ツワブキ - 晩秋の高尚な植物

 ツワブキ(石蕗)は、キク科ツワブキ属の常緑多年草。東アジアが原産地で、日本の在来種でもある。ツワブキは、葉はフキの葉に似ているが光沢があり、晩秋に黄色いタンポポのような花が茎の先に多数つけるので、周囲の秋景色の中で、黄色と緑のコントラストが際立つ。ツワブキの名の由来は、艶のある葉を持ったフキ(艶葉蕗:つやはぶき)からの転化説や、厚い葉を持ったフキ(厚葉蕗:あつはぶき)転化説がある。やはり、ツワブキを特徴づけるのは、ユニークな葉の特性なのだろう。日本では東北地方以南の海岸や岩地に自生するが、常緑で花も美しいので、日本庭園や神社仏閣でも植栽されている。姿形を愛でるだけではなく、食用や薬用に利用され、江戸時代には品種改良も行われて古典的園芸植物としての一面も持つ。日本人にとっては、ツワブキは有象無象の植物の範疇ではなく、有用でもあり、高尚な植物としてのステータスを感じさせる。

ツワブキの姿 (‎2003‎年‎10‎月‎26‎日 所沢市)

【基本情報】
 ・名称:ツワブキ(石蕗)
 ・別名:イソブキ、イシブキ、ヤマブキ、ツワ、ツワナ、ツヤブキ、ハマブキ、など
 ・学名:Farfugium japonicum
 ・分類:キク科 ツワブキ属の常緑多年草
 ・原産地:日本、中国、台湾、朝鮮半島南部
 ・分布:東北地方南部以南の本州、日本海側では石川県から西の地域、四国、九州、南西諸島
 ・花言葉:謙遜、困難に負けない

■生態
 春から夏のツワブキの姿は、背の低いフキのようだ。地下の根茎から、長い葉柄を介して数枚の根生葉が出る。形は丸い腎臓形で、厚く艶がある。秋になると、花茎が伸びて根生葉の高さを遥かに超え、数十cm程度になる。花茎の先の方は何段かで複数の花柄につながり、散房花序をつくる。先端につく花は頭状花で、多数の花の集合体である。また、茎の分岐点には小さな托葉がつく。

株は、数枚の根生葉の上方に花茎を伸ばし、先端に散房花序がつく (‎2018‎年‎10‎月‎27‎日 所沢市)

根生葉は葉柄が長く、丸い腎臓形で、厚く艶がある (‎‎2024‎年‎11‎月‎24‎日 所沢市)

花柄の基部に托葉があり散房花序が伸びて、複数の黄色い頭状花がつく (‎‎2024‎年‎11‎月‎24‎日 所沢市)

■花
 ツワブキの花は、多数の花が集まって束ねられている頭状花だ。このため、蕾の段階から筒のような総苞が多数の花を包み込み、そして総苞片が茎との間をしっかりと支えている。頭状花には、外周部にある舌状花と、中央部にある筒状花の2種類の花がある。舌状花は長い花冠を持ち目立つが、雄蕊はないので雌花として機能する。筒状花は、最初は雄蕊から花粉を出し、その後に雌蕊が出現するので、機能的には両性花だ。何れの花も子房を持っているので、受精すると果実はできる。

蕾が開花を始める (‎‎‎2012‎年‎10‎月‎27‎日 所沢市)

花柄の先に緑色の総苞片と筒状の総苞があり、頭状花を束ねている (‎2024‎年‎11‎月‎24‎日 所沢市)

花には2種類あり、外周に舌状花、中央部に筒状花が並ぶ (‎‎2009‎年‎10‎月‎17‎日 所沢市)

花の構造、筒状花と舌状花

 では、実際に花の構造がどの様になっているか、写真と照合してみよう。頭状花の周辺の長く黄色い花冠が開くと、それが舌状花の開花の時であり、先端が2裂した花柱が外側に向けて伸びる。このとき、筒状花は未だ蕾の状態だが、外側にある筒状花から花冠が次第に開き、花粉の放出を始める。これが、筒状花の雄性期だ。やがて筒状花の花冠の上にある葯の先から雌蕊の先から2裂した花柱が現れると、筒状花は雌性期に移行する。ここまで来ると、頭状花は全面的に花柱だらけになり、早晩花の勢いは衰えていく。

