダミ属の多年草、1属1種
 ・原産地:日本を含む東アジア、東南アジア
 ・分布:日本では北海道南部から、本州、四国、九州
 ・花言葉:白い追憶、野生、自己犠牲

■生態
 ドクダミは、多年生の草本であり、有毒ではないが全草にアルデヒド由来の特有の臭気がある。地下に細長い地下茎(匍匐茎)が横に伸びて分枝し、その節から根が出て栄養分の吸収と物理的に株を支えている。地上に出た茎は紫色を帯びて上に伸び、高さは20~60cm程度。葉はまばらに互生し、葉の形はハート形で周辺は滑らかで紫色を帯びることがある。葉脈は掌状で数本。葉柄の基部に托葉がつき、鞘状に茎を抱き、はじめは小さな新芽を包む。新芽は蕾のような形をしており、花となる部分を白い総苞が覆っている。

地下茎に沿って、地上に紫色の茎が伸び、葉をつける (‎2024‎年‎5‎月29‎日 所沢市)

葉はハート形で、周囲は滑らかで紫色を帯びる (‎‎2024‎年‎5‎月‎8‎日 所沢市)

蕾のような総苞が花となる部分を覆う (‎2024‎年‎5‎月‎5‎日 所沢市)

■花
 初夏になると、茎の上部の葉の脇から花序柄を伸ばす。その先には総苞に包まれた蕾のような物ができる。この中に小さな花が密集した穂状花序がある。一見すると花弁のような4枚の総苞片が開き始めると、穂状花序が現れる。1つの花には、雌蕊の白い花柱が3本、その周囲に黄色の葯を持つ雄蕊が3本あるが、花弁や萼が無いのが構造上の特徴だ。また、外側からは見えないが、花の基部に小さな突起である小苞が存在する。後述するヤエドクダミでは、これが総苞片のように発達し、花弁のように見える。穂状花序の中では、花は下から咲き始める。そして、花序の上部が開花する頃には、下部の花の雄蕊が落ちて緑色の果実ができ始める。

総苞が開き始めると、穂状花序が現れる (‎2024‎年‎5‎月‎5‎日 所沢市)

花には花弁は無く、雌蕊の白い花柱が3本、その周囲に黄色の葯を持つ雄蕊が3本 (‎2012‎年‎6‎月17‎日 所沢市)

穂状花序の中では、花は下から咲き始める (‎2012‎年‎5‎月‎26‎日 所沢市)

穂状花序の上部が開花する頃には、下部の花の雄蕊が落ちて果実ができ始める (‎2012‎年‎6‎月‎10‎日 所沢市)

■果実
 沢山の花が咲き、ハナバチも訪問してくれるのだが、何と日本のドクダミは有性生殖を行わず、胚珠が無性的に種子になる(無融合種子形成:Apomixis)らしい。それでも種子はできるが、受精を伴わない繁殖体は親植物と遺伝的に同じクローンとなるらしい。果実は蒴果で、宿存する花柱の間で裂開する。蒴果に含まれる種子は卵形で0.5mm程度。もう一つの繁殖方法は、地下茎の分断化などによる栄養繁殖も頻繁に行われそうなので、こちらの効果はかなり強力なのではないだろうか。

ドクダミは受粉せずに結実するので、ハナアブには気の毒 (‎2013‎年‎6‎月‎2‎日 所沢市)

花が終わると子房は果実となり、花序がそのまま果穂になる (‎2002‎年‎6‎月‎22‎日 所沢市)

■ドクダミの園芸種 2種
 ドクダミの同属の園芸種で、特徴のあるものを2つ紹介する。ヤエドクダミ(八重蕺草、学名:Houttuynia cordata var. plenu)は、ドクダミの八重咲き品種。ドクダミの花の基部にある小苞が総苞片のように発達し、花弁のように見える。花の形以外はドクダミと変わらない。

ヤエドクダミは個々の花が白い総苞片を持ったもの (‎‎2005‎年‎5‎月‎29‎日 東京都薬用植物園)

総苞片が開ききった頃の花 (‎2006‎年‎6‎月‎4‎日 東京都薬用植物園)

 ゴシキドクダミ(五色蕺草、学名:Houttuynia cordata cv. Chameleon)は、江戸時代に日本で品種改良されたものが渡欧し、日本に逆輸入された。葉に赤や黄色、白、薄黄、ピンクの斑が入いり、カメレオンプラントとも呼ばれる。葉の色彩以外はドクダミと変わらない。

ゴシキドクダミ(カメレオン・プラント)の様子 (‎2024‎年‎6‎月‎5‎日 東京都薬用植物園)

ゴシキドクダミの葉の模様 (‎2005‎年‎7‎月‎17‎日 東京都薬用植物園)

■ドクダミと日本人
 ドクダミは有用植物として、企業が産業として栽培、加工し、ビジネスにもなっている。しかし、小さな庭を持つ市井の人は、雑草であるドクダミと何時も戦っている。除草剤を撒けば済むことだが土壌汚染につながる。この問題に対応できそうな研究成果がある。東北大学の研究グループが "地下茎は葉の形を変えて地中を伸び進む ドクダミやイネ科の雑草がはびこる仕組みの一端を解明" を公表した(詳しくはここをクリック)。ドクダミのような植物では、茎が横方向に伸びる茎(匍匐茎)と同時に、上方に伸びる茎も持つ。地下にある匍匐茎は、寒さや乾燥などの環境変化に強く、ドクダミが旺盛に繁殖するのに有効である。これまで、地下茎の成長メカニズムの研究はあまりされていなかった。地下茎につく葉の葉身が長ければ、地下でしっかりと茎を這わせることができるが、葉身が短ければそうはいかない…と言う仕組みを解明した。そして、この現象はBOP(BLADE ONPETIOLE)遺伝子によって制御ができるので、この研究成果を使えば、地下茎を持つ植物の生産や雑草駆除に寄与できるとの趣旨だ。更に実用的な手段が構築されると、強烈な臭気の中でのドクダミ刈りから開放されるのだろうか?