頭状花の周辺にある舌状花は、中央部の筒状花より早く開花する (‎2009‎年‎10‎月‎11‎日 所沢市)

筒状花の雄性期には、蕾が開いて雄蕊の葯が現れる (‎‎2010‎年‎11‎月‎13‎日 所沢市)

筒状花の雌性期には、中央部からも花柱が立つ (‎2020‎年‎11‎月‎22‎日 所沢市)

 晩秋の寒くなる時期に、明るい黄色の花が鈴なりに咲くツワブキは、昆虫たちの絶好のターゲットだ。花の蜜を求めて花粉を運んでくれるアブやハチ、チョウなどの他に、花を食べる小さな甲虫のハムシや、小昆虫を狙うクモなどで、ツワブキの頭状花の中は結構賑やかだ。

キゴシハナアブ (‎‎2018‎年‎11‎月‎25‎日 所沢市)

クロヒラタアブ (‎‎‎2018‎年‎11‎月‎25‎日 所沢市)

キンケハラナガツチバチ (‎‎‎‎2006‎年‎10‎月‎28‎日 新宿御苑)

ヤマトシジミ (‎‎‎‎2009‎年‎10‎月11‎日 所沢市)

花を食べるハムシの仲間 (2022年11月3日 東京都薬用植物園)

■果実
 冬になると花は枯れ、子房が大きくなって果実ができる。果実は痩果で中に種子が1個入っている。果実には冠毛が生えており、花を束ねていた総苞が割れ、風を受けると、タンポポの種子のように空中に拡散される。但し、植栽の場合は、株分けによる増殖法方法が一般的だ。

冬になると、花冠は枯れる (‎‎‎‎2025‎年‎1‎月‎8‎日 所沢市)

筒状の総苞が割れると、果実につながる冠毛が見える (‎‎‎‎‎‎2025‎年‎1‎月‎8‎日 所沢市)

やがて冠毛が露出し、風によって種子は運ばれる (‎2024‎年‎12‎月‎17‎日 所沢市)

■園芸種
 園芸種としてのツワブキの栽培は、江戸時代に武士の精神修養を目的として始まったが、やがて町人にも拡がって、多くの品種改良が行われた。こうして、ツワブキは古典園芸植物の地位を確立した。具体的には、葉の形状や模様、八重などの花の咲き方、等々。現代でも散策中に、葉に黄色い斑点がある園芸種"青軸天星”に出会う機会がよくある。

葉に黄色い斑点がある園芸種"青軸天星” (‎‎‎‎‎‎‎2018‎年‎11‎月‎11‎日 所沢市)

■ツワブキと日本人
 ツワブキが日本文化の中で特別な存在になったのは、古典的園芸植物へと進化したり、冬の季語として俳句で詠まれるようになった江戸時代以降と思われる。それ以前は、海岸や山野に自生する雑草の扱いだったのだろう。そうすると、現在では同じ遺伝子を持ちながら、荒ぶれた環境に育つ野生のツワブキと、人が住む地域で観賞用として庭で大切に育てられたはツワブキが存在している。これらの間に、生態的に相違があるのだろうか? この課題に取り組んだ研究成果がある。東京都市大学の研究グループは、ツワブキを研究対象として、"花を支える頑丈な花茎も、台風などの強風に耐えるため短く適応することを発見"と題してプレスリリース(詳細はここをクリック)し、環境によって、植物の形態が変化することを実験的に証明した。そして、この花茎の頑健性の変化には、花茎の細胞壁量の違いと異なる維管束型が関与しているのではないかとの推定している。庭園では優雅に長く伸びている花茎だが、野生地では身を屈めて花茎を短くして風に立ち向かうツワブキの姿が想像できる。植物は自然環境に対してアクティブに生きているのだ